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自分とアンノウン・マザーグース

 2018年、マジカルミライ千秋楽に参戦したとき妙に印象的な楽曲があった。当時の自分はタイトルも「コール」も知らず、予想外過ぎる楽曲展開に棒立ちしながら黙って聴いているだけだったが、後にその楽曲こそが存命だったwowakaの集大成となる「アンノウン・マザーグース」であると知った。
 タイトルと楽曲が一致したのは恥ずかしながらマジカルミライ終演後の話だった。とはいえ、妙に印象的な楽曲を覚えておきたいと思い、動画サイトで繰り返し再生するようになったのも当時のことだった。
 再生するうちに歌詞とコールが頭に刻まれていき、2019年の「SNOW MIKU LIVE!」ではコールに乗ることもできた。この曲はある意味、盛り上げ的意味合いを持つことになるだろうとその頃から思い始めた。

「2つのショック」が訪れ、この楽曲が自分の人生を永遠に変えてしまうまでは。

 当時は既に「マジカルミライ2019」に向けて暖機運転が為されている状況にあった。そんな中1つ目のショックが訪れる。wowakaが急性心不全により世を去ってしまったのである。
 自分が「初音ミク」個人の楽曲として好きになった最初の楽曲、それは記憶が確かなら「裏表ラバーズ」であった。当時はその作者として、ひいては作曲者としてのwowakaを知る由もなかった(彼自身未だ顔出しは疎か、ヒトリエとしての活動をアピールしていなかった)。
 思えばアニソン・キャラソンのたぐいにある種のアレルギー反応をしていた自分に初音ミクを説いて聞かせたのは父だった。父のおかげで今の自分がいるようなものだが、ここでは深く触れない。論点はwowakaの楽曲がいかに自分の心を揺り動かし、固定観念を払ったかにある。
 彼の楽曲は様々な意味で、いかなるジャンルにも当てはまらないものだった。それでいて、平沢進や人間椅子のような「前衛的楽曲」と呼ぶにも程遠い音楽性に、自分は耳を何度も疑った。その作者が、永遠に手の届かない領域に31歳の若さで旅立ってしまった。
 随所で彼を悼むコメントや、創作さえ満ち溢れた。自分も突然の出来事に巧い言葉が出せず、ただ途方に暮れるだけだったことを記憶している。
 結果として「アンノウン・マザーグース」に並び立つような音楽的創作は途絶え、今のVOCALOIDシーンがある意味「固定化」していくこととなる。未だギターを持たなかった自分に彼を超える創作ができるはずもなかったし、しようとさえ思わなかった。
 しかし、それで因縁が絶たれるのであれば自分は本稿を書かない。第2のショックにより、自分は「アンノウン・マザーグース」に人生そのものを180°変えられてしまうのである。
 忘れもしない2020年11月29日のことだった。自分は「マジカルミライ2020」のライブ配信チケットを近所で買い、配信を見るためパソコンの前でいわゆる「全裸待機」をしていた。
 2019年には「僕が夢を捨てて大人になるまで」のDX-7弾き語りがあったので、そろそろそれを超えるパフォーマンスがあってもいいと思っていた。折しも公式はESPとのエンドース契約を高らかに宣言していたので、その流れもある気がしていた。
 オープニングから中盤、ルカさんの「完全性コンプレックス」辺りまでは期待し過ぎではなかったか、と思うところもあった。バンド紹介さえ、ぼんやりと見ている感覚しかなかった。
 だが次の瞬間、すべては永遠に変わった。
 エンドース契約で発表されたギターを手にしたミクがステージ上に現れたとき、パソコンの前で今までにない歓声を上げる自分がいた。ミクは俯き気味にギターを演奏した。自分もまったくついて行けていないエアギターで応えた。そしてそのまま「アンノウン・マザーグース」をミクが歌い出した。
 この瞬間、この場面から、「アンノウン・マザーグース」が自分の中で特別な意味を持つようになった。当時の自分は、ギターに関して兄とのわだかまりを克服して間もない時期にあった。自分が一番好きなVOCALOIDが、ギターを弾いている。それも、彼女のために作られた特注品を。この感慨を、自分は一生かけても忘れることはないと信じている。
 一夜明けてからも、瞼の裏にミクの演奏は焼き付いていた。その勢いでSTREAMを買ったくらいだから、まさしく一生ものの衝撃だったのである。
 これからも、wowaka亡き世界に一種のアンセムとして「アンノウン・マザーグース」は存在し続けることだろう。そして自分はそう願っている一員である。
 そして、音楽を愛する者たちにこそ「アンノウン・マザーグース」は語り継がれてもらいたい。それはwowaka個人の功績というより、楽曲が与えた少なからぬ影響と、その楽曲の価値観を語って欲しいものである。かの米津玄師でさえwowakaに敵う楽曲は作れないと自白したくらいなのだから。

 それでは、また機会があれば。


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