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雪が解ける頃に


少し手が触れただけ


それがきっかけだった


同じアパートに住む君と一緒に過ごす時間が増えるまでに時間はそうかからなかった。

同じ学校に通う人が自分に近くに住んでいることに
入学してしばらくして気がついた8月の暮れ

すっぴんメガネのボサボサ姿を自分の行動範囲内の人に見られたことに動揺して、挨拶もまともにできなかった記憶がある

それから少しして、同じ授業に君がいることを知った

女の子に囲まれながら賑やかに過ごす君

君の印象は根明の人懐っこい犬みたいな子だった

どちらかというと自分は猫

気分屋で自分が求めている時以外には
必要ないとぷいっとどこかへ行って少し離れたところでお昼寝する
でも構ってほしい時は擦り寄って横腹あたりにペトリとくっついて寝る

犬と猫は同じ歩幅では進めない

そう思いながら関わることのない存在として認識をしていた

時間に対する対価を求めてしまうわたしは
当然飲み会だとかご飯会にはほとんど顔を出すことはなかった

友達との付き合いもあるのでと、気分がいい時だけ
少しだけならと参加することがあった。

気分で参加を決めた飲み会に、たまたま君がいて
意外にも会話をする時間があった

この間エレベーターで会いましたよね?
同じ階に住んでたんですね

話したこともない人を覚えてるなんて
よく周りを見ている犬だな

そう頭で思いつつ、寝起きすっぴん姿ですみませんと
よくわからないけど詫びてしまった

今度住人飲み来てくださいよ

と飲み会に誘われた。
同じアパートに住む人でよく飲みに行くらしく
同じ住人のわたしにも声をかけてくれた

メンバーにはなんとなく知っている人も居るので
まあこれも付き合いか…と思いあまり考えずに
是非!と返事をしていた

深く知らない人との飲み会に費やす時間に対する対価はどんなものなのだろうか

自分にプラスになるほどの時間になり得るのか


少し気になった

その小さな好奇心が、今も君の横腹にピトリとくっつきながら過ごすこの時間を生んだ

その日はもうすぐ春というのにものすごく寒くて
雪が積もるほどだったが

家の近くの居酒屋で飲んでいるというから
少しだけ顔を出そうとパジャマ姿で向かった

近場だからとカーディガンを羽織るだけで向かい
相変わらず皆でヘラヘラと笑う時間を過ごし
閉店の時間に店から追い出されるように外へ出た

寒いな!!!!!!!

って大声が出る。

寒〜い

とか可愛く言えるレベルではなく、寒い

そんな時に君はこれ羽織りなよと自分のコートを肩からかけてくれた

あーいいよ!そっちも寒いんだから!

って断るも、まあまあと、そのまま肩にかけて
酔いが回っている私たちは雪を投げて遊び出した

雪遊びなんて久々にしたなぁって思いつつ
しっかり雪を被りながら帰る道

コートありがとう、そう言いながら君の肩に掛け直す

着てればいいのに!と言いながらも君の手は赤くなっていて寒かったんだろうなぁと感じた

近いから大丈夫。そう返しながら、雪解け地面をゆっくりと歩くおぼつかない足元のわたしに

危ないから気をつけてと、手を差し伸べてくれた

あーうん大丈夫だよ、ありがとう

と言いながらも差し出された手を掴まずにはいられなかった

やっぱり寒かったでしょ?

とても冷たく固い指先に触れごめんと伝えた

ちょっとね。と笑う君の優しさにもう少しだけ触れてみたくて、掴んだ手を離さずに居た


そのまま手を掴んだまま君は歩き出した


この後どうなるの?


いつ手を離すの?


その先を知りたくてそのまま歩いた

皆に気が付かれないようコートで繋いだ手を隠し
そのままエレベーターに乗り込んだ

また明日学校で、そう声をかけて自分の階になって降りて行く住人たち


私たちの階はもう少し上


なぜ手を離さなかったんだろう、互いに

そんなことをぼんやりと考えているうちについてしまった


降りる時も手は繋がれたままで、この先に何かがあるのか、気になって立ち止まってしまった


もう寝るの?


そう問いかけてみた。


この言葉がどういう展開を望んでいるか、
きっと君は理解したのだと思う



一緒に寝る?という答えを導き出すための
最適解だった



lazy S.


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