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99人の壁 BPO判断について

少し前にこういう記事が出ていました。

https://www.oricon.co.jp/news/2182068/full/

著作権法だとかのセミナーをすることが多いのですが、
その中で番組制作会社向けにBPOについてセミナーをしたことがありまして、そのときは「ほこ×たて」を取り上げたことがありました。

BPOの意見書では、同じフジテレビ系列のほこ×たてについても触れられていましたので、特に印象に残りました。

BPOの話というと、放送事業者ばかりの問題ととらえられそうですが、番組制作という仕事に関する問題ですから、そこで発生する問題というのは会社組織に起因するものと言えそうです。

組織作りにも有益そうという観点から、意見書を少しかみ砕いてみようと思います。

https://www.bpo.gr.jp/?p=10651&meta_key=2020

0.そもそも何が問題とされたのか
100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を失う形となっていた。

この点が、「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との放送倫理基本要綱に反しており、放送倫理違反があった判断されました。

1.製作スタッフ(主だった関係者)
①総合制作:入社2年目のアシスタントディレクター(いわゆるAD)⇒社内コンペに優勝したためディレクター(いわゆるD)に昇格して、本番組制作が始まる。
ただ、総合制作が若手であったこともあり、
②チーフプロデューサー、プロデューサー(それぞれ社員)を加え、ベテラン制作会社も入った人員的な手当てもそれ相応にして、特番の制作をスタート。

では、肝いりで人員も多く割かれた番組が、なぜ番組コンセプトに外れるようになっていったのか。

2.破綻の発端
決定のかなではいくつかの要因が指摘されています。

①クイズ準備、出場者確保が難航するといった番組制作の過酷さ
この番組、1人対99人のクイズバトルなわけですが、1人が負けてしまうとその1人は交代するという仕組みになっていたそうです。そうすると、1人のために用意していたクイズは敗退が決まってしまうと無駄になってしまい、予備のクイズを別途用意しておかなければならないということがあります。

クイズというのは、毎週毎週多くのクイズ番組が放映されていますが、問題を作るのは結構な労力がかかります。それこそ、問題を考えるのもそうですが、テレビ番組である以上映像が必要になります。その映像制作にあたっても、撮影したり既にある映像を使用させてもらうよう許諾を取ったりするといった様々な手間がかかります。

それが予備も含めて用意しておくとなるとスタッフがこなさなければならない作業はそれは山のように積み重なっていくことになります。

そして、出場者も合計で100人という他のクイズ番組の規模からすれば、大人数という設定になっています(比較になるものではないですが、テレビ朝日系列の「クイズプレゼンバラエティーQさま!」はチーム6人×2で12人と桁の数が違います。)。

それだけの人数を一か所に集め、収録する。それぞれ分けてというのも1人対99人というコンセプトからしても無理。

オーディションを開催して、人数を集めてもそれこそ出演料が無かったりするわけですから、出場者もドタキャン含め不参加になるということも当然あります。そうなれば、100人に満たないので大問題。

そういった事態は特番時点から出ていたようです。特番というのはある程度時間をかけて用意していくものですから、その時点でかなり無理がかかっていたとなると、レギュラ化しても危ういと思われます。

そんなこともあり、レギュラー化が決まった段階で制作スタッフには継続的制作についての疑念が生まれていたそうです。

結局、レギュラー化してもすでに生まれていた問題は解消されることなく、出場者について、その欠員をエキストラで保管することが常態化していったとのことでした(出場者の人数は壁にも数が張り出されていたようで、人数が集まらないことはスタッフ間でもかなり問題になっていたようです)

②情報がきちんと共有されない。
そんな番組コンセプトに沿わない状態になっているならば、それはプロデューサーなどしかるべき立場の人間が仕組みを改善するなどしていかなければならない。そう思うでしょう。

ただ、そうはならなかった。それこそ、総合制作のディレクターはチーフなどにも話が共有され、改善していくべき話だが許可があると考えていましたし、一方チーフプロデューサーたちは問題を理解していなかった。

ボタンの掛け違えです。

③軌道修正にも時間がかかった
その後、クイズ形式などを変更することにはなるのですが、チーフプロデューサーも総合制作に気を使い、なかなか変更が進まない。総合制作もなかなか決断するというのは厳しい話だったでしょうが、結局のところ番組スタートから変更決定までは1年間と時間がかかっています。

こういった後に、エキストラ参加者からのタレコミによって、番組の内情が表になっていったわけです。

4.BPO決定から学べる事
①責任所在の明確化(誰が決定するのか)
 結局、番組の制作について、誰が最終決定権を有するのか決まっていなかったようです。総合制作といってもそれを補佐するチーフプロデューサーなどがいたわけですが、チーフプロデューサーはほか番組も掛け持ちの忙しさ。ベテランであるにしてもコンペを勝ち残った総合制作を立て、なかなか意思決定が進まない。
 なんか会社の中でもあり得る話ですよね。

②アクセル役はいてもブレーキ役の不在
 コンペを勝ち上がったということもあり、番組を盛り立てようというアクセル役は多くても、問題が起きた時にブレーキを踏むストッパー役が存在しない。
 このへんもあり得る話、BPOの調査の中でフジテレビでは内部での相談窓口の設置を決めたそうです。内部通報制度は盛んに取り上げられる話ですが、実際に使える仕組みでないと画餅となってしまうのでここも運用含め注視が必要なところです。

③番組制作についてのスタッフの受ける「過度な」重圧
 会社肝いりで始まったことや人員が多く回されていることからも、やはり失敗できないという重圧。そうなると人間ミスしたり、そのミスを隠そうとしてしまうんですよね。


④各自のなすべき業務の不十分さ
 チーフ以外のプロデューサーなどもいたわけですが、やっぱり総合制作を立てて、それぞれが小野が業務のみに注力する形に。起きていた問題について解決するという方向にはならなかったということがあります。

人を動員すれば、それでいい話でもなく、組織の体制(責任者など)をどう組んでいくのかなど、会社組織の組み立て方を考えていかなければならないと感じる決定です。

BPOの今までの決定の中には、今回の決定と同じように学べるところもあるなと思うので、ときどき振り返ってまとめてみたいとも思うところです。



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