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ベイビー・ドライバー

当初は都心でもごくわずかの公開であった映画『ベイビー・ドライバー』が徐々にスクリーン数を増やし、先週は40スクリーンを占めるまで人気を博している。知人がTwitterでべた褒めしているのを見かけ、劇場へ足を運んでみることにした。

主人公のベイビーは事故で耳鳴りが続く後遺症を持つ。なぜか、音楽を聴いている間だけ耳鳴りが静まるため、常にiPodを愛用している。職業は強盗グループの逃走車を運転するドライバー。腕はすこぶる高く、彼の逃走劇に失敗はない。耳鳴りを抑えるため、もちろん運転中もイヤホンで音楽を聴き続ける。音楽に乗り高揚することが、彼に超絶なドライビングテクニックをもたらしているのだった。ベイビーはコーヒーを飲みに入ったレストランでウエイトレス・デボラに一目惚れしてしまう。運悪く、荒っぽい強盗仲間にその関係を知られてしまい……。

近年飛躍が目覚ましい音楽映画の要素がアクションとMIXされ、クールなリズムムービーに仕上がっている。作品自体は『ゴッドファーザー』などでも描かれた定番のテーマ「父性」を巧みに扱っており、物語も芯の通った作品だ。主人公のベイビーは幼少期の事故で両親を亡くしている。母親は歌手であり、音楽を手放せないのもその影響を色濃く受けているからだ。両親同士の仲は非常に悪く、父親が母親に暴力をふるうことも日常的であった。先の事故も、運転中に両親の諍いがエスカレートしたことに原因があり、その夢は今も彼を苦しめている。

この作品の主要な人物は、恋人以外すべてベイビーより年上の男性で占められている。彼らはベイビーの能力に驚きながらも、彼を認め、対峙し、踏み台となる役割として登場する。強盗団のボス、仲間2人、育ての親。前半は彼らの敷いたレールの上を従い進むだけだったベイビーが、物語を通じて自分の生き方を見つけていく。彼はどの父親たちとも違う、彼自身の生き方を見つける。クールなオープニングと対照的なラストシーンは、定番の終わり方と少し異なるベイビーの答えを教えてくれる。自らの選択が深く考え抜いて見つけた道であることをより深く受け手に感じさせる、爽快なラストシーンだ。

この映画はベイビーのイヤホンごしの世界を音でも上手く表現している。片耳しかイヤホンをつけていないときはそちらの側のスピーカーからしか曲が流れない。ちょっとした工夫なのだけど、その細やかさが嬉しい。間に合う方はぜひ劇場でご覧あれ。

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