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[論文自己紹介] オオミズナギドリは夜に沖を飛ばない

(バイオロギング会報 2019年8月号)

こういう映画のタイトルありそう。

海鳥は外洋で餌を取った後、海の上を数十〜数百km移動して営巣地へと戻ります。私たちは2012年に、オオミズナギドリという海鳥の帰巣を始めるタイミングに関する論文を発表しました [1]。この研究では、GPSロガーで記録した帰巣経路の時間・空間パターンを解析した結果、下図に表したような傾向が明らかになりました。オオミズナギドリは餌場から島までの距離もしくは所要時間に応じて島へ帰り始める時刻を調節しており、結果として到着時刻が日没後の数時間に集中していたのです。

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このような行動について当時は、「まるで門限を守ろうとしているかのようだ」と表現していました。しかし、オオミズナギドリにとっての門限とは一体...?移動のタイミングを適切に調節する能力を持っていること自体も重要な事実ではあるのですが、どうしてそこまでして決まった時間帯に帰ってきたいのかはわからないままでした。 オオミズナギドリは猛禽類などの昼行性捕食者を避けるため、夜間しか巣に戻らないことが古くから知られています。それ以外にも帰巣のタイミングを左右する何かがあるのでしょうか?

この疑問に対する答えの一部を明らかにした論文が先日公開されました [2]。結論から書きますと、オオミズナギドリが帰巣開始のタイミングを調節していたのは、「日没後に外洋を飛ぶことを避けるため」だったようです。今回の研究では、GPSロガーで記録した採餌トリップ経路の解析に加えて、鳥たちを人為的に海へ運び出して放鳥するという実験もしています。時刻が帰巣開始の決断に及ぼす影響を調べるために、日中・日没頃・夜間の3回に分けて、営巣地から100 km以上離れた外洋から放鳥しました。

自然状態(採餌トリップ)と半自然状態(放鳥実験)での帰巣経路から、オオミズナギドリは移動のタイミングとルートを適切に調節することによって日没までに本州沿岸域に戻り、日没後は岸沿いのみを移動していることがわかりました(下図)。なぜ夜間に外洋を飛ばないのかはまだわからないのですが、暗闇では飛行もしくはナビゲーションに不都合があるのではないかと考えています。つまりオオミズナギドリの帰巣においては、到着時刻(門限)ではなく、帰巣の道中に制約があったということになります。

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岩手県の無人島でオオミズナギドリの研究を始めた年から10年が経ち、牛歩ながら、帰巣行動を形づくっているルールみたいなものが少しずつ見えてきた気がします。次のステップとして今は、他の島で繁殖しているオオミズナギドリや近縁種との比較解析に取り組んでいるところです。


[1] Shiomi, K., Yoda, K., Katsumata, N., Sato, K. (2012) Temporal tuning of homeward flights in seabirds. Animal Behaviour, 83: 355−359

[2] Shiomi, K., Sato, K., Katsumata. N., Yoda, K. (2019) Temporal and spatial determinants of route selection in homing seabirds. Behaviour, 156: 1165−1183


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