今週の1本 「ラスト・クリスマス」

 今週の1本は、昨年公開された「ラスト・クリスマス」(Last Christmas)2019/アメリカ。ケイト役のエミリア・クラークの可愛さと、クリスマスの煌めきに溢れるジャケット写真がとても素敵で、公開されたときから観てみたかった作品。

〈あらすじ〉
歌手を夢見るケイト(エミリア・クラーク)は、ロンドンのクリスマスショップで働いているが、なかなか仕事に集中できず生活も荒れ気味だった。そんなとき突如現れた謎の青年トム(ヘンリー・ゴールディング)が、たちまち彼女の抱えるさまざまな問題点を洗い出し、解決に導く。ケイトは彼に好意を抱くが二人の仲は進展せず、やがて彼女はある真実にたどり着く。

 ケイトの働くクリスマスショップがとにかく可愛い!ごりごりのラブストーリーを期待していたので、途中で「もしかしてファンタジー?」と勘づいてしまい少しがっかりしたのだけれど、移民問題、ホームレス、貧困、LGBTなどの社会問題にも触れていて考えさせられる映画だった。

 特に印象的だったのがバス内でのシーンで、母語で話す移民者に対し、青年が「お前たちのせいで生活が苦しいんだ!」といったニュアンスの言葉を吐き捨てるところ。働いても、働いても楽にはならない青年の生活。これは今の日本にも言えることだろう。移民が増えれば失業者も増える、移民問題はイギリスの貧困層の要因の一つにもなっていると言えそうだ。青年の暴言が正しいとは思わないけれど、当たりたくなる気持ちはわからなくもない、と正直なところ少しだけ共感してしまった。そして移民側の気持ちを考えると、これもまた複雑だ。ケイトたち家族も彼らと同様、内戦を逃れるため旧ユーゴスラビアから移民してきた。ケイトの母は今でも強制送還されるのではないかと怯えている。親戚も友人もいない国で〝よそ者〟として見られて暮らしていく、決して快適な暮らしとは言えないだろう。ケイトに対する過干渉も、そういった背景があるのだと思うと、悪い母親とはとても思えないのだ。そしてケイトも、本名のカタリナではなく、英語圏の名前である〝ケイト〟を名乗っているところから差別を経験したのだろうと推測できる。戦争のない社会で育った私には到底理解できない深い孤独と悲しみがある。同じ地球に生まれたのに、人間が勝手に決めた〝国〟なんかで運命が変わってしまうのはとても悲しいことだ。

 トムと出会ったケイトは少しずつ変わっていく。そして最後は真実に出会ってしまう。せつなくて、温かい。昨今、LGBTへの理解は深まってきている。けれど、その他の問題に対しては根が深く、解決する日はまだ遠いだろう。それでもラストは「少しだけ前を向いて頑張ってみるか」と思わせてくれるものがある。それを人々は愛と呼ぶのだろう。

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