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35mmフィルムで味わう もうひとつのWKW『マイ・ブルーベリー・ナイツ』@新文芸坐

王家衛(ウォンカーウァイ)監督作品の4Kレストア上映、通称「WKW4K」がすごい。

シネマート新宿では、コロナ禍以降初めて333席が満席になったのが、このうちの一つ『恋する惑星』だそうで、喜んでいいのか新作ではないことを嘆くべきなのか映画好きの一人としては正直なんとも言えない気持ちではある。
現時点でWKW4Kシリーズでは『恋する惑星』『2046』『天使の涙』を見ることができて、シネマート新宿のクラシカルブーストサウンドという音響と相まって久しぶりに大入りの人の熱気が漂う劇場で映画体験をすることができた。

...と、その話は長くなるのでこの辺にしておくとして、私が初めて叩いたウォンカーウァイの扉は香港映画ではなく、この『マイ・ブルーベリー・ナイツ』だった。2008年に公開されたとき、私はおそらく高校生くらいで、多分一度劇場で観ているはずなのだけど、まだそこまで映画にどっぷりではなかったので定かではない。
当時はウォンカーウァイの名前も知らず、とにかくノラジョーンズのファンだったから、彼女が音楽の監修もしているとのことで見に行った記憶。ジュードロウを知って、好きになったのもこの作品からだと思う。
(ちなみに少し脱線すると、最初にノラを知ったのは小学校の時で、ALTの先生がリスニングの虫食い課題に使ったのが「Don't Know Why」だったのである。今考えると渋い選曲では...?そのあと、ポルノ昭仁さんが好きなアルバムで「Feels like home」を挙げていてその辺からちゃんと聞くようになった。10年くらい前に来日したとき武道館も行ったよ。)

30年ちょい生きてきた中でベスト3に入る作品と言ってもいいと思う。思うというか、ベスト3だと断言しよう。私は自分の葬式の時は葬式よりも好きな映画を流してみんなに観てもらう会にしてほしいとずっと思っているのだけど、そんなわけで、そのうちの1本が池袋の新文芸坐で35mmフィルム上映されるという情報を終映の前日に聞きつけて、最終日に滑り込みで行ってきた。
WKW4Kに合わせて『欲望の翼』を上映しているところは知っていたけど、まさかブルベリナイツも上映してるとは全く思ってなかったので本当にびっくりして、情報を知った時には「まさか!」とゾワゾワが止まらなかった。

この作品って自分が思ってるより世間の印象が薄いというか、評判も微妙な感じ(あくまで自分が目にするものの範囲にはなるけど)で、雰囲気ロマンティックロードムービーと言われてしまえばそれまでなんだけど、そんなこと言ったら「恋する惑星」だって雰囲気ちょいキュンストーカー映画じゃんか(※「恋する惑星」めっちゃ好きですよ!)。

そういう訳で、新文芸坐。ひっさしぶりに来た。かつて吉田大八監督作品オールナイト一気見上映の時に来た以来。この煙たいというか、濁ったというか、パチンコや風俗店が建ち並ぶ通りが、魅力的でもありちょっと足を踏み入れにくかったこともあるけど、建物に入ってしまえばきれいなんですよね。TOHO新宿と歌舞伎町みたいな雰囲気の縮小版みたいな。
席は前の方。だってスクリーンでしょ?大きい画面でみてなんぼじゃないですか!というか私DVD持ってて100回くらいは見ているので、せっかくなら家では味わえない画角で...!ということで、前の方。

前の回が終わったと思ったらBGMがノラジョーンズ縛りになった。
このあたりから席でそわそわ。あんなに席座ってから始まるのが待ち遠しい10分もなかなかない。

そして始まる本編。STUDIO CANALの青空のロゴが出てきて、The storyのイントロが流れ出して、そう、Cat powerのLiving proofが流れて、ジェレミー(ジュードロウ)が「はい?誰?ごめん分からん!」って電話の受け答えするところから始まるっていう何巡したか分からない冒頭...泣いた.....何回見てんのっていうくらい見てるし、なんなら家帰ればいつでも見れるんだけど、つい感極まってしまった...。そしてフィルム上映のざらっとした質感もすごい良かった...。
ノラも初演技だったこともあって、演技の"え"の字も分からない時に見たのにも関わらず「演技がぎこちない」と思ってしまったのですが、そこをサポートする名優たちがすごすぎて、ノラの演技も愛嬌だわ、と思ったくらいでした(あと当時YUIが「タイヨウのうた」やってたからそういうもんだよね、って思った記憶がある)。
この作品で当時すごいなぁと思った人はみんな本当にすごい人で、誕生日が同じナタリーポートマンはもちろん知ってたんだけど、デヴィッドストラザーンやレイチェルワイズはここで認識をしたと思う。後に、ダニエルクレイグの奥さんでレイチェルが出てきたときは「え!!スーリンじゃん!!」と腰を抜かした。そして、この間『ナイトメア・アリー』でデヴィッド出てきたときは結構久しぶりの再会で「え!また飲んだくれてる役なの!」と笑。そしてなんといってもジュードロウ....。作品はそのあともいろんな作品見てきて渋さも増してかっこいいけど、やっぱりブルベリナイツのジュードがどうしたって好きなんですよね。にこっとして"Leave it to me"ってケーキ用意するシーンは全世界で一番セクシーな"Leave it to me"なのではないかと思っている次第です。そしていつも売れ残るブルーベリーパイを作り続ける理由も好きなのです。

細かいところは突っ込みどころあったりもするんだけど、アメリカの各地の雰囲気とか、音楽とか、ビジュアルとか、もう本当に自分にとって心地が良くて、なんだかずっと見てしまえるそんな作品。

そんなわけで、本当はこの作品のあとにもう1本映画はしごするつもりでいたのですが、軽くふわふわとした酩酊状態(素面です)になり、そんな余韻を味わいたいなぁ、と思ってしまったため、池袋の喧噪を抜けて家の近くのおいしいものしか出てこないお店(そしてノラジョーンズが流れるお店)でおいしいものだけ食べて帰りましたとさ。

1日4本くらい映画をばーーっと見られる日も贅沢だな、と思うけど、1本の映画の余韻にじっくり浸るのもまた贅沢な時間で、これだから映画を見るのは楽しくてしょうがない。

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