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テンペラの魅力=クリヴェッリの魔力

先月訪れた<メトロポリタン美術館展>。
第一章は【信仰とルネサンス Devotion and Renaissance】。
イタリア・ルネサンスと北方・ルネサンスを代表する画家たちの名画17点の前で 夢心地になりました。
今回はどうしてもお伝えしたい、カルロ・クリヴェッリ『聖母子』(1480年)の魅力について。

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展示室内で、この作品が放つ 発色・ツヤに強く惹きつけられました。
画像では その素晴らしさが伝わらないのが残念です(涙)。

これは何なのでしょう。作品に可能な限り顔を近づけて、しっかり観察してきました!
平面的に薄く色づけられているようです。それなのにツヤツヤして滑らかな広がりを感じます。
おおおーーーーッ!これが[テンペラ]絵具の美しさなのですね!

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美術に関わったことも興味を持ったこともなかったので、西洋絵画の “画材” については一番理解が難しい分野です。
美術本の説明によると、
◆ 絵画が描かれる方の素材を【支持体(基底材)】と呼び、[板]、[漆喰層]、[カンヴァス]、[紙]などがよく使われている
◆ 色をつけるために用いる様々な材料を【色材】といい、[フレスコ]、[テンペラ]、[油絵具]、[アクリル]、[パステル]などがある

西洋絵画鑑賞を始めた頃から、キャプションなどで[フレスコ][テンペラ]などの呼び名を目にしていたのですが、“色材” について特に意識したことはありませんでした。
これすごい!と思ったのが、
①ルーヴル美術館でボッティチェッリ『ヴィーナスと三美神から贈り物を授かる若い女性』([フレスコ]画)を観たとき、

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②ハマス・ホイやヘレン・シャルフベックが大いに影響を受けたシャヴァンヌ作品(フレスコ画ではないのですが その風合い)を見直したとき。
左下)ハマスホイ『若い女性の肖像』(1885年)
右下)ヘレン・シャルフベック『カリフォルニアから来た少女』(1929年)

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漆喰に染み込んで作品に一体化された[フレスコ]の独特の雰囲気、美しい風合い、作品全体が放つスピリチュアルな魅力に気がついたのです。
ツヤを抑えた作品から、そこに留まったままの永遠の美しさが伝わってきます。

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さて 今回強く意識したのがカルロ・クリヴェッリの[テンペラ]絵具。

2021年の<ロンドン・ナショナル・ギャラリー展>で作品を観て以来、カルロ・クリヴェッリは 私が注目する画家の一人になりました。
『聖エミディウスを伴う受胎告知》( 1486年)

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207 x 146.7 cm という大きなカンヴァスに吸い込まれないように!自分を保つことに苦労した(笑)、そんな魅力を持っていました。
 <ロンドン・ナショナル・ギャラリー展>の図録を見直すと、[卵テンペラ・油彩]×[カンヴァス]となっています。【色材】を全く意識できなかったことが残念。いつか再会した時には必ずや…。

美術本によると[テンペラ]とは、
顔料と黄卵と「混ぜ合わせて(テンペラーレ)」絵具を作る技法
◆ 乾燥すると、発色が鮮やかな半光沢の画面になる
◆ 乾くのが速いうえに乾燥後は耐水性になるため、色をぼかしたり広い面に均一に塗るのが難しい
◆ そこで細い線を重ねて描画する「ハッチング」という技法が発達した
とあります。

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うんうん、発色が鮮やかで光沢(ツヤツヤ)の画面になっていました!
そして細い線を何度もひいて陰影をつけているのが見えます(下)。これが「ハッチング」技法なのですね!

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また[油彩画]との比較について、
◆[テンペラ]は耐久性に富む絵画層を作る
◆ [油彩画]のような黄変・暗変を示さず、経年劣化が少ない
とあります。
先日noteに投稿したドラクロワ『アルジェの女たち』(油彩)のような経年による黄ばみがないのですね👏。

さらに<メトロポリタン美術館展>の図録に次の記述を見つけました。

クリヴェッリの作品はしばしば、その優れた絵画技法のおかげで、欠損のない保存状態で今日まで伝わっており、この『聖母子』も同様である

540年以上も前に描かれた『聖母子』。今日でもクリヴェッリが乗せた新鮮な色彩をそのまま鑑賞することができるなんて…素晴らしい✨。

問い [テンペラ]といえば…?
答え はい、カルロ・クリヴェッリです!
(あくまでも私見です💦)

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ちなみにこの『聖母子』は、他にも見どころ満載!
絵画作品の上に止まっているような実物大のハエに聖母マリアが送る視線はあやしく、幼児キリストは「この五色ヒナは、わいのもんやでぇ!」と言っているような仕草(失礼をお許しあれ)。首や顎のシワも面白い!。
聖母子の後ろに吊るされた藤色(ピンク)の布はやけにリアルに描かれ、キュウリとリンゴは並はずれて大きい。
画面下部の黄色い布に留められた白いタグには「ヴェネツィアのカルロ・クリヴェッリの作品」と書かれているそうですよ。

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<メトロポリタン美術館展>には[テンペラ]の作品が6つ来日しています。

フィリッポ・リッピ『玉座の聖母子と二人の天使』(1440年頃)も[テンペラ]絵具を楽しめます。

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こちらも、描きこまれた細部まで見どころ満載!なのでお楽しみくださいませ。

<終わり>

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