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クリスマスの朝は

 クリスマスへと近づいていくこの時期が、一年のうちで最も好きな季節だ。心踊るようなクリスマスソングも、華やかなツリーやリースの飾りも、人々が浮き足立っている感じも。

 子どものころ、クリスマスイブには母がケーキを作ってくれた。スポンジはモントンの薄黄色の箱に入ったミックスを使って、午前中にそれを焼き、スライスしてシロップを染み込ませていく。あの幸福に満ちた香り。午後になると、今度は生クリームを泡立てる。母は電動の泡立て器からクリームのついたビーターを取り外して、兄とわたしに一本ずつ、舐めさせてくれた。普段は厳しく、こんな行儀の悪いことは許さない母が、この日は一日中機嫌が良く、寛容で優しかった。回転台の上で、たっぷりの真っ赤な苺と、真っ白な生クリームを母は手際よく飾り付けていく。ケーキの味よりも、作っている過程の方がずっと鮮明に記憶に残っている。

  クリスマスの朝、枕元に置いてあったプレゼントを抱えて階下に降りると、先に起きていた父と母はふたりでウィンナーコーヒーを啜っていた。そして、兄とわたしにはコーヒーではなくココアで同じように作ってくれた。クリスマスの朝の特別な飲み物。クリスマスをいいものにしてくれたのは、サンタクロースではなく母だった。母がしてくれたように、今年はわたしがケーキを作ろう。そして、クリスマスの朝はあのココアをそっと作って出そう。

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