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孤独ではないのだから

『 1人ではとても生きられない程 
過酷な出来事や悩みの多い人生の中で
人は自分の幸せや生きがいを求め続ける。
その姿は一見哀れで 
見るに堪えないもののように思えるが
その姿はとても美しく
この姿なくして人は人間と呼べるのだろうか。
自分の人生は自分で創造するしかない。
その中で、夢に誠実に向き合えば向き合うほど目の前の壁は崩れやすくなるだろう。
その道はとても険しくて孤独だ。
しかし孤独を出来るだけ自分のものにして
その中で必死にもがき、苦しみ、どん底を味わい、絶望をみることが大切である。
その絶望から這い上がるエネルギーをもって
求めてやまないものが夢である。
そして、ひたすら求め続ける精神を持つ事こそが人生なのだ。』

菊田一夫先生の言葉である。
[一字一句正確な記憶ではない事をお許し頂きたい。]

この言葉との出会いは
2019年星組公演『霧深きエルベのほとり』
東京公演中
演出の上田久美子先生が、この物語の原作者である菊田一夫先生の著書より抜粋し、楽屋前の掲示板に貼り出して下さったのだ。

「夢」という言葉から連想するキラキラとしたイメージとは真逆の言葉が続くこの文章の重さに、その場から動けなくなった。

孤独、どん底、絶望か、、

夢とは
人生とは
人間とは

頭の中に夢を描くことすら諦めたくなる厳しい言葉にも聞こえるが、
これ程までに希望に溢れたメッセージを私は他に知らない。

自分が創造した夢、自分の選んだ道、に自信を持てる様になった。
99%の苦さに勝る1%に取り憑かれた様に舞台へ立ち続ける宝塚人生であったが
壁にぶつかるたび
自分にこの仕事は向いていないのではと悩むのではなく
絶望を感じるのはこの仕事に向いている証拠
と思える様になったからだ。

悩んで正解、
逃げたくて正解。

楽しいことだけが夢ではない
なのではなく
楽しくない事も楽しめることが夢
さらに言えば
楽しくない事だからこそ夢になるのだ

絶望は希望なのである

それらを含めて考えても
間違えなく、宝塚は私の夢であった。
男役である事を求めてやまなかった。
崩しても崩しても
新しい壁がある事が楽しかった。

宝塚との出会いは20年前。
その時から既に夢は始まっていた。
私は3度目の受験で宝塚へ合格する事が出来たのだが、あまり高校生活も楽しめず、
現実から逃げる様に宝塚受験の為のレッスンに明け暮れていた私は、2度目の合格発表で自分の受験番号が見つけられなかった時
[どん底]を感じた。
全てを尽くしたのにダメだった。
こんなに頑張っても夢は叶わないのか。
東京へ戻り父に不合格を伝えた時
「神様はあなたを苦しませる為に試練を与えたのではなく、乗り越えて成長する為に特別なプレゼントを用意してくれたんだよ」と言われ、枯れるほど泣いた。
不屈の精神を持つ事が父と神様からのプレゼントであった。
諦めるという選択肢はなくなった。

入団して7年目。
[新人公演 黒豹の如く]
これで新人公演を卒業するのだから思い残す事のない様にしたい。出来る事は全てやろう。と稽古していたつもりであったし、本番、何か大きな失敗をしたわけでもない。
しかし、思い描いていた感情とは全く違う気持ちを終演後に抱いていた。
達成感もあまり感じられず、周りに「おめでとう!」と言われても、どこか他人事の様に思えたのだ。
「もっと出来たのでは」と悔いが残った。
今思い返せば、夢とはそうゆうもの。で夢の途中だから当たり前なのだが
当時は達成感を味わえるまでやり切れなかった自分を責める思いであった。
その日、新人公演を観劇してくれた兄と電話した事をよく覚えている。
音楽を仕事にしている彼にそのままの自分の気持ちを伝えると
「宝塚は7年目までが1つのタイミングで
新人は卒業と言われるかもしれないけれど、
音楽という大きなくくりで考えたら、
例え20年、30年とやっていても新人と言われる世界だよ。それ程に音楽を仕事に出来るのは素晴らしい事なんだ。
やり切れる事なんて一生ないのだから、
自分を責めたらいけないよ。
やってもやっても音楽には敵わない。
その事に感謝して、挑戦を続けたらいいんだよ。」と言われ、気持ちが楽になった。
全ての挑戦を受け入れてくれる音楽の大きさに、改めて自分の未熟さを知ったのだ。


そして入団して14年目。
退団を決意した旨を母に伝えると、その場で
「あなたはNYに行くのがいいと思う」
と私の想像を遥かに超えた言葉というか、
私の心のうちを見透かしているかの様な言葉をかけてくれた事に驚いた。頭のどこかで、
卒業したら[落ち着いた生活]というものに当てはまる何かを両親は望んでいるのではないかと思っていたからだ。
私以上に私の可能性を信じてくれている事。
そして、夢を求め続ける事を当たり前に応援してくれる事。に心の底から感謝した。

生きている限り、夢の途中である。

ひたすらに夢を求め続ける精神を持つことこそが人生なのだと、先生は決して
夢を叶え続ける事が人生とは言わなかった。
大切な事は叶った、叶わなかったという結果ではなく過程にあり、気持ちなのである。

そして、
先生の言葉ほど大きな衝撃こそないものの、私の中で生き続ける言葉をかけてくれる家族がいることは私の1番の強みである。
どんなに自分の壁に対して孤独でも、
私は孤独ではないのだから。

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