犯罪被害者等給付金について

はじめに

この記事の概要
・ 故意の犯罪で人が亡くなったり、重傷病を負った人のための給付金制度があります(犯罪被害者等給付金)。
・ 給付金の種類は3種類(遺族給付、重傷病給付、障害給付)です。
・ 窓口は警察です。

 こんにちは、弁護士の高田です。今月4日、名古屋地裁の裁判で同性パートナーへの犯罪被害等給付金の支給が認められなかったというニュースが出ました。これは、同性パートナーを犯罪で亡くした方が、犯罪被害等給付金の申請をしましたが、支給を受けられなかったものです。
 この裁判の当否は判決の詳細とこの先の控訴審(高等裁判所での裁判)をみないと分かりませんが、そもそも、犯罪被害者等給付金とはなんでしょうか。ご紹介したいと思います。

犯罪被害者等給付金とは 

 犯罪被害者等給付金とは、「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」(よく「犯給法」と略されています)に基づき、犯罪行為により亡くなった方のご遺族や重傷病を負った被害者の方に給付される給付金です。
 昭和49年8月30日に起きた三菱重工ビル爆破事件によって多数の死傷者が生じる被害が出ました。
 こうした被害者への補償は、基本的には加害者が民事で賠償することで行われます。しかし、加害者にお金がなかったり、通り魔事件のように加害者が分からなかったりすると、被害者は何の補償も受けられない状態におかれます
 犯罪により甚大な被害を受けた人に、何らの補償もなくて良いのかという問題が提起され、公的な犯罪被害者補償制度として制定されたのが犯罪被害者等給付金となります。
 詳しくは、警察庁のホームページや、全国被害者支援ネットワークのホームページにまとめられています。

対象となる犯罪行為

 犯罪被害者等給付金対象となる犯罪行為は、日本国内(日本の船や飛行機内含む)で行われた殺人、傷害といった故意の犯罪行為で人の生命又は身体を害する罪に当たる行為に限られています(犯給法第2条第1項)。

 普通の交通事故でケガをした場合などは、過失による事件なので対象となりません。交通事故の場合は、自賠責保険等による補償が考えられます。

 国外で被害に遭った場合については「国外犯罪被害弔慰金等の支給に関する法律」によって、遺族への弔慰金と障害が残った方への見舞金が制度されています。

犯罪被害者等給付金の内容

 犯給法では、遺族給付金重傷病給付金障害給付金の3つの給付金を定めています(犯給法第4条)。


・ 遺族給付金(同法第4条第1号)
 被害者が亡くなった場合に遺族に支給されます。

 支給を受けられる遺族は犯給法第5条で順位が決まっていて、通常の相続とは違う規定になっています。順位は次のとおりです。

 ①配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)が第1順位(同法第5条第1号)
 ②亡くなった方の収入によって生計を維持していた子ども、父母、孫、祖父母及び兄弟が第2順位(同法第5条第2号)
 ③亡くなった方の収入によって生計を維持していない子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹(同法第5条第3号)

 同順位の人が複数いる場合はその人数で割ってそれぞれに支給されますが、順位が上の人が1人いれば、その1人に全額を支給する制度になっています(配偶者がいれば、配偶者1人に全額を支給する)。

 「はじめに」で触れたニュースの裁判は、この犯給法第5条第1号の配偶者のところにつけられた「(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)」の解釈が争われたものです。
 同性パートナーが配偶者に当たらないことになると、亡くなった方のご家族が次の順位になります。つまり、配偶者に当たるかどうかによって、単にパートナーに支給するかどうかだけでなく、他の家族に支給するかしないかにも影響があるため、詳細については気になるところです。

 支給される金額は、亡くなった方の収入額、亡くなった方の収入によって生計を維持していた子どもの人数や年齢等によって変わります(犯給法第9条第1項)。
 平成30年度の遺族給付金の平均支給額は614万円となっています(平成30年度中における犯罪被害給付制度の運用状況について国家公安員会令和元年5月16日定例委員会説明資料2)。


・ 重傷病給付金(犯給法第4条第2号)
 被害者が重傷病を負った場合に支給されます。
 犯給法では、重傷病かどうかについて、療養期間が1ヶ月以上でかつ入院3日以上の場合(PTSDは別基準)という基準を定めています(犯給法第2条第5項、同法施行令第1条)。
 そのため、受けられる人はそんなに多くないかもしれません。

 支給されるのは、健康保険等を使った後の自己負担分の治療費と休業補償の一部で(犯給法第9条第3項)、併せて上限は120万円となっています(同条第4項、同法施行令第13条)。


・ 障害給付金(犯給法第4条第3号)
 被害者に障害が残ってしまった場合に支給されます。
 障害とは、いわゆる後遺障害です。1級から14級に分けられて定められています(犯給法第2条第6項、同法施行令第2条、同法施行規則第1条、別表)。
 犯給法施行規則で定めていますが、内容的には労災保険やそれに準じている自賠責保険の後遺障害等級の基準と大体同じです。

 等級基準は労災保険や自賠責保険と並んでいますが、公的補償制度として支給額は抑えられているため、平成30年度の平均支給額で173万円となっています(平成30年度中における犯罪被害給付制度の運用状況について国家公安員会令和元年5月16日定例委員会説明資料2)。

 因みに、すべての犯罪被害者等給付金について、差押禁止であり(犯給法第16条)、非課税です(犯給法第18条)。

他の制度等の関係

 犯罪被害者等給付金はいわば最後の砦としての制度のため、労災保険から支給を受けたり、加害者から損害賠償を受けられた場合は、その分給付金を受けられません(犯給法第7条、8条)。

窓口は警察

 犯罪被害者等給付金の申請受付や支給は、警察です。警視庁及び各道府県警の本庁に窓口があります(リンク先のお問い合わせ先一覧)。
 被害に遭われた方やご遺族で、犯罪被害者等給付金の支給対象になりそうな方には、警察から案内がされていることも多いです。
 それでも、どうしても漏れもありますし、この記事に書いてあることが支給条件のすべてではありませんので、気になる方はお問い合わせ先に連絡してみてください。

 申請するには時効(権利行使することができるときから2年、犯給法第16条)もありますので、お気を付けください。

以上