2018.6.22 おもしろい論文レポート[11]

Kim, S. Y., Sanz-Aguilar, A., Minguez, E., & Oro, D. (2012).
Small-scale spatial variation in evolvability for life-history traits in the storm petrel.
Biological journal of the Linnean Society, 106(2), 439-446.

【要約】
形質の進化プロセスは、遺伝可能性と自然選択圧に左右される。本研究では、同じ島の別の洞窟で繁殖している2つのヒメウミツバメ(European storm petrel)個体群を対象に、1) 繁殖開始齢、および2) 繁殖のタイミング=産卵日について量的遺伝解析*を行い、その進化可能性を評価した。どちらの形質のばらつきも、繁殖地の違いと生まれた年の違いによってもっともよく説明された。ただし産卵日の遺伝可能性が統計的に有意だったのは片方の繁殖地のみで、その繁殖地では早く産卵した個体の繁殖成功率が高かった。このことから、小さな空間スケール(繁殖地間の距離は150 m)でも選択圧の違いと遺伝的交流の少なさによって生活史形質の進化可能性に差が生まれることが示された。

*量的遺伝解析:表現形質は遺伝要因と環境要因によって形成される。ある形質について、各要因の寄与率を推定するのが量的遺伝解析(だと思う...)。

【客観的な意義】
・個体群における繁殖開始齢や繁殖タイミングの進化可能性は、環境変動によって生じ得る好ましくない繁殖環境を回避できるかどうかに直結する重要なパラメータである。その一方で、進化可能性を推定することは簡単ではない。この論文では、繁殖地同士が近いため経験する環境はほぼ同じと仮定でき、しかし遺伝的には分離している個体群を対象とすることによって進化可能性を推定した。

【この論文を選んだ理由】
・卵を1個しか生まず繁殖開始までに数年かかる海鳥では、形質の進化が起こりにくい(最適化されにくい)のではないかと最近気になっていて、「evolvability seabird」で論文を検索した。まだ勉強中。

【おもしろいと思ったポイント】
・150 mしか離れていない繁殖地の間で個体数の変化のしかたや遺伝的形質が異なっていること。そして、標識個体の95%が出身繁殖地に戻って繁殖すること。

・”animal model”という、表現形質のばらつきに遺伝要因がどの程度寄与しているかを推定する方法があるらしい。


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