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第3号被保険者制度(3号年金)を批判する・その2〜年金局長の著書(1)

3号年金について、今までいろいろな意見を見聞きしてきましたが、その中に「3号ができた当時は年金を払えない主婦が大勢いた。3号は主婦救済のために必要だった。決して特権として始まった制度ではない」という理由で制度の意図は正しいものだったとする見解がありました。

仮にその通りだったとしても、なぜサラリーマンの妻だけを対象にするのかがさっぱり分からず、いくら調べても明白な理由はどこにも語られていませんでした。(意気揚々と現れる3号擁護者たちも、そこはゴニョゴニョ言ってフェードアウトしていくんですよね)

3号が採択されたのはバブル景気開始の前年ですからね。超好景気ですよ。サラリーマン夫婦なんてむしろ今よりも生活安定してる人だらけだったんじゃないですか。

他の無業者は強制的に1号になるのに、なぜサラリーマンに養われた妻だけをそんなに手厚くするの?という疑問の声が、制度ができた1985年当時にはなかったのか?

また、こんな制度を作らなくてはいけないぐらい主婦は国民年金の加入率が著しく低かったのか?とも思ったのですが、主婦の7割がすでに国民年金に加入していたと知った時は驚きました。
未加入の3割のためにこんな手厚い制度を…?と、疑問は深まるばかり。

そんな時に、1985年当時の厚生省年金局長が書いた、年金改革についての書籍の存在を知り、なんとちょうど3号制度に関わる部分が厚生労働省からPDFで公開されていました。ありがたい。

当時の空気がダイレクトに感じられる貴重な資料かつ3号年金成立までの経緯がよくまとまっているので、内容を詳しく紹介していきたいと思います。
(紹介というか、一文ごとになんじゃそりゃの連続なのでつっこみになりますが)

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001hjdu-att/2r9852000001iqsm.pdf

※以下、引用文中の太文字の強調は当ブログ筆者によるものです

目次を見ると全部で800ページ近くある大著ですが、公開されているのは50ページほどで、3号についての記載は全部で10ページ程度でした。

3号制度は年金全体の大改革の際に導入された制度だったんですね。
それでは、引用を交えながら詳しく見ていきましょう。

サラリーマンの妻はこれからはすべて国民年金に強制加入することになる。しかし自ら国民年金の保険料を納める必要はなく、妻の保険料は、夫の給与から差し引かれる夫の厚生年金の保険料の中に含まれ、夫の分と一緒に厚生年金の会計から国民年金の会計に払い込まれる。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 133ページ

さてのっけから、「妻の分は夫が払ってる」みたいなこと言ってますね。正確に言うと「夫が加入している厚生年金の加入者全員で負担する」なのに、誤解させる気満々なのでは、と思ってしまいます。

今日女性に独立の年金権を与える必要はないという人はいないであろう。しかし年金制度のうえで女性を具体的にどう扱うかは、女性は男性とちがって職業をもたず、収入もなく、結婚しても夫の扶養家族として家事に専念する人が多いだけに、思想のうえでも実務のうえでもたいへんむずかしい。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 133ページ

バブル経済が始まらんとする1985年ですからね、さすがに公に「女に権利なんているか」とは言えない時代になってますよね。
しかし、ええ?1961年の国民年金制度導入時に、サラリーマンの妻以外は自営業者でも無業者でも全員強制加入させてますよね。なのにいまさら何をぐずぐず言ってるんでしょうか。

サラリーマンの妻は厚生年金の方でカバーすべきか、国民年金の方でカバーすべきかについて国民年金創設時にもたいへんに議論があった結局国民一人一人ができるだけ独立の年金権をもつべきであるという考え方にたって、国民年金は適用も給付も完全な個人単位とし、自営業者の妻も独身の無業の女性も国民年金の独立の被保険者とした。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 133ページ

国民年金創設にあたって「個人単位」をはっきり意識したという部分は良いですね。それを最後まで貫けばよかったのに。

当時の年金加入状況

続いて、
・3号制度採用以前の厚生年金は、夫が外で働いて妻が家事をする夫婦を前提としていた
・夫の年金で妻の年金もカバーしているということになっていた
・そのため、国民年金創設時には、サラリーマンの妻は国民年金には強制ではなく任意に加入できることにした
・結果、専業主婦の立場が曖昧になったため、「国民皆年金」実現は先送りになった

といった説明がされ、次に当時の女性の年金加入状況が解説されています。
当時の状況を知る資料として、個人的にこの部分はかなり参考になりました。

・国民年金の創設から25年が経過して、働く女性の数が激増
・主婦の労働参加率も増加。国民年金ができた1960年の8.8%[170万人]から1983年には28.8%[880万人]に
・独身女性も含めた女性の就業者数は、1984年に1518万人になり、専業主婦の数(1516万人)を初めて上回った
(1984年は働く女性にとって記念すべき年だったんですね。これは男子を含めた全雇用者の三分の一だそうです)
・女性の厚生年金加入者も増加。1960年の450万人から1984年には850万人に
・サラリーマンの妻の国民年金加入率は6〜7割に達している

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 135ページより


なるほど、女性の就業者は増加して厚生年金加入者が増える一方だし、主婦も国民年金加入率6~7割に達している。じゃあいい機会だから、年金大改革に合わせて、主婦もみんな他の無業者と同じく国民年金に強制加入として、年金保険料を払ってもらうことにしましょう!

となるかと思うじゃないですか。

しかしながらそうはならなかったんですね。なぜなのか、理由を次回見ていきましょう。

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