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松方コレクション展 作品紹介 その3
現在開催中の美術展《松方コレクション展》の作品をご紹介しています。
第3回目は、松方幸次郎氏が1921年にパリのデュラン・リュエル画廊より購入した この一枚です。
ジャン=フランソワ・ミレー『春(ダフニスとクロエ)』1865年
国立西洋美術館所蔵 235.5 x 134.5cm
【春、この一枚】
若葉に野花、そしてまだ幼さが残る少女と少年。芽生えの季節『春』らしさ満載の一枚です。ほの明るい空から柔らかな陽光が降りそそぎ、遠くには穏やかな浜辺、ヤギの親子もいます。鳥の雛たちにパンくずや山羊の乳で作った餌を上げようとする少女と、巣を両手で支える少年が微笑ましいですね。少女の腰下にまとった布や少女の頰は柔らかなピンク色で、画像ではわかりにくいのですが少年の頰はさらに赤みを帯びています。赤系の色が全体をやさしく温かい印象にしています。
<ダフニスとクロエ>は古代ギリシャの物語で、二人の成長と愛の成就が語られているそうです。この物語をモチーフにして、ミレーは人生の春に四季の春を重ね合わせてこの一枚を描きました。
同じ<ダフニスとクロエ>をモチーフにして作曲家ラヴェルはバレエ音楽を、三島由紀夫は「潮騒」を生み出した、と山田五郎氏と学芸員の先生がテレビで話していました。
展示室の作品解説によると「柔らかい色調と筆遣いで無垢な二人と牧歌的な光景を描いた『春』は、身近な自然や農民などを描いたミレーの作品のなかでも、古典的な傾向が強い作品と言える」そうです。
松方コレクション展の会場、第V章 パリ のスペースには、常設展でお馴染みの絵画が並んでいます。ルノワール、シャバンヌ、クールベ、モネ…。しかし「当時印象派を支援していたデュラン・リュエル画廊から購入した絵」という画廊別の視点で作品を並べるとワクワクしてきます。
【ミレー装飾画『冬』?】
実は、この『春』と出会う数ヶ月前、旅先で偶然この作品と同じ縦長サイズの一枚に出会っていました。そこはミレーの絵画を数多く所蔵していることで有名な山梨県立美術館。ライトを暗くした展示室内に並べられたミレー作品の数々。
早くに亡くなった奥様のなんとも愛らしい肖像画の前で立ち止まり、「これが有名な『種をまく人』か…」と展示室を歩いていると、『冬(凍えたキューピッド)』がありました。他にはない縦長の画面や古典的な題材に少し違和感を覚えたのを覚えています。
雪の中を裸足で歩いてきたと思われるキューピッドがとにかく寒そう!全身がすでに温かい血はもう流れていないだろうと思わせるような灰色をしています。キューピッドなら、暖かい場所へ飛んでいけばいいのに…。照明を落としエアコンの効いた展示室内で、こちらまで寒くなり身震いをしたのを覚えています。今考えると、まさに『冬』を表現した一枚なのです。
しかし扉を開けキューピッドを迎え入れる奥さんと旦那さんのなんとも愛情に満ち溢れていることか。ミレーと言う人はとても家族を大切にしていたのだろうなぁと、縦長の画面にギュッと込められた想いを感じ取ったような気がしたものです。
その数ヶ月後に国立西洋美術館の常設展で今日ご紹介している『春』を初めて見たとき、衝撃を受けました。私は既に『冬』を観た、そして今『春』を見ている。『夏』と『秋』もあるのだろうか?物事を知らないって、楽しいですね(笑)
早速調べてみました。
【ミレーと「四季」について】
まずは作家について。ジャン=フランソワ・ミレー(1814ー1875年)は、生活のためにロココ風の作品を描き、裸婦も描いていましたが、一念発起バルビゾンにて農民たちの労働風景を描くようになります。『晩鐘』『落ち穂拾い』『種を蒔く人』に代表される少し暗くてどこか宗教画を思わせる、バルビゾン派を代表する画家です。
1864年、50歳を超えたミレーは、サロンに出品した『羊飼いの少女』が絶賛され、評価が一気に高まります。同年1月、ミレーは、友人の建築家から銀行家トマの邸宅の4枚の装飾パネルを依頼されています。ミレーはこれに応じ『春(ダフニスとクロエ)』『夏(豊穣の女神)』『秋』『冬(凍えたキューピッド)』の「四季」 連作を制作したのです。
『春』『夏』『冬』は壁に飾るために、そして『秋』は天井画として描かれました。
【「四季」それぞれの運命】
その後トマ邸は火災に遭い、「四季」はバラバラになります。
天井画として描かれた『秋』は現存しないそうです。うーん、残念。
『春』は前述の通りデュラン・リュエル画廊に渡り、1921年頃松方幸次郎氏が購入します。そして1959年、海を渡り国立西洋美術館にやって来ました。
古代ギリシャの詩人アナクレオンの詩から着想を得た『冬』は山梨県美術館へ。
そして『夏』は現在ボルドー美術館にあるそうです。画像で見る限り、こちらはなんともユニークな作品です。
いつの日かボルドー美術館にいる豊穣の女神に会いに行くぞ!と心に誓ったのでした。
ここからが今回の発見です。今回の展示会を期に図録を読んでいたところ、
“天井部分を飾った『秋』は焼失してしまったが当館ではその初期習作素描を収蔵している”
という一文を見つけました。おおーっ!やりますなぁ、さすが国立西洋美術館。
勝手に再現してみました。
「四季」に囲まれた部屋にいる自分を想像するだけで楽しくなってきます。
こんな素敵な部屋を再現できるのは、大塚国際美術館さんだけでしょうか?
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