次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム

※この記事は、2020年6月1日現在の情報を基に作成しています。
※2020年6月26日の厚生労働省の情報提供を追記しました。

この記事の概要

・ 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは一応別物ですが、次亜塩素酸 及び同イオンを主成分とする点で同類です。
・ 現時点では新型コロナウィルスに対する次亜塩素酸水の有効性は確認されておらず、衛生当局は消毒液の空間噴霧を推奨していません。
・ 自宅での新型コロナ対策には、石けんと塩素系漂白剤が有効です。

はじめに 

 こんにちは、弁護士の高田です。先週金曜日5月29日に、次亜塩素酸水は新型コロナウィルスに対して現時点で有効性が確認されないとする報道がありました。(NHK首都圏ニュースウェブ )
 次亜塩素酸水は、アルコール消毒液不足の中で、他にも新型コロナウィルスの殺菌・消毒に使えるものはないかと経済産業省が色んな洗剤などを検証している中で、候補に挙がっている液体です(2020年5月9日産経ニュース )。ただ、この次亜塩素酸水というものは耳慣れない液体であり、塩素系漂白剤の主な成分である次亜塩素酸ナトリウムと名前もよく似ているので、安全性、有効性について情報が錯そうしているように思います。
 そこで、今回は次亜塩素酸水がどういう液体なのか、次亜塩素酸ナトリウムとどう違うのか、法令に基づいて整理してみたいと思います。

次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの関係

 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムはそれぞれ食品添加物として、食品衛生法及び省令等で規格、規制されています(食品衛生法第10条、同法施行規則第12条第175号、第176号)。
 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは、別々に規定されていますが、次亜塩素酸及び同イオンを主成分とする点で同類です平成21年8月19日開催薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会 資料4-2 )。
 因みに、食品衛生法で規定する食品添加物とは、「食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する物」(同法第4条第2項)とされており、とにかく食品を作る過程で食品に使う物すべてを指しています。
 最終的には食品に含んではいけない物も規定されていますので、食品添加物だから食べても大丈夫、というものではありません。
 次亜塩素酸水も次亜塩素酸ナトリウムも、最終食品の完成前に除去しなければならないとされています。

次亜塩素酸ナトリウム

 次亜塩素酸ナトリウムは塩素系漂白剤にも用いられている消毒料です。例えば、花王株式会社の「キッチンハイター」を口に入れて大丈夫と思う人はほとんどいないでしょう。
 次亜塩素酸ナトリウム水溶液を空間に噴霧しないように、厚生労働省も介護事業所向けに注意喚起しています(令和2年3月6日社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について)。
 元々、次亜塩素酸ナトリウムが食品の消毒料として使われており、食品添加物として認められていました。
 次亜塩素酸水も、同じく食品の消毒料として使いたいと要望があり、平成14年6月10日に指定されました。

次亜塩素酸水

 次亜塩素酸水というのは分かりづらい液体で、食品衛生法施行規則で定める定義では、塩酸又は塩化ナトリウム水溶液を電解することにより得られる、次亜塩素酸を主成分とする水溶液とされています(第9版食品添加物公定書)。
 次亜塩素酸水は、有機物存在下では容易に活性が低下するので、流水で使用することが肝心とされています(前掲部会 資料4-2
 次亜塩素酸水は生成しても容易に効果が失われるので、生成してすぐに、そのままジャバジャバ消毒したい物にかけて消毒するのが想定された方法となります。
 次亜塩素酸水は安定性がないため、指定時から、「次亜塩素酸水そのものは流通しない」とされていました(前掲部会 資料4-4 )。
 次亜塩素酸水の生成装置を販売している森永乳業株式会社では、次亜塩素酸水自体は売っていませんし、生成装置も一般家庭用の販売はしていません。

 ただ、現在、次亜塩素酸水を販売している事業者は沢山あります。これらはすべてニセモノでしょうか。それについては、前出の資料に、平成13年に指定にあたってなされたパブリックコメントとそれに対する回答が参考になります。
 同資料のパブリックコメントに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に酸を加えてpHを調整すれば電気分解しなくても次亜塩素酸水を生成できるのに、なぜ電気分解による液体のみが指定なのかという意見があります。これについて、添加物指定のためのデータが取れたのが電気分解による方法のみで、次亜塩素酸ナトリウムに酸を混ぜる方法のデータは確認されていないので指定していないと回答されています。
 つまり、次亜塩素酸ナトリウムに酸を混ぜても、次亜塩素酸水類似の溶液は作れます。次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム溶液は、pHの酸性・アルカリ性を裏返した関係にあるためです(前掲の 資料4-2)。
 ただし、次亜塩素酸ナトリウムに酸を混ぜて作る方法で作られた次亜塩素酸水は食品添加物製剤としては認めらず、食品の消毒用としては販売できませんのでご注意ください(平成16年8月25日食安基発第0825001号 次亜塩素酸ナトリウムに酸を混和して使用することについて  )。
 市販の次亜塩素酸水(類似品)も成分的には電気分解によって生成された次亜塩素酸水と同じ物である可能性は高く、消毒料として有効な可能性はあります。
 もっとも、失活が早く、生成してすぐ流水で使用するのが前提の液体ですので、ちょっとつけたとか、噴霧したとかで十分な消毒作用があるのかについては疑問が大きいと思います。

現時点では次亜塩素酸水の有効性は確認できず

 経済産業省では、2020年4月15日、台所洗剤等でも新型コロナウィルスの消毒が出来ないか、検証実験を行い有効性評価をすると発表し、現在も検証を続けています。
 この中で、次亜塩素酸水の検証もなされていましたが、2020年5月29日、次亜塩素酸水は判定に至らず、有効性は確認ができていない旨発表がなされました。
 この発表に添付された資料(次亜塩素酸水の販売実績、空間噴霧について(ファクトシート))によれば、国内外の衛生当局において、消毒剤の空間噴霧は推奨していないことが確認されています。
 また、国民生活センターでは、次亜塩素酸水の有効性が確認されていない旨注意喚起がなされています。

自宅で出来る消毒方法について

 国民生活センターでは、消費者へのアドバイスとして、以下引用する通り情報提供しています。無理に入手困難なアルコール消毒剤や効果の不明な消毒剤を使わなくとも、石けんと塩素系漂白剤で基本的な消毒、対策はできそうです。
 参考にしていただけたら幸いです。

・ 手指からの新型コロナウイルスの除去には、流水と石けんを使った丁寧な手洗いが有効です。手洗いができない場合に消毒効果が期待されるものとしては、70%のエタノールのようなアルコールが挙げられます。流水と石けんを使った丁寧な手洗いの後にアルコール消毒液を使用する必要はありません。
・ 食器・ドアノブ等の身近なものの消毒には、次亜塩素酸ナトリウムを薄めて拭いた後、水拭きをしましょう。
・ 除菌や消毒をうたうような商品を購入する際や使用する際は、成分は何か、使用してもよい場所はどこか、希釈して使用する商品なのか等、広告や表示をよく確認してから使用するようにしましょう。
・ メタノールは人体への毒性が高いものですので、絶対に消毒用として使用しないでください。また、高濃度のアルコールは可燃性なので、使用する際は火気を避け、換気をしましょう。

2020年6月26日発表の厚生労働省の消毒・除菌についての注意喚起

 新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について、2020年6月26日付で、厚生労働省から現在わかっていることをまとめた情報が公開されました。

 手洗いは基本石鹸と流水で、石鹸と流水ができない場合はアルコール消毒と今まで通りの情報です。
 モノの消毒、殺菌については熱水塩素系漂白剤洗剤一部の次亜塩素酸水有効とされました。

 もっとも、次亜塩素酸水はかなりの濃度(流水で有効塩素濃度35ppm以上、拭き掃除なら80ppm以上推奨)のものを相当量使う必要があります(スプレーで少量かけても効果がない)。
 拭くなら表面がヒタヒタニなるくらい濡らす流水でかけ流すなら20秒以上流す必要があるなど、記事でまとめた内容と概ね一致する見解が示されています(新型コロナウイルス対策ポスター「次亜塩素酸水を使ってモノの消毒をする場合の注意事項」)。

 次亜塩素酸水が不安定な物質であり、冷暗所に保管して早めに使い切る、成分不明なものは使わない、など呼び掛けています。

 空間噴霧は引き続き非推奨です。空気中のウィルス対策での推奨は換気のみです

 少なくとも、次亜塩素酸水はアルコールスプレーの代用品にはならないことが確定したと考えてよいと思います。正しい情報のもとで出来る防衛策を取りたいですね。

以上

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