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第3号被保険者制度(3号年金)を批判する・その3〜年金局長の著書(2)

引き続き、年金局長の著書を見ていきます。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001hjdu-att/2r9852000001iqsm.pdf

1985年(3号制度制定当時)には女性労働者数が専業主婦の数を初めて抜いて、また主婦も国民年金に自主的に加入する率が7割に及んでいる状況が前回説明されました。
状況的に主婦ももう国民年金保険料の支払いを義務化しても良さそうなものですが…



3号年金がなぜ必要だったか

国民年金の全被保険者数は、昭和五十九年度で約二五〇〇万人であるから、その四分の一以上がサラリーマンの妻の任意加入である。すでにこれだけの人が国民年金に加入し、長年にわたって保険料を納めており、このことがいまの国民年金制度を財政的にも支えているという事実は大変な重みをもっている。いまになって国民年金の任意加入制度をただ廃止するわけにはいかないのである。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 136ページ

国民年金加入者の4分の1は主婦だったとは知りませんでした。結構なボリューム層ですよね。
しかも、厚生年金と国民年金を合わせた全被保険者数は、「女子2500万人」に達していて、「男子2700万人」と大差なかったらしいです。ただ廃止するわけにはいかないと言いますけど、そのまま強制加入に移行しても、それほど深刻な影響にはならないですよね。

しかしサラリーマンの妻を国民年金に強制適用することについては問題も少なくない。最大の問題点は、どうしてすべての人に保険料を納めてもらうかということである。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 136ページ

サラリーマンの妻以外の強制適用の時はそれでも構わず推し進めたんじゃないんですかねえ。

すでに七割の人が任意加入して保険料を納めているのだからそれほど心配ないという意見もあるかも知れないが、サラリーマンの妻のなかには夫の収入が低く、保険料を納めることのできない免除対象者は当然いると思わなければならない

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 136ページ

他の無業者と同じルールで免除にすればいいのではとしか思いませんが。
しかしやっぱり「すでに主婦の七割が納めてますよね?」って意見、当時もちゃんとあったんですね。そりゃそうですよね。

しかしサラリーマン世帯についてまで個々に収入調査をして保険料の負担能力の有無の認定をすることは実際上不可能である。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 136ページ

まじですか??サラリーマンの給料は全額把握して厚生年金きっちり天引きしてるのに?家でやってる副業までは見抜けませんてこと?だったら自営業者のほうが把握難しくないですかね。

また保険料を納められる人であっても、保険料の納め忘れや滞納ということがある。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 136ページ

なんかもう面白くなってきました。なんで主婦だけそんなに手取り足取り心配してあげているのか。すでに主婦以外の女性は強制加入させられているうえに、当の主婦ですら七割が自分から加入済みなのに。

そこで現実的、実際的な方法として、サラリーマンの妻は一人一人保険料を納めず、夫の厚生年金の保険料の中に妻の国民年金の保険料の分も含まれていることにし、夫と妻の国民年金の保険料分を厚生年金会計から一括して基礎年金の拠出金として国民年金会計の中の基礎年金勘定に払い込むことにしたのである。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 136ページ

「したのである。」と言われても、なんかいきなり結論ぶっ飛ばしてませんかね。現実的な方法とは。私の感じる現実とはずいぶん異なるようです。
これって、厚生年金の加入者全員に妻がいるという前提なしには成立しない論理じゃないんですかね。

3号制度への疑問の声に答える局長

こういったサラリーマンの妻の取扱いについて国会ではさまざまな意見がでた。まずサラリーマンの妻だけが自ら保険料を納めないで納付が受けられるのは社会保険の理論からいっておかしいという意見である。しかし妻の基礎年金はこれまでの夫の加給年金を増やして妻名義のものにしたものであると考えれば、これまでどおり夫の保険料でまかなわれることにしてもそうおかしことではない。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 137ページ

ほらやっぱりおかしいって言われてる。

この理屈だと、配偶者加給年金が全廃されているべきですけど、妻が終生受け取れたこの頃よりもだいぶ短く期間限定となったとはいえ、2024年の今に至るまで連綿と続いてるんですよね。
そもそも、年金制度を個人単位の保証とすることが、年金改革の最大の目的だったような。これまでどおり夫の保険料でまかなわれることにしたらおかしいじゃないですか。しかも負担してるのは「夫」じゃなくて「厚生年金加入者全員」なのに。

健康保険でも夫の保険料で妻や子に保険給付が行われている。仮に夫の保険料に妻の分を含めるのであれば、妻がいる場合といない場合で夫の保険料率に差をつけるべきではないかという意見もあった。それも一つの理屈かも知れないが、健康保険でも妻や子の有無や数によって保険料率に差は設けられていない。それに差をつけるとすれば事務的にもたいへんである。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 137ページ

健康保険制度は主婦と他の無業者とを分けてないんだから、それを参考にするなら、他の被扶養者にも3号を適用するか、他の被扶養者と同様に主婦も年金払うようにしないとやっぱりおかしいですよね。
事務的にもたいへんなところ恐れ入りますけど、サラリーマンの妻だけ特別扱いする3号制度もよっぽど事務的に大変じゃないんですかねえ。

もう一つせっかくこれまで多数のサラリーマンの妻が、自分の老後の年金のために自ら保険料を納め、それによって年金に対する自助努力や自己責任の意識が育ってきたのにいまこれをやめるのは惜しいという意見があったが、この点については率直にいって私もそういう気がしないではない。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 137ページ

(苦笑)
その後40年間、見事に主婦の自立心を奪ってきましたね。

さて続けて、「夫が仕事を辞めたり死んだりしたときに、事務的に煩雑じゃないか、実務上うまくいかないのではないか」という反論に対して局長答えていわく、

それだけにこれからサラリーマンの妻は、自ら保険料を納めなくてもよいかわりに、必要な届け出はきちんきちんと行わなければならない。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 138ページ

え、私も必要な届け出をきちんきちんとするから年金も健康保険も免除させてくれませんかね。
そもそも1号でも2号でも確定申告があったり転職や転居をする時には届け出必要じゃなかったっけか。

今回の改革でサラリーマンの妻にもこれからは加入期間40年で5万円の基礎年金が保障されることになる。そのかわり夫の厚生年金は、これまでの夫婦二人分の水準から単身の水準に下がり、妻分の加給もなくなる。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 138ページ

ここ重要ですね。というのも「厚生年金はもともと夫婦二人分の金額を払って二人分の年金もらう制度だ」という理由で3号年金を擁護する人を頻繁に見かけるんですよ。
3号ができた時に、ちゃんと年金権は個人単位となることが強調されている。それこそが当時の年金改革の柱ですからね。1985年以降の厚生年金加入者は二人分払ってはいないし、二人分の年金が支払われるべき根拠はどこにもないということがよくわかります。

3号制度を成立させて感慨に浸る局長

今回の改革でサラリーマンの妻をどう取り扱うかは、年金の体系や給付の仕組みの基本ともかかわる問題だけにもっとも迷い、苦心した点の一つである。これについての意見、評価は分かれるかも知れないが、これによってこれまで不安定であり、あいまいであったサラリーマンの妻の年金制度のうえでの取扱いが明確になり、名実ともに女性の人権と権利が認められたといえるであろう。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 139ページ

……「名実ともに女性の人権と権利が認められたといえるであろう
うう腹立つ。

一体何にもっとも迷ったのか知りませんけど、他の女性と同様に主婦も強制加入で保険料を徴収する方向にすれば、「苦心」なんかする必要なく平等な年金権を実現できたはずなのに。

今度の改革では、障害年金の改善とともに、夫人の年金権の確立が改革の大きな柱であり、遺族年金も大幅に改善され、かねてから指摘されてきた問題がすべて解決されたことは女性にとっては喜ばしいことであり、評価されなければならない。

「新年金法・61年金改革・解説と資料」吉原健二編著 147ページ

「夫人の年金権の確立」というか「家父長制特権の確立」じゃないっすかね?
問題がすべて解決されたどころか巨大な火種を植えつけられて40年も女性を分断させてきたんですが。
しかも「女性にとっては喜ばしい」とか言うの図太すぎませんか。「評価されなければならない」て自画自賛楽しそう。

さてクライマックスを迎えてツッコミどころだらけでしたが、今回はこの辺で。次回は、働く女性の代表として女性議員がどのように反論したかを見ていきましょう。

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