ロコ・ソラーレ~シンデレラチームの魔法はまだとけない。

プロローグ。世界選手権プレーオフ直前。

このnoteは2月から書き始めて、ようやく世界選手権の最中、プレーオフ直前に仕上がりました。ひとえに、こちらの怠慢のせいです。

2023年の世界選手権の、ロコ・ソラーレは連敗、3連勝、3連敗、そして4連勝で予選通過をはたしました。決勝トーナメントも危うい状況に追い込まれ、彼女らの前途を危ぶむことも、ふと考えました。しかし、絶体絶命のピンチから這い上がれるのは日本のチームでは、ロコ・ソラーレしかありません。現時点でもこの結果は、やはり彼女たちの強さをより認識できる結果でした。このチームの未来はこれから明るくなるのだ、と思えてなりません。

というわけで、少し長めの、ロコ・ソラーレのnoteをお届けします。カナダのエイナーソンとのプレーオフ、ここからは神のみぞ知るところです。

ロコ・ソラーレの背中は遠いのか。

2023年のカーリング日本選手権、優勝したのはロコ・ソラーレだったが、今大会は2015年にチーム藤澤になってから、予選リーグで初めて2敗を喫した。土をつけた2チームの北海道銀行リラーズとフィロシーク青森は、ノリにノったプレーをみせて、さしものロコ・ソラーレもなすすべ無しといったところだった。スキップが20代というチームが増え、決勝トーナメントに残った4チームでもロコ以外の3チームが20代、確実に世代交代の波が女子カーリング界に押し寄せている。

だが、決勝戦をテレビ観戦して抱いた感想は、

「まだ、ロコ・ソラーレの背中は遠い。」

自分でもかなり意外なものだった。

スポーツに関しては、体力的には20代が圧倒的にアドバンテージがあるのだが、30代が3人の構成であるチームがまだ勝ち続けられると思えるのは体力だけではないチーム力が備わっていなければ勝てないということだろう。

それは、自分がロコ・ソラーレに肩入れしていることからくる錯覚かもしれないが、はたして。

チーム藤澤。運命の分岐点からの快進撃

ロコ・ソラーレが世界のトップに君臨しようとしているが、これは筆者の見立てからは外れている。

実は平昌五輪のあたりまでは、北海道銀行がスポンサーとなっていたフォルティウスに注目していた。2006年のトリノ五輪でカーリング娘として名を馳せた小笠原(旧姓・小野寺)歩と船山(旧姓・林)弓枝、この2人のファンといってもよかった。現役を一度退き、人生の道筋を確かなものにして、娘から母になって復帰する。スポーツ選手として生涯をかけて向き合うあり方を好ましく思っていた。

2014年のソチ五輪の後、フォルティウスはチームに変化を求めた。吉田知那美と袂を分かち、吉村紗也香と近江屋杏菜を迎え入れた。この2人と創設時からのメンバーである小野寺佳歩を加えた3人は身長160センチ以上で、強いスイープを軸にした攻撃的な戦術をとるチームになり、2015年の日本選手権で優勝し札幌で開催された世界選手権に出場した。日本カーリング界で女子において「大型」チームが出現した。フォルティウスなら世界と戦える、と確信に似たものを感じた。

その頃、中部電力女子カーリング部はどん底に喘いでいた。日本選手権を4連覇し、ソチ五輪を目指す大本命と言われながらも代表決定戦に敗れ、藤澤五月は人目を憚らずに泣きじゃくった。その姿は忘れることができない。

2015年にフォルティウスが優勝した日本選手権で、中部電力は決勝トーナメントに残れなかった。キャプテンの市川美余が現役を引退した。その年の日本選手権では精彩を欠き、試合中に藤澤が心ここにあらずという生気が抜けた表情が一瞬テレビ画面に映っていた。彼女は大丈夫なのか、心配になった。

そして、藤澤は中部電力を退団したというニュースが報じられたが、ほどなくロコ・ソラーレ(当時の大会出場表記はLS北見。以下ロコ・ソラーレで統一)に入部することが発表された。正直、藤澤と本橋麻里が並び立つチームがうまく回るのだろうか、それが素直な感想だった。ロコは本橋麻里がチームを立ち上げてスキップに収まって日本のトップを伺おうとしていた。そこに藤澤が入って、本橋とどちらをスキップにするのかは興味深かったが、藤澤がフォーススキップ、本橋がサードに入ることが発表された。これは小野寺亮二コーチの意向だといい、藤澤の実力を見込んでのことだろう。ただ、スキップをやったもの同士の意思疎通は時間がかかるはず。チームの熟成はそう簡単ではない。

ここで運命の分岐点がロコ・ソラーレに降りかかった。

パシフィックアジアカーリング選手権出場への代表選考を控えた頃に、本橋が妊娠したことがわかった。人生にとっては間違いなく慶事だが、実戦からは離れざるをえない。これでチームの最年長者で経験豊富な選手を欠いて代表選考に臨むことになった。20代前半の4人で戦うことになって、不安感でいっぱいだったに違いない。人生の喜びがチームの刷新を否応なくもたらす。

だが、ロコ・ソラーレは同世代チームになってからいきなり上昇カーブを描き始めた。

パシフィックアジアカーリング選手権日本代表決定戦・代表権獲得(2015年9月)

→パシフィックアジアカーリング選手権・優勝(2015年11月。パンコンチネンタル選手権の前身大会)

→日本選手権・優勝(2016年2月)

→世界選手権・2位(2016年3月)

スキップを交代してわずか半年余りで世界の頂が見えるところまで駆け上がったことに驚いた。チームの熟成には3、4年はかかると思っていたが、勝負ごとの予測はまず当たらない。

その後、ロコ・ソラーレは世界的人気と実力を兼ね備えたチームになり、2023年に入っても成長を続け実績を積み重ねている。筆者が世界的なチームになると見立てたフォルティウスは、メンバーの脱退と交代、スポンサーとの契約解除などが重なり日本代表以上世界未満の成績が続いている。

今回データを調べて驚いたのは、チーム藤澤五月が日本選手権で残した成績の凄さだった。

2011年 優勝(中部電力)
2012年 優勝(中部電力)
2013年 優勝(中部電力)
2014年 優勝(中部電力)
2015年 5位(中部電力)
2016年 優勝(LS北見) ※世界選手権2位
2017年 2位(LS北見)
2018年 協会の方針により不参加 ※平昌五輪銅メダル
2019年 2位(ロコ・ソラーレ)
2020年 優勝(ロコ・ソラーレ)
2021年 2位(ロコ・ソラーレ)
2022年 優勝(ロコ・ソラーレ) ※北京五輪銀メダル
2023年 優勝(ロコ・ソラーレ) ※世界選手権?位

出場12回で優勝8回、2位3回。スキップ藤澤五月の勝負強さが際立つ。この成績に迫るチームがこれから現れるのだろうか。

北京五輪、崩壊一歩手前

2022年の北京五輪から、早1年が経った。予選リーグでデンマーク戦での藤澤五月が見せたラストロックのダブルテイクアウト、予選敗退を信じ込んだ後に見せた泣き笑い、ジェニファー・ジョーンズやチーム・ハッセルボリからの祝福のシーン、そして世界選手権を3連覇したチーム・ティリンツォーニに準決勝で雪辱、など過酷な戦いと記憶に残るシーンが詰まった大会だった。

だが、そこに至るまでには、実はチームの中での意見の対立が表面化する事態もあった。

「常に穏やかに団結してきたわけではなかった。昨年(2021年・筆者注)9月の日本代表決定戦に向け、戦い方、体調の整え方をめぐって4人の意見が割れた。吉田知は『自分に可能性はない』と引退も覚悟。戸惑う妹の吉田夕の相談を、鈴木が温かく聞き入れた。」(信濃毎日新聞 2022年2月21日)

北京五輪につながる大一番を前にして、チームは崩壊の危機に瀕していた。

北海道銀行フォルティウス(当時)と戦った日本代表決定戦は2連敗から始まった。後がない状況に追い込まれてから、ロコ・ソラーレは目覚めた。運を引き寄せる方法をSNSで探し、彼女たちらしく明るく元気よく笑いを取り戻して吹っ切れた表情を見せ始めた。そこから反転攻勢に出て2連勝。そして運命の第5戦、藤澤がラストロックのドローを決めて勝ち切った。

その時、吉田知はその場にへたり込んで泣き崩れた。一度は引退を決意したどん底から這い上がった姿がそこにあった。嬉しさを通り越して体の力が抜けてしまったのだろう。この4人でなければ分かち合えない喜びと苦しみ、それを乗り越えた姿がそこにあった。失いかけた自分たちらしさを土壇場で取り戻し、再び五輪への扉をノックした。

そしてたどり着いた北京五輪の大舞台。ひょっとしたら金メダルもあるとは思っていたが、冷静に考えてみると、横綱を追いかける大関、関脇といったところが妥当な位置どりだった。それでも勝ち抜けたのがロコ・ソラーレの経験が成せる技だった。

運命の決勝戦の前日。任意参加の公開練習に、吉田知は参加しなかったようだ。静養を優先して英気を養うという判断はなんら間違ってはいない。

ただ、吉田知の疲労が極限まで達していたに違いない。チームのコミュニケーションの核が不調に陥ったとしたら、決勝はあんがいワンサイドゲームになる可能性はある。

そして始まった決勝。相手はイヴ・ミュアヘッド率いる英国。いつもの笑顔を4人は見せていたようだが、少し生気が抜けたように見えたのは筆者だけだっただろうか。結果は4-10で敗北。一度も複数点が奪えない完敗だった。決勝でのショット成功率は、吉田知が64%、藤澤が69%と落ち込んだ。吉田知には体力が限界に達していたのだろうか。アリーナで1試合だけ行う時のアイスリーディングも上手くいかなかったようだ。頂点が見えたところでの課題もまた大きかったが、平昌の銅メダルから4年後にひとつ上の輝かしいメダルを手にしたのは並の実力ではない。

頂点が見える限り、挑戦することをやめないのが、ロコ・ソラーレの本当の強さだ。カーリング界の番付は三役であったが、北京五輪後には大関から綱取りともいえる番付の駆け上がりは鮮やかなほどに早かった。

・日本選手権(第39回) 2022年5月
・アドヴィックスカップ 2022年9月
・パンコンチネンタル選手権 2022年10月~11月
・GSカナディアンオープン 2023年1月
・日本選手権(第40回) 2023年1月~2月

映像に映るロコのメンバーの表情は、憑き物が落ちたかのような曇りのない表情に見えた。吉田知那美が結婚を発表したが、私生活の充実がおそらくあっても、彼女は戦うことをやめない。それは藤澤も、鈴木も、吉田夕も同じだ。北京五輪の銀メダルは通過点。

2015年から16年の世界選手権銀メダルの道程、そして北京五輪後の戦績の道程、勢いに乗ってしまうととてつもない結果を残すのがロコ・ソラーレというチームだ。極東のカーリング小国が世界と渡り合うためには、チャンスを掴んだら一年で駆け上がる強さがなければ無理だ。

ロコ・ソラーレ、究極のコミュニケーション

最近はロコ・ソラーレのゲームでなければ、カーリングを見ている気にならなくなった。YouTubeで他チームも見るが、その音声に隣のシートでゲームをしているロコの面々の声が聴こえてくる。ついついそちらに耳を澄ませ確認してしまうが、平昌五輪の前は飛び抜けて大きな声をやかましく感じていたのだから、こちらは勝手なものだ。彼女たちの試合での表情を見ているうちに、一喜一憂する中に年齢を重ねた進化と苦悩をなんとはなく感じるうちに、いつしかファンになってしまった。

ロコ・ソラーレの面々は4人とも声が大きくて言葉数が非常に多い。4人とも、というのが重要で、スキップから作戦を一方通行で伝えることがほとんどのチームに見受けられるが、ロコは投げ手からの視点とストーンの配置を必ず伝え、投げ手の希望があれば藤澤が瞬時にブラシの位置をズラしてウエイトの秒数を変えてみせる。

それが外国の代表であってもこうはいかない。北京五輪では、アメリカのチーム・ピーターソンがスキップが困って作戦を他の3人に聴いても黙っているだけだった。シーズンが変わってメンバーを変更したのはコミュニケーション不足を考えてのことだったのか?

日本のチーム、特に女子チームは少しづつコミュニケーションの重要性に気がついている。北海道銀行は世界ジュニアで2022年優勝した時のリードスキップ・山本冴が加入し、田畑の作戦立案を手助けできる体制に移行した。このチームの強化がうまくいけば面白い。

ただ、あるチームはベテラン選手の声が飛び抜けて大きく、コーチとの作戦タイムでもその意見をわかっていると即座に反応するのもそのベテラン選手だった。他の若手の声が小さく聞こえる。人間のコミュニケーションは良かれ悪しかれ、声が大きい人に主導権が移りやすい側面があると思っている。技術だけではカーリングは語れない。

ロコ・ソラーレのコミュニケーションは明るいのが取り柄だが、意外にもシビアなところもある。

23年の日本選手権決勝第6エンド。藤澤の一投目は相手の9時方向に置かれたストーンへのフリーズ。

藤澤「チナ、相手のホグホグ計ってた?」
吉田知「ごめん、(タイム計測が)とれてないって」

それでも、藤澤はそれを責めるそぶりは見せることもなく、クレージースイーパーズのふたり(鈴木夕湖と吉田夕梨花)とウエイトの確認を素早くとって投げた。結果は思い通りにフリーズが決まった。

やはり藤澤が持っているカーリングの知識と技術はすごい。それに対応してきた吉田知だが、彼女が加入して作戦のやり方を全部それに合わせてきたのは、かなり大変だったかもしれない。ただ、ホグラインの通過タイムを気にしているのは藤澤だけではなく、他の3人も常に気にしている。どんな時でも確認の徹底は行なっている。

これほどの密なコミュニケーションをとれるチームは日本の男女を通じてもまだ無さそうだ。ここがロコ・ソラーレが秀でているところ。他のチームがここにいくまでは年月がかかるだろうし、ここまでいけるかどうかもわからない。

日本は「カナダ式」の究極体

日本のカーリングはカナダを模範にしているところがある。カナダは州のチャンピオンを決めて国内選手権を争い、五輪代表はポイントによって出場チームを選び、あとは大会で一発勝負で決める。日本は地区ごとに偏りはあるが、それぞれまず地区代表を決め、そのチームが集って国内選手権を戦う。五輪は直近2年の優勝チームが選ばれ、それが異なる場合は決定戦を行う。

基本的に協会の意向が入らずに白黒をつけ、勝ったチームがそのまま選出されるのがここで仮に名付けた「カナダ式」。

女子で国内選手権を行う国のチーム数は、以外のとおり。

カナダ 18(2つに分けて決勝T行きを決める)

アメリカ 8
スコットランド 8
韓国 7
スイス 5
スウェーデン 4
日本 9

上記は基本的に一発勝負で代表を決める。日本はカナダに次いで2番目に出場チームが多い。

イタリアは北京五輪のミックスダブルスで優勝選手をスキップにしたチームで一本化、中国は国策でひとつのチームを強化していると考えられる。ロシアは隣国と会戦状態で除外、デンマークは有力チームはあるが他チームのことが不明。この辺りは国の協会が選抜する方式をとっているものと思われる。

ところが北京五輪のスコットランド(英国代表扱い)が

「スクワッド・システム」

という選抜方式をとってきた。イブ・ミュアヘッドをスキップに据え、あとは9人の代表候補を選び、その中から選抜し編成するというもの。スコットランドはミュアヘッドは股関節の手術をしたこともあってか成績が安定せず、北京五輪の出場は世界最終予選を勝ち抜くところまで追い込まれていた。協会としてはそのタイミングで、思い切った勝負手を打った。そこから欧州選手権優勝、世界最終予選1位通過、そして北京五輪金メダル、と成果を瞬く間に上げた。

だが、選抜方式はスキップがミュアヘッドだからこそ上手くいったシステムだろう。日本はチームごとにスポンサーがついて強化の支援をしているので、選手を選抜されることに対する拒否反応が強くなることが予想され、また選抜方式をとった長野五輪ではチーム内の不和もあったと聞く。日本は「カナダ式」の複数チームによる競争で強くなればいいのではないか。

ただ、スコットランドは別の意味で各国の脅威になる可能性を秘めている。

「ナショナル・カーリング・アカデミー」

を創設したからだ。

「17年夏にスコットランドに完成したカーリング専用施設『ナショナル・カーリング・アカデミー』を拠点に最先端の科学、医療、栄養など手厚いサポートを受け、昨年(21年)11月の欧州選手権で優勝」
(JIJI.COM 2022年2月23日掲載より引用)

2017年、平昌五輪の前年に国の施設を作ってサポートを開始している。カーリングの母国が本気を出してきた。

一方のロコ・ソラーレは2018年の9月に一般社団法人の登録をした。常呂町はカーリングの本場だが、選手の流出が止まらなかった。エリートは札幌や青森、そして長野などにプレーの機会を求めて地元を離れていく現実があった。そこでLS北見を創設した本橋麻里が、社会人チームとしてではない一般社団法人としての体裁を整えた組織を作り、選手たちの環境を安定させた。

もともとのLS北見には、失意を抱えて帰ってきた者、札幌のチームから戦力外を受けた者、そしてエリートとしてのプレーができず地元に残っていたふたり、それらが集っているのが今のロコ・ソラーレである。

北海道の一地方の一般社団法人が、国家を相手に戦う。それが北京五輪決勝のもうひとつの姿だった。

日本のカーリング協会には金銭的な支援を得るのがこれからも難しい。チームごとにやりくりしていくしか方法論がない。

結局は個人の努力と裁量で努力するしかない。カーリングにはそうした厳しい一面もある。

「クセが強い」から世界で勝てる。

世界を股にかけて活動することは簡単ではない。カーリングはツアーの本場がカナダなので、日本からは渡航して転戦することになる。試合以外でもいろいろと面倒なこともあるだろう。

北京五輪の金メダリスト、イヴ・ミュアヘッドが22年に引退を発表した。彼女は1990年生まれで満33歳。おそらくこの年を最後にすることを決めていた節もあるが、手術明けでもあり、心身ともにツアーを転戦することの辛苦も少なからずあっただろう。ただ、カーリングは40代で試合に出ることが普通にあることなので、引退は早いと感じるところはある。

ロコ・ソラーレのメンバーは91年生まれ(満32歳)が3人、93年生まれ(満31歳)が1人。ツアーの転戦を普通に行っているところからみても、まだまだカーリングを続けていくのだろう。

世界を転戦してまでカーリングを続けること、生活とカーリングが一体化しているように見える。今はカーリングで勝つのが人生、そして吉田知が人生の転機を経ても戦いの場に居続けているのは、人生を豊かにすることも忘れずにいることがカーリングとの相乗効果を産んでいる。

いろいろな記事を読んでみたが、ロコのメンバーを面白い表現で評価したものがあった。小野寺亮二コーチがジェームス・ダグラス・リンドコーチについて話した中にあった。

「あとは何よりも、クセの強いあいつらの心を掴んでいる」(Yahoo! ニュース『日本選手権連覇を達成したロコ・ソラーレ。さらなる天下取りを支えるイケオジとイケメンの幸福な関係』2022年2月5日 18:05)

「クセの強い」というのはクセがある表現だ。幼い頃から知りあって指導している間柄は忌憚のないことが言えるのだろう。女性にとってこの表現はどうなのかと思うが、これを言われた彼女たちは、

とてもカーリングをやめそうにはない、

という印象を持った。少なくとも、彼女たちが満足するまでとことんカーラーとして人生を突き詰めていくのではないか。

勝負の世界は一発勝負なので、ロコ・ソラーレが負けることはあるし、日本の他のチームが世界の舞台に躍り出ることは十分にある。ただ、ロコ・ソラーレのように世界のツアーで勝ち、チーム別ランキングでトップ10に入るチームがあるか、と言われればまだ見極めが必要と思われる。フォルティウスはメンバー6人体制で過渡期、中部電力はスキップを変えてから中位クラスの大会で勝ち始めているがまだこれから。富士急は活動休止を発表、そしてジュニア世代や、ベテランが若手を引っ張るチームも正直まだこれからという印象だ。

ちなみに男子はジュニアチームがロコ・ソラーレの組織に加わるなど、ようやく安定して強化を継続できるチームが複数現れ、ここから女子のように世界大会に出場を切らさない体制が整いそうだ。

日本選手権で優勝、もしくは2位に入ることでツアー転戦のスケジュールが組みやすくなる。トップに入るための椅子取りゲームを勝ち抜ける、ここからの熾烈な戦いに勝つ抜け、ロコ・ソラーレに迫るチームはあるのか。それはもう少し時間がかかるかもしれない。

グランドスラムを制し、世界のトップに上り詰めようとしているロコ・ソラーレも、藤澤が加わってから7、8年の年月をかけてここまで来ている。それまでの紆余曲折は無駄では無かったし、時間をかけてさらに進化してきた。その厚みのようなものが加わって、30代に歩を進めた4人にさらなる成長と結果が期待できる。ロコ・ソラーレがいるからこそ、日本のカーリングは世界の基準を見て追いかけていける。まだ常呂っ子の4人が先頭を走り続けるのは間違いないようだ。

(了。文中敬称略)

追記。ジュニア世代に超新星現る。

カーリングを観戦する時に、ジュニア世代に注目することはあえて避けていた。

それは、筆者に才能を見る目がないこと。

もうひとつは、ジュニアのチームが一般の仲間入りをした際にメンバーがバラバラになること。カーリングのチームを再構築して熟成されるまで、やはり年単位での時間が必要と考えるので将来性や実力を見極めるのが難しいこと。

カーリングの日本選手権は男女とも本戦出場は9チーム。その中に入り続けてスポンサーの支援を受けられるチームに成長するかがわからないこと。

ジュニア世代がカーリング選手として社会に出るのか、そこは事情通ではないので未来の予測もこちらからは不可能だ。

ところが、ひょっとしたらロコ・ソラーレの後継者になりそうな選手、そしてチームが現れた。

2023年の世界ジュニアカーリング選手権に出場した名前を仮に「A選手」としておく、その選手のことだ。

この選手は昨年(2022年5月)の同大会にも出場し北の大地に凱旋した際に、次回は自分のチームで出たい、とコメントしていたことをなぜか記憶にとめていた。信州のチームが母体のチームに高校2年で選ばれ、それだけでなく決勝を含めて11試合中7試合にサードとして出場していていた。大学生主体の中に高2で入ってプレーする、この「A選手」は日本協会の小笠原歩コーチが抜擢したという。実はSC軽井沢が日本選手権に出場するにあたり、ジュニアチームからそこにひとり加わって欠員ができた。そこに「A選手」が入ったのは、強運もある。抜擢を受けたのは、そのプレーに目を見張るものがあったということなのなのだろう。

高校3年になって強化指定選手に選ばれ、地元同学年のチームメイトふたりとともに、22年の世界ジュニアで戦った年上のふたりをリードとセカンドに加えて世界ジュニアに参戦した。予選をギリギリ4位で通過、準決勝ではここまで全勝のスイスをラストロックのランバックを決めてあれよあれという間に決勝に進出した。日本が世界大会で2年連続決勝進出は天晴れのひと言につきる。

決勝の相手はスコットランド。北京五輪と同じ組み合わせになった。これは偶然とは思えない。ナショナル・カーリング・アカデミーで強化育成の恩恵を受けているだろうから、イヴ・ミュアヘッドが引退した後も継続的に世界で活躍するチームが出てくるかもしれず、それが今回出てきたチームであってもおかしくない。

金メダルをかけた戦いは派手なものになった。第2エンドに3点を奪われたが、第3、第4エンドにそれぞれ2点をとって立て直した。

「A選手」が投げると不利な状況でも手品のように有利になる。第6エンドではスコットランドのストーンが4つたまっていたにもかかわらず、難なく弾き出して気がつけば複数点をものにした。

ひょっとしたら、高校時代の藤澤五月と比べても実力は互角か上の部分もあるか、そう思わせる落ち着きと技術を存分に見せつけていた。


第8エンドを終わって7-4とリードし優勝に手が届くところまで来たが、第9エンドにハウス内の2つのストーンを弾き出されるスーパーショットを決められて7-7になった。

そして運命の最終10エンド。「A選手」がドローを決めれば優勝、というところまできた。

しかし……、

ドローがハウスに届かない。

7-9で敗戦。スコットランドの選手は思わぬ形で勝利が転がり込んできたのに感極まり、抱き合って歓喜の声を上げた。

一方、日本チームは笑顔で握手を交わしていた。しかし、シートの脇に下がったところで、「A選手」はうずくまってしまった。

涙を流していたのか……。肩を抱き抱えられて慰められていた。

勝利を目前にして、自らの一投で頂点から転がり落ちた。

これが、This is Curling 。

フォーススキップだからこそ感じるプレッシャー、作戦を決め、自らの投擲で点数を決める、それまで上手くいっていたのに、金メダルを決めるラストロックを外してしまう……。

だが、落胆の気持ちは湧いてこなかった。

「A選手」が数年後にラストロックを鮮やかに決めて、チームを、日本を勝たせるのだ、と。

悔しさはきっと将来への糧になる。この選手なら大丈夫。

藤澤五月だって、ソチ五輪日本代表決定戦で人目を憚らずに泣き腫らし、2016年の世界選手権ではラストロックのドローを決められずに優勝を逃した。それでも、2021年の代表決定戦ではドローを完璧に決めて北京五輪への道を切り開いた。

「A選手」も必ずそうなる。

未確認情報では、世界ジュニアに参加した普段からのチームメイトとともに同じ大学に進学する予定だとか。ジュニア時代からのチームメイトがシニアになっても同じチームにいるのは、気心がしれてコミュニケーションに問題がないだろう。ロコ・ソラーレも北京五輪のカナダ代表がソチに出場して全勝優勝して時もスキップのジェニファー・ジョーンズとセカンドのジル・オフィサーは15歳ごろからずっと同じチームで苦楽をともにしていた。

北の大地のチームがメンバーを変えずに戦っていけるとしたら? このフォーススキップが率いるチームなら、少し年上のチームにも今まで勝ってきたし、ジュニア時代からのライバルを押しのけて、いずれはロコ・ソラーレの強力なライバルになるだろう。

それは、早ければミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を争うことになるかもしれない。想像か膨らむばかりだ。

(文中敬称略。この稿はジュニア選手について書いているので、あえて実名で書くのを控えました。ご了承ください。)

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