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これも作品の一部! 画家のサイン

2020年10月、全館休館する直前の国立西洋美術館・常設展示室。
作品の細部まで逃さず見ようとして目を凝らしているうちに、画家の自署(サイン)に興味を持ったことを思い出しました。
自署の部分を撮影した画像を見ていると面白いですね。

今回は「作品の一部」として描かれている署名に注目しました。

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小さな丸ナス、お皿に乗ったみずみずしい葡萄とプラムを乗せた土台部分に何やら文字が彫られています

Ju° BaldeRama Deleon / f.162

これは作者ファン・バン・デル・アメンが 自らのフランドル系の苗字をスペイン語表記した署名と、作品の年記。年記の最後の一桁が失われていますが 1621年頃の制作と考えられているそうです。

フアン・バン・デル・アメン(1596-1631年)
『果物籠と猟鳥のある静物』(1621年頃)

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3年前に初めて観たとき、
「暗い背景の中、果物の近くに “鳥の死骸” が吊り下げられていて ちょっと怖い…。何だかゴチャゴチャしてる」と思ったのを覚えています。

17世紀前半のマドリードで活躍したバン・デル・アメンは、34歳の若さで早逝しますが、スペイン独自の静物画(=ボデコン)の発展に重要な役割を果たした画家です。

解説を読んでみると、画面を所狭しとモティーフで埋め尽くす「空間恐怖」的構図は、バン・デル・アメン静物画の前半に見られる特徴だそうです。いろいろな種類の果物がてんこ盛りで、籠からあふれ出しそうです。
おーっ、左側手前から射し込む光が写し出す影と背景の暗さが、それぞれの造形を際立たせています。葡萄のひと粒ひと粒が美味しそう!
そして吊るされた猟の戦利品は決して “鳥の死骸” ではなく、立派な食料。多くの備蓄があって喜ばしいことなのですね。
絵画をどう見たらよいのか全くわからなかった時期の感想(前述)、お許し下さい。

また75.4 × 144.5 cm という横に長い大きな本作は、邸宅内の扉口部分の上、もしくは窓の上を飾るために制作されたそうです。
少し暗い背景と カンヴァスに天井が描かれていない構図 … なるほど。
この絵を見上げる鑑賞者に、まるで本当の天井から鳥やザクロが吊り下げられているような視覚効果を与えているのですね。ふむふむ。

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そして今回注目したのは前述した画面右下の窓枠 側面に彫られたような署名。
ヤン・ファン・エイクを思い出しました!。

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ヤン・ファン・エイク(1395年頃-1441年)
『アルノルフィーニ夫妻の肖像』(1434年)ロンドン・ナショナル・ギャラリー

“ヤン・ファン・エイク ここにありき” と部屋の奥にある壁に書かれた署名。
美術解説書で説明されている通り「鏡に写り込んでいる姿が画家本人であることを示すためにこの場所に署名した」のかも知れません。
しかし私には、ヤン・ファン・エイクは「絵画作品」にサインしたのではなく、
夫妻のお宅を訪問したときに実際に「部屋の壁」にサインしていた、そしてそれを背景の一部として描いたように思えるのです。
そしてそんな横暴(=自己主張)も許される偉大なお方なのだ!と訳のわからない解釈をしています(笑)。

バン・デル・アメンが窓枠に描いた署名の写真を見て「間違いない!これは実際に窓枠に彫られている!」と解釈して一人で興奮しました。
いつかはこの目で見てみたい作品との共通点を見つけて、『果物籠と猟鳥のある静物』が大好きになったのです。

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できるだけ近づいて(もちろん、柵(結界)の後ろからルールを守って)撮影したのですが、それでも中央のサインは少しボケていますね。

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壺のようなものにうっすら文字が書かれています。

Nattier ?? 1739

作品がこちら。
ジャン=マルク・ナティエ(1685-1766年)
『マリー=アンリエット・ベルトロ・ド・プレヌフ夫人の肖像』(1739年)

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ナティエという名前と 作品の優雅さから、作者は女性かしら?と勘違いしていました。フランス・ルイ15世の宮廷画家も務めた【ロココ美術】の肖像画家、男性です。

画面右側には背の高い草(←葦だそうです)が勢いよく伸び、右肘を乗せた水壺から透明な水が流れ出るという不思議な構図は、モデルを神話の泉の精に見立てているからなのだとか。これらクールな印象のモティーフや寒色系の色使いから受ける少しお堅い感触とは対照的に、モデルのプレヌフ夫人は穏やかな表情と優雅な仕草をしています。やはり【ロココ】✨。

展示室でプレヌフ夫人の指先の動きを真似ようと近づいたとき、水瓶に描かれた署名を見つけて得した気分になりました。

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こちらは、本日のコンサートの演目でしょうか。
画面左部分に 作品名「MOZART」と画家自身の名前「Raoul Dufy」が堂々と書かれています。

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ラウル・デュフィ(1877ー1953年)『モーツァルト』(1943年)

デュフィは【フォービスム(野獣派)】に分類されるフランスの画家。
父親はオルガンを弾き 兄弟は将来ピアノ教師とフルート奏者になった、という音楽を愛する家族に囲まれて育ったデュフィ。オーケストラの稽古に通い詰めてデッサンすることもあったデュフィは、音楽に関係する作品も多く残しています。
バッハ、ドビュッシー、ショパンに捧げる作品も描いていますが、彼が最も敬愛していたのはモーツァルト。
35年という短い生涯で幅広い分野の傑作を残したオーストリア出身の作曲家に捧げる作品を十数枚残しているデュフィは、
「華やかさの陰に、えもいわれぬ哀愁が潜むモーツァルトの楽曲を色と形に翻案した」と評されているそうです。

デュフィの描く軽やかなラインと透明感ある色彩から、メロディやリズムを感じるような気がするのは正解だったのですね。

作曲家をタイトルにした作品中に描いた パレットや楽譜、演目の中に記されたサインは、作品の一部というより、作曲家への讃歌として無くてはならないものだったのでしょう。

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興味を持った自署から作品について調べていくと、いろいろな発見があって楽しい!まだまだ書きたいのですが、少し長くなったのでまた次回に。

<終わり>

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