司法試験「租税法」の見取り図(所得税法編)

司法試験「租税法」のうち,所得税法の理解がマストであるということは既に書きました。(参照:「司法試験「租税法」では何が聞かれているのか」
今日は,所得税法学習の骨格を紹介して,見取り図を描いてみます。
これは,同時に,このnoteの見取り図でもあります。
所得税法に関する問題を解く際には,この見取り図のどの部分を聞いているのかという点を意識すると,学
習の現在位置がわかっていいと思います。

見取り図

租税法は,課税の法律です。
課税とは,ざっくりいえば,国が国民から金銭を徴収することです(注)。
最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁(旭川市健康保険条例事件)によれば,租税とは,
国又は地方公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付
です。

もっと具体的な場面を想像してみましょう。
所得税は1年間の「所得」に課される税金です。
国としては誰がどのくらい「所得」を得たのかを把握して税金を課すわけですね。
個人で事業をしている自営業の人を例にとれば,個人事業主は1年に一回税務署に対して確定申告を行って,1年間の「所得」と税額を申告します。
これによって,国(税務署)はその人の「所得」や税額を把握するわけです。

さて,ここで,法的に問題となりそうな点はどのようなものでしょうか?
パッと考えつくのは次の3つです。

⑴ 誰が払うのか
 誰の「所得」なのかという点ですね。
 例えば,AさんとBさんが共同で事業をやって1年で1000万円売り上げた場合,AさんとBさんは一体いくら「所得」があったことになるのでしょうか?
⑵ いつ払うのか
 個人事業主は「1年だけ事業をやっておしまい!」なんてことはありません。
 普通は,継続的に事業を行っているはずで,売上は日々計上されていくことになります。
 でも,申告や税の計算は歴年(1/1〜12/31)で区切って行う必要があります。
 そこで,目の前の「所得」がどの年の所得として扱われるのかが問題になります。
⑶    どのくらい払うのか
 税金を語る上で一番大事なのは,「で,結局いくら払うの?」という点です。
 やれ給与所得だ〜,事業所得だ〜という話も大事なのですが,なぜそういう議論をするかといえば,それが税額計算の内容を左右するからです。

さて,以前書いた記事で私は司法試験「租税法」の出題について,このような整理を行いました。

ここで示した問題は,次の5つのパターンに整理できます。
 1.「課税関係はどうなるか」
 2.「誰に帰属するか」
 3.「いつの年分の所得に分類されるか」
 4.「いかなる所得に分類されるか」
 5.(中略)

実は,所得税法に関する出題は概ねこの5パターンです。
そして,2から4は,要するに5W1Hのうち
 2→Who(誰の?),3→when(いつの?),4→what(どんな所得?)
を聞く問題です。

上で述べた⑴がWho,⑵がWhen,⑶がWhatに対応していることはお分かりいただけるかと思います。

では,それぞれがどんな論点となっているのかをざっくりとみていきましょう。
詳しい話は後々記事を書くので,ここでは大まかな話だけをしていきます。

(課税)所得該当性

では,まず,Whoの話を…
といきたいところなのですが,ここで大事なことを言い忘れていました。
そもそも「所得」ってなんだよ,って話です。
ここまで「所得」とは何かという話をすっ飛ばしてきましたが,これも租税法学習では重要論点なのです。
この点は,実は所得課税の理解のもっとも基本の部分なので,後日詳しく書きたいと思います。

人的帰属

Whoの話を「人的帰属」と言います。
人的帰属についての原則を定めているのが,所得税法12条です。

第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

年度帰属(課税のタイミング)

Whenの話を「年度帰属」または「課税のタイミング」と言います。
年度帰属についての原則を定めているのが,所得税法36条です。

第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。

「その年に収入すべき」といえるかどうかが基準になってくるわけですね。
「収入した」ではなく「収入すべき」という書きぶりになっていますが,ここがミソです。
36条を原則としつつ,どのような解釈論が判例によって展開されているのか。
これが「年度帰属」に関して学んでおくべきことです。

所得区分

Whatの話を「所得区分」といいます。
所得税法は,10種類の所得を用意しているので,そのどれに当たるかを考える問題と言ってもいいでしょう。

10種類とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得,一時所得,雑所得です。
この10種類のそれぞれは定義規定があります。

(利子所得)
第二十三条 利子所得とは、公社債及び預貯金の利子(中略)並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配(中略)に係る所得をいう。
(配当所得)
第二十四条 配当所得とは、法人(法人税法第二条第六号(定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。)から受ける剰余金の配当(中略)、利益の配当(中略)、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)、投資信託及び投資法人に関する法律第百三十七条(金銭の分配)の金銭の分配(中略)、基金利息(中略)並びに投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。)及び特定受益証券発行信託の収益の分配(法人税法第二条第十二号の十五に規定する適格現物分配に係るものを除く。以下この条において「配当等」という。)に係る所得をいう。
(不動産所得)
第二十六条 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
(事業所得)
第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
(給与所得)
第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
(退職所得)
第三十条 退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。
(山林所得)
第三十二条 山林所得とは、山林の伐採又は譲渡による所得をいう。
(譲渡所得)
第三十三条 譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
(一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
(雑所得)
第三十五条 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。

さすが租税法律主義,六法さえ開けばここまでのことは書いてあるので,覚えなくていいんです。
この10個の条文のそれぞれ(注)について,判例が意味を明らかにしてくれているので,それを学習していきましょう。

(注)10種類の所得が定められているわけですが,山林所得は出題されることがないように思います。

税額計算・源泉徴収

ここまでは,「誰に帰属するか」,「いつの年分の所得に分類されるか」,「いかなる所得に分類されるか」というお話でした。

この次に問題となるのは,①結局いくら払うことになるのか,②どうやって払うのかの2点です。
①が税額計算の問題,②が源泉徴収の要否という形で表れてきます。

この点も一応出題されうる論点です。

この記事ではあくまでも目次・見取り図としてざっくりとした項目立てをしてみました。

これから時間を見つけて,順次書き進めていきたいと思います。

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