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ビストロに学ぶラーニングメニュー

コロナ禍によってDXが加速したと言われる。ご多分にもれずラーニング業界も大きく変わった。いや、本当は提供者側がやっていることはそれほど変わらないのだが(e-LearningやZoomセッションは昔からあった)、受ける側のパーセプションが大きく変わったのだ。

リモート冬の時代(@日本)

嘗て日本ではリモート研修は定着しないと言われた。その最大の理由は、東京への一極集中だ。対面形式とWeb形式を伝播力だけで比較するならば、やはり対面に分がある。講師はバーバルだけでなくノンバーバルな伝達手段をフル活用して伝えることができるし、受け手も物理的に教室に入ることでノイズが入らず、集中しやすい。

それに対して対面のコストはその外側にある。その最大のものは移動コストだ。講師も受講生も時間をかけて一定の場所に集まらなければならないし、終わったら帰らなければならない。1時間のセミナーのために往復2時間かけるとしたら、要する時間コストは3倍だ。しかし、これは許容範囲とみなされていた。(ちなみに他国はもともとWeb形式にポジティブだった。例えばUSであれば集合のためには飛行機で半日かかったりするわけで、移動コストが高すぎる。また小さい国でも一国内ではマーケットが小さすぎて、セミナーに出席するには他国へ出張しなければならない様な状況もあった。日本は東京で何でも賄えてしまう、特殊な環境だった。ただし本当は「ラーニング企画者がそう思っていた」だけで、実は日本にだって移動コスト問題は存在しており、その声が企画者に届いていなかっただけだ)

もちろんこの状況を打ち破ったのはコロナ禍だ。「集う」という手段を封じられた時点で、Web形式一択になった。ただしコロナ禍初期において、スタンスは大きく二分された。一つは、Web形式は一時しのぎの代替手段であり、コロナ禍が過ぎ去れば(当時は夏が来れば収束するなど楽観的な見通しが多かった)すぐ元に戻れる。だから、Web形式はどうしてもやらざるを得ない場合に限り必要最小限の方法で実施する、という考え方。もう一つは、コロナ禍はただのきっかけであり、今後Web形式の良さが浸透していくと、仮にコロナ禍が収束してもすべてが集合形式に戻るということはない。であれば、これを機に、Web形式を極め、対面を超える体験を提供しよう、という考え方。コロナ禍に突入して丸2年過ぎた今、少なくともラーニング業界においては後者の考え方が増えているように思う。

で。Web形式の学びが受け入れられるようになったと言いつつ、この「Web形式」が何を意味しているかというと、大きくZoomセッションなどのWebライブと、ビデオやインタラクティブなWeb Learningの2つに大別される。前者は同期的、後者は非同期的な学びだ。

実は「コロナ禍で大きく変わった」のは、前者のLiveセッションだ。非同期学習の方は、コロナ禍以前からそれほど変わっていない。いわゆるMooCsはそれに当たるだろうし、大学以外でも優良なラーニングコンテンツサイトが数多く存在している。例えばUdemy、Coursera、LinkedIn Learning、CornerstoneなどはUIも工夫されていて、受け始めると結構楽しく学ぶことができる。

折角用意したのに。。。

ということで、実はこの非同期ラーニングコンテンツを契約している企業は多い。しかしその多くは、こんな問題に直面していないだろうか。つまり、「せっかく素晴らしいコンテンツが学び放題なのに、誰も使ってくれない」という問題だ。これは、非同期ラーニングそのものが駄目なのではない。提供の仕方を工夫する必要がある。

考えてみれば当然だ。人は選択肢が多すぎると、そこから自分に適切なものを選び取るために考えを巡らせるのに疲れてしまう。例えば、チーズを買うとすると、エダムとゴーダとミモレットの3択ならすぐに選べるのに、100種類がズラッと並んでいたら、多分近寄るのにすら躊躇するかもしれない。一歩乗り越えて眺め始めても、途中で飽きて離脱してしまう人もいるだろう。

よって、解決すべき問題は絞りこまれる。多すぎるメニューの中から、どうやって社員が選択のストレスを感じずに自分に適切なものを選び取れるようにすることができるか?といいうことだ。そして、ここまで一度抽象化すると、実は世の中にヒントとなるノウハウは溢れている。そのうちの一つとしてぜひ参考にしたいのがビストロだ。

できるビストロがやっていること

外食が好きな方なら、多分「行きつけのビストロ」があるかもしれない。そこには色々なメニューがあるだろう。しかし、「種類が多すぎて選べないから食べるのをやめよう」と帰ってしまうことなんてないはずだ。

おそらく席につくと、まずは飲み物のメニューが置かれる。これくらいならそれほど困らない。ビールかワインか、グラスかボトルか、ある程度自分の嗜好は定まっているだろうから、そのカテゴリにあるいくつかの選択肢から選ぶだけ。それほど大変じゃない。こうして選択の第1段階はクリアされる。

第2段階が本番だ。今度は食事を選ぶことになる。飲み物よりは迷うだろう。そこで、良いビストロであればだいたいこんな工夫をする。

  • まず「今日のおすすめ」がある。普段通い詰めているビストロであればあるほど、いつもと違うメニューがあればそれを試してみたくなるだろう。新鮮な体験を求めているときはここから選べば間違いない。

  • 次に来るのは常備の「アラカルト」だろう。来ると必ず食べたくなる定番メニューなんていうのがあると間違いなくその店はいい店だ。

  • 最後に「コース・メニュー」がある。おそらくTPOに応じて何種類かあるだろう。パーティー用の大皿コースであったり、家族で楽しむ落ち着いたコースだったり、シェフの腕を堪能したいデギュスタシオンであったり。ちょっといいことがあってお祝いしたい気分だったり、久しぶりに会う友人とゆっくり食事を楽しみたかったりする場合、このカテゴリはとても有効だ。最後にサプライズ(誕生日祝いなど)を仕込むのにもいい。

私がおすすめしたいのはこの構成だ。ラーニングコンテンツサイトをそのまま提供しているだけの場合、それは「アラカルト」がひたすら並んでいるだけという状態だ。行きなれた店ならまだそれでもいいだろう、しかし初めて店を訪れる初心者には優しくない構成だ。まずは「おすすめ」を知りたいものだろう。しかもそれが自分のニーズを捉えたものであればあるほど、「ちょっと寄ってみようかな」という気分にさせられるものだ。

もう一つが「コース」だろう。多くのラーニングコンテンツは「バイトサイズ」(一口サイズ)だ。ちょっとした小腹を満たすのには良いけれど、記憶に残る一日にしたい場合それでは物足りない。つまり、日常学習だけでなく、いわゆる「リスキリング」のように明確な変化を求めている場合、そのニーズに対応するラーニングコースがあれば心強い。コースを終えたらプチギフト(デジタルバッジなど)をもらえれば、なお学習の定着効果とさらなる学習意欲に資するだろう。

ちなみに、嘗ては常連だったのに少し忙しくしているうちに足が遠のいてしまうこともあるだろう。今どきのビストロはそんな人にメールやLineなどでリーチすることもある。もちろん参考にすべきだ。

こう考えていくと、非同期のWeb Learningを成功させるためにL&Dに求められる仕事は、どの業者を選択するか、予算をどのように確保するか、ということにとどまらず、集客の工夫をする事も含まれることがわかる。というか、オンラインコンテンツが手軽に入手できるようになった今、むしろ「集客の工夫」こそがL&Dの中心的な役割とすら言えるかもしれない。この観点はまた別の機会に改めて展開してみたい。


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