見出し画像

Skills as a Currencyってどういうことか

リスキリングが日経新聞などで扱われるくらいにメジャーな概念になってきたり、または人的資本開示の流れも来ていたりするなかで、このSkills as a Currencyという言葉もちらほら聞こえてくるようになった。直訳すると「通貨としてのスキル」。これは訳として間違っていない。しかし、訳したところでなんのことなのかよく分からない。この言葉を理解するには、通貨の特徴を振り返りながら、スキルの現在地を確認しておく必要がある。

ちなみにこれは、Skills = Money、という意味ではないとは予め断っておきたい。確かにSkillが転職市場などで人材の価値基準として使われているのはわかるが、MoneyではなくCurrencyと言っているのは、Skills as a Currencyがそれとは違う現象を説明しようとしているからだ。

通貨の特徴は3つ

まずは通貨の特徴から。以下の3つがそれと言われている。ごく当たり前なことだけど、これを改めて確認しないと謎が解けない。

  1. 計測できる。

  2. 流通できる。

  3. 蓄積できる。

1. 計測できる

ひとつずつ広げてみよう。まず「1.計測できる」。価値を定義できるということだ。バナナは一房200円。牛乳は1リットル250円。通貨がなかった時代にこれらはかなり曖昧だったはずだ。あるバナナ農家と酪農家の間ではバナナ10房と牛乳2リットルが交換されていたかもしれないし、別の取引においてはバナナ5房とヤギ乳2リットルが交換されていたかもしれない。一方でヤギ乳と牛乳は2リットル同士で交換されていたり、なんて言うことが多分起こっていたはずだ。これらが、通貨によって「相場」を汎用的に定義できるようになった。一度通貨で相場を定義してしまえば、基本的には通貨を介したフェアな取引が遥かにスムーズにできるようになる。

2. 流通できる

これは価値交換の触媒になれるということだ。牛乳と交換してほしいために毎回バナナを持っていっていたら、大変な重労働だろう。それに、酪農家はバナナがほしいとは限らない。であれば、その代わりに牛乳に交換できる通貨を持っていけばいい。酪農家もその通貨と牛乳を交換してくれるだろう。なぜならば、酪農家はその通貨の価値を信用していて、その通貨を別のもの(ヤギ乳など)と交換できるとわかっているからだ。

3. 蓄積できる

これは通貨は腐らないということだ。酪農家に合うためにバナナを持っていくとして、酪農家に会えるのが5日後だとする。果たしてその時バナナは無事だろうか?腐ってしまっていては、バナナとは交換してもらえいないかもしれない。でも通貨は腐らないから、価値を保存することができる。バナナ農家はまず新鮮なバナナを買ってくれる人にバナナを売り、そして通貨を手にする。その通貨は1ヶ月後であっても1年後であっても牛乳と交換することができる。

スキルの現在地

通貨については上記3つを押さえていればOK。次にスキルだが、これは文脈的な話になる。スキルというものが今どうなっているのか、トレンドのことだ。

1. 学歴から学習歴へ

個々人の能力の管理の解像度が上がってきた。前なら「XX大学YY学部卒業」というレベルで「あの人は優秀だ」というような感じだった(今も多分にその要素はあるだろうけれど。。。)。が、これからは「XX大学YY学部のZZ研究室でブロックチェーンの先端研究をしていました」とか、もしくは「MooCでXXのスキルを好成績で修了しました」とかいう話になってくる。「A大学」と「B大学」は、偏差値的な比較しかできない。しかし、「機械学習」「ブロックチェーン」「デザイン思考」なら、様々な教育機関がこのようなスキルの習得を支援している。そして、このスキルをベースにすれば人のビジネスにおける価値が管理できる。

Cさんはマーケティングとインストラクショナルデザインができる。Dさんはインストラクショナルデザインとデザイン思考ができる。いま探しているポジションに必要なスキルはインストラクショナルデザイン×デザイン思考だから、Dさんを採用しよう。乱暴にいうならこんな事ができる用になってきている(人材要件において本当に大事なのはハードスキルではなくソフトスキルだという話はよく分かる。が、実はソフトスキルだって定義可能だし、学習可能だ)。

2. スキルがポータブルになる

個々のスキルの定義が広くシェアされ認識が揃っていくということは、それがポータブルなものになるということだ。つまり、A社で使っていたPythonのスキルは、B社でも活かせるはずだ。

これは昔からそうだった、といえなくもない。転職市場や人材派遣市場においては特に。では今起こっていることはなにかというと大きく2つ。①転職市場などだけではなく、社内でのリスキルの管理や人材配置などにおいてもこのスキルポータビリティが活用されるようになってきている。②ポータブルなスキルの定義が以前より拡大している。かつては「TOEIC800点」とか「日商簿記2級」とか「Excel検定1級」とかだけだったけれど、いまはAWSやSAP、Salesforce、SCRUMやデザイン思考などのCertificationも増えてきている。

3. スキルの道具箱

スキルは個々人に溜まっていく。そして溜まったスキルは再利用できる。あくまで道具だから、どのように使っても構わない。むしろクリエーティブな使い方を見つけてこそ面白みが出てくる。例えば定規は本来長さを測る道具だが、紙をまっすぐに切るのに使うことだってできるように。

スキルが、通貨の性質を帯び始めた

多少まどろっこしい書き方をしてきたのは、通貨の特徴と、スキルの現在地を重ねられるように説明しようとしてきたためだ。通貨の3つの特徴と、スキルの現在地3つは対応している。つまり、スキルは、通貨のように、計測でき、流通でき、蓄積できるものになってきた、ということだ。これが「Skills as a Currency」の意味するところだ。

ところでなぜ今「スキルが通貨の性質を帯び始めた」のか?というと、実はオープンバッジがドライバーと言っていい。オープンバッジの登場によって、公的資格だけに頼らずにパブリックなスキル認定が可能になった。この仕組みが社会に浸透していくのはまさに「通貨としてのスキル」が社会に流布していくことと同義になる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?