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第3号被保険者制度(3号年金)を批判する・その1

第3号被保険者制度について思うことを存分に書いてみたいと思います。
結構な分量になるので複数回に分けてお送りします。

被保険者制度というと年金以外にも健康保険・介護保険等がありますが、第3号被保険者制度と言えばほぼ100%年金制度のことを指していますね。このブログでは年金を強調したい時には「3号年金」、制度そのものを略称で言う時は「3号制度」または「3号」と書きます。

3号制度ついて、まずは制度の内容そのものと成り立ちについてまとめてみました。



年金の第3号被保険者制度とはどのような制度か

かねてから主婦向けの年金制度があるらしいということと、それが「年収の壁」と言われているものと結びついていることは知っていましたが、自分には一切関係ないことだったので、制度の内容を気にしたことはありませんでした。内容を詳しく知って不公平さに驚いたのは最近です。
いったいいつからどういう理由でこんな不公平な制度が?と大きな疑問符を抱えながら調べてずいぶんと3号制度に詳しくなりましたが、あくまでも素人調べなので曖昧な部分もあることはご容赦を。

第3号、というぐらいなので当然、1号と2号があります。
4号や5号もあるのかな?と疑問に思うでしょうが、3号までしかありません。

3号制度は「第2号被保険者の配偶者」のみが対象となる制度です。
実質的には「サラリーマン・公務員の夫を持つ妻」が対象となりますが、詳しく見ていく前に、まずは3号を理解するために必要な予備知識として1号と2号をざっと見ていきましょう。

第1号被保険者

第1号被保険者は、国民年金のみに強制加入させられている被保険者ですが、誰が該当するかよりも「2号にも3号にも該当しない20歳以上60歳未満の成人みんな」がここに入るとざっくり理解するのが分かりやすいかと思います。

日本は国民皆年金制度をとっているので、20歳以上の人は国民年金に強制加入させられます。
年金制度は、「国民年金」の土台の上に積み重なる形で、「厚生年金」や「国民年金基金」「確定拠出年金(iDeCoや企業型DC)」があります。1号加入者は国民年金にのみ強制加入させられていて、国民年金基金やiDeCoを任意で利用できます。
(国民年金基金は厚生年金との年金受給額の差を埋めるために創設された制度なので、1号加入者のみが利用可能です)

国民年金の保険料(支払わないといけない金額)は、加入者の収入に関わらず、2024年現在一律で月額16,980円(年額203,760円)です。
保険料を支払えない人への免除制度はありますが、基本的に支払わなかった期間に応じて将来受け取る年金額が減ります。また免除制度を利用している間は国民年金基金とiDeCoは利用できません。

ちなみに1号の加入者が同時に加入する国民健康保険と介護保険については、扶養家族は保険料支払い免除となる制度があります。保険料は自治体によって違うので一概にいくらかは言えませんが、減免制度を使わない無収入者の場合、だいたい39歳までは年額50,000円以上、介護保険の支払い義務が発生する40歳以降は年額70,000円以上にはなるようです。

第2号被保険者

第2号被保険者は、厚生年金の被保険者です。
加入条件はざっくり言うと、ある程度の規模の会社にフルタイムに近い時間以上雇用されている人が対象です。
条件を満たせば強制加入になって保険料が給料から天引きされるので、自分は1号の方がいいからと勝手に2号を抜けて1号になることはできないです。

厚生年金の保険料は国民年金とは異なり、加入者の収入によって金額が決まります。また「労使折半」制度なので、半額は会社負担です。
(給与明細には自己負担分のみが記載されるので、会社分も含めていくら負担していることになっているのか分かりづらいですよね)

2号の年金は、「国民年金」に上乗せして「厚生年金」に加入しているという形となるので、国民年金だけを支払った時よりも将来もらえる年金額が高くなります。さらに支払った保険料に応じて受給額が変わるので、収入が高く負担金額が高かった人ほどもらえる年金の額も高くなります。
また、iDeCoも利用可能です(条件があるので気になる方は調べてみてください)。

よく「厚生年金はもともと夫婦二人分を払っている」という言い方がされますが、2号制度は自分の国民年金に自分の厚生年金を積み増しする「二階建て」の制度なので、支払っている保険料はあくまでも一人分です。
なお、1号は国民年金だけなので、そのままだと「一階建て」ですが、国民年金基金に加入すれば「二階建て」となります。その際に「1号だけど国民年金基金に加入して二人分払うようにした」とは言いませんよね。厚生年金も同じです。
(下図参照)

https://www.npfa.or.jp/system/about.html より

※余談ですが、年金に逆進性(累進性の逆パターン。収入が少ないほど負担割合が重い)があるので、下図のように年収100万円台と1000万円を比べても収入に対する総負担の割合がさほど変わらないという、そんな国他にあるんですかね??というなかなかの状況になっています。こちらについて今は深入りしませんが、消費税も考えあわせるとさらに酷いので、また改めて語りたいですね。

第3号被保険者


さて、第3号被保険者について。詳細を見ていきましょう。
対象となるのは条件を満たした第2号被保険者の配偶者で、1号と同様に国民年金被保険者となります。受けられる年金も1号と同じく国民年金(老齢基礎年金)です。

3号制度の最大の特徴は、国民年金の保険料を1円も支払わなくてもいいということです。
(ついでに、3号制度を利用している=扶養されていると判断されるためか、健康保険と介護保険の全額免除も付いてます)


つまり3号は、2号に該当しないので1号に強制加入させられつつ、年金保険料は全額他人が支払ってくれる「1号特別枠」と考えればわかりやすいでしょうか。

1号との違いは、国民年金基金には加入できないことです。
ただしiDeCoは利用可能です。(月額5千円〜2万3千円まで利用可能。月2万円積み立てられる想定するなら国民年金払わせろよ… と思ってしまいますね。賢い主婦はきっとiDeCoをやっているんでしょう)
iDeCoはあくまでも自己責任で投資先を決めるので得すると断言できる制度ではないとはいえ、1号加入者で保険料支払い免除を利用している人にはiDeCoの利用資格がないから、これも3号の大きな特権と言えますね。

では、いったい誰が3号被保険者のために国民年金保険料を代わりに払ってあげているのか。

答えは2号被保険者です。2号被保険者全員で、3号の国民年金保険料を負担しています。
(ちなみに2023年に計算してみた概算ですが、単純に人数で割ると2号加入者一人当たり月額3000円ほどの負担になっていました。)

そしてこの制度を使えるのは具体的に誰なのか。条件は三つです。

一つ目は、年齢が20歳以上60歳未満であること。
二つ目は、2号被保険者の配偶者であること。(事実婚でもOKな親切設計ですが、同性パートナーはダメです)
三つ目は、配偶者に扶養されていること。具体的な条件は「年間の個人収入が130万円以下」であることです。世帯収入は関係ないので、配偶者や子供その他同居人がいくら稼ごうが自分が稼いでさえいなければOKです。

また、「配偶者」と書いてきましたが、夫婦のどちらかがフルタイム労働で稼いで、どちらかが年収130万円以下の補助労働をするという関係上、3号加入者は「99%」が女性です。
なので、3号イコール主婦と考えて差し支えないですね。世間のイメージも3号と言えば主婦ですしね。

3号制度ができるまで


次に、一体全体なんで3号制度なんていう、サラリーマンの奥様にだけおトクな制度ができちゃったの?というところから見ていきましょう。

1985年。3号制度が国会で採択された年です。制度の運用開始は翌年です。
今年は2024年なので、制度の採用から39年目。

39年を長いとみるか短いとみるか。
こんな制度が数十年連綿と続いてきたと思うと長いですが、3号制度は戦後ずっと主婦を守ってきたみたいな印象で語られていたので、「1985年?高度経済成長期を終えてバブルに差し掛かる頃?そんな最近できたものだったの?」と思って驚いたものです。
ちなみに、同年に「男女雇用機会均等法」も採択されています。

戦後の貧困から抜け出したバブリーな世相で、かつ男女雇用機会均等法もできて女性の自立促進の機運も盛り上がっていたというのに、なぜ主婦に特権を与える制度が創設されたのか。

「国民皆年金を実現させるため」という理由だったようです。
ちなみに、健康保険料の支払い免除制度は3号制度よりも前にできあがっています。

1985年までの年金制度はなかなか複雑です。(下図参照)

厚生労働省のサイトより

3号制度ができた時点での年金制度は、国民年金・厚生年金(民間雇用者向け)・共済年金(公務員向け)の三種類でした。共済年金が厚生年金に一本化されたのは3号制度ができた後ですね。

そもそも日本の年金は最初は軍人だけが加入できるものでした。
そこから公務員向け、農業漁業者向け、サラリーマン向けなどの年金機構がそれぞれ組織されていき、「国民皆年金」の理念の下でそういった組織に属すことがない人を対象に1961年に国民年金制度が作られました。
厚生年金よりも国民年金の方が後なんですね。厚生年金の労使折半制度も、厚生年金ができ始めたころにすでに採用されていました。

国民年金が創設された時に、自営業者は夫婦で商売を営んでいるとみなされたので夫だけでなく妻も強制加入となりました。
一方サラリーマンの妻は、自分では収入を得ていないことに加えて厚生年金の方に配偶者加給年金制度もあるからいいだろうということで、国民年金には任意加入とされました。しかし夫と離婚死別した場合に低年金になる問題が残されたままだったので、その問題を解決すべく、1985年の年金制度大改革の際に、保険料を徴収しない形で厚生年金加入者の妻を国民年金に強制加入させる3号制度が発足しました。

なぜサラリーマンの妻のみ特別に年金保険料を徴収しない形になったのかは、やはり当時も大いに議論があったようです。

なお、厚生年金は、当初は、「サラリーマンとその妻の二人分を保証すること」を想定していた制度ですが、3号年金導入時に行われた年金改革で「年金は個人単位の保証とすること」が明確に打ち出され、「世帯単位」という想定は無くなっています。
「あれ?3号年金こそ夫婦世帯を想定した制度なのでは。なぜそれが個人単位ということになるの?」という疑問が湧くことと思いますが、「無収入の主婦個人にも年金権を確立した」という発想だったようです。
(この辺のことについて次回詳しくみていきます)

以上の経緯を、厚生労働省のサイトでは以下のように説明しています。

『改正前は民間サラリーマン等の妻(専業主婦)は、夫の年金(配偶者加給年金額等)で保障することとされ、また、国民年金に任意で加入することができた。しかし、国民年金に任意加入していない妻が離婚したり、障害になった場合には年金が受給できないという問題や、任意加入するか否かによって世帯としての年金水準に差が生じたりするという問題があった。このような問題を解決するため、サラリーマン等の妻(専業主婦)も国民年金に加入を義務づけ(第3号被保険者)、加入者1人1人に自分名義の基礎年金を支給することとした。また、その保険料負担については、専業主婦には通常、独自の所得がないことから、医療保険同様、個別に負担することは求めず、夫の加入する被用者年金制度で負担することとした』

「専業主婦には通常、独自の所得がないことから、医療保険同様、個別に負担することは求めず」?なんでそうなった?サラリーマンの妻以外の無収入者はどうなったの?
とまあやっぱり疑問とツッコミどころ満載かと思いますが、今回はこの辺で。

3号制度制定当時の雰囲気と制定までの経緯を知るのにぴったりな書籍が公開されていたので、次回はそれを紹介したいと思います。


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