見出し画像

便利なサービスを提供するため、システム開発のチームワークと技術力を向上させた革新的チャレンジとは?

 ポイ活ができたり、電子マネーにチャージしたり、海外送金ができたり、縦型画面の見やすいATMが設置されたり──。こうした多様なサービスをよりスピーディーに実装していくには、システム開発が肝となります。異業種から転職した経験豊富な松本弘明さんは、開発を率いる部長に就任すると変革の必要性を確信。根本からシステム開発の手法を転換することに着手しました。
 
 それは、従来型のウォーターフォール開発(「waterfall」が「滝」を意味するように、上から下まで流れるように順次計画どおりに進める開発手法)だけではなく、アジャイル開発(「agile」が「迅速な」「鋭敏な」を意味するように、変化や需要に応じてスピーディーに対応できる機能ごとの開発手法)にも対応すること。
 
 アジャイル開発は、日本の銀行業界では取り入れていないところも多く、チームの他の開発メンバーも未経験でした。しかし、数々の障壁をクリアし、この手法を開発チーム、ビジネス担当チーム全員が習得。チーム一丸となって切磋琢磨し、以後の効率アップにも大きく寄与する成長を実現させます。チャレンジ成功への経緯や秘訣を伺いました。
 

松本弘明さん


ローソン銀行 IT戦略統括補佐 兼 基盤システム戦略部長/松本 弘明
1975年、福岡県生まれ。長年に渡りIT企業でエンジニア・プロダクト管理者として、医療や飲食ほか様々な業界のシステム構築やオペレーション改善に貢献、金融サービス事業のシステム構築、運営、セキュリティ対策等の実績も有する。その後デジタルマーケティング会社の社長も経験し、2022年からローソン銀行へ。現在はIT部門の各種改善、大規模プロジェクトの立ち上げなど社内外のサービス向上に奮闘中。趣味はランニング。年に一度は富士登山も。
 


モチベーションは利用者の喜びの声


──松本さんは、ローソン銀行に来るまで、ずっとIT企業でエンジニアを?

 
 はい。20代の頃から仲間と競うように課題解決にも取り組みました。ただ途中で、世界トップレベルのエンジニアが、世界初の最新技術を生み出す様子を目のあたりにして、自分は彼らのような研究者タイプではないと気づきました。むしろ、顧客やユーザーの反応を得られるところで開発したり、世にある技術を組み合わせたり、プロジェクトマネジメントをしたりする方が向いているなと。
 
 前職はデジタルマーケティング会社の代表だったのですが、その時にもさまざまな業界や業種のシステムを見たんですね。例えば、ITサービスやゲーム業界はやはり先進的なんですが、一方で医療や金融業界ではまだまだ改善の余地がありました。
 
 だから、必ずしも最新技術を生み出さなくても、ある業界では“普通”に活用している技術が、金融業界では“普通”ではないことが多々あるわけです。そこで、金融業界にとっては“普通”ではない技術を取り入れて、より便利になるようにチャレンジしたいと考えました。
 
──それが、ローソン銀行のシステムではアジャイル開発という手法だったのですね?
 
 そうです。今は変化がすごく激しい世の中なので、従来のウォーターフォール開発でサービスを完成させたとしても、企画したのが2年前だったら当時は新しかったものも、世に出した時にはどこにでもある…ということが起こり得るんですね。
 
 アジャイル開発であれば、もっとスピーディーに機能ごとに開発していくので、各々機能を作って世に出し、利用者のニーズを汲み取りながらブラッシュアップしていくことができる、という大きな利点があるので、アプリ改善に適切でした。
 
 今や、いわゆるGAFA(Googe、Amazon.com、Facebook改めMeta、Appleというアメリカの巨大IT企業4社)のような大きな会社でも、1週間に1回というペースでシステムをアップデートしています。先進的な会社は、アジャイル開発が基本になっているというのが、非常に多くなってきているんです。

Suicaの口座チャージアプリ「Suitto(スイット)」のキャラクター、スイットくん

 
──まずは、Suicaの口座チャージアプリ「Suitto(スイット)」の課題に着手されたと聞きました。
 
 私は2022年12月にローソン銀行に入社しましたが、ローソン銀行では、アジャイル開発体制の導入に向けた検討がすでに行われていて、下地があったことが幸いしました。システムに関する重要な事項を審議する委員会があるのですが、その委員会の活動の一環として、2022年度ごろからデータ利用の高度化や、開発のアジリティ(機動性)強化といった検討が重ねられていました。2023年度にはアジャイル開発のプロセスと品質管理のための社内のルール整備も行われていましたので、「Suitto」の改修は、具体的な開発案件としてやってみる、という点でもタイミングがよかったのです。
 
 「Suitto」の課題の一つが、ダウンロードしてから使える状況になるまでのステップが多かったり、少しわかりにくかったりしたことでした。このため、ユーザーが直感的に操作しやすく、快適に体験できるように改善していこうと着手しました。
 
 他にも、ユーザーの声を聞きながらブラッシュアップしていったので、全体の7割ほどが当初と異なるより良い機能にすることができました。いずれも、アジャイル開発だから実現できたことです。
 

関わる全員が未経験者。不可能?予算は?研修は?


 ──新しい開発手法を導入するにあたり、苦労したところは?
 
 最初に始めるまでが大変でした。開発メンバーも経営層の皆さんもアジャイル開発の経験がなかったため、「そんなことが可能なのか」という反応からのスタートでしたから。そこで、メリット・デメリット含めて、皆さんにわかりやすく説明を重ねました。
 
 ただ、会社のカルチャーとして、皆さん良いと思ったら否定はせず、まず聞いてくれるんですね。だから、まず直下の部下に理解してもらったら、彼らも周囲の皆さんに説明してくれるようになりました。
 
 そもそもなんですが、ウォーターフォール開発だと私たちが発注する側で、開発ベンダーがシステムを作るという役割分担がなされるんですが、アジャイル開発では全員が同じチームのなかで作り上げていきます。技術的なスキルをつけながら、皆でプロジェクトを前に進めるというマインド醸成をすることも大変でした。
 

開発ベンダーも参加するプロジェクトで、全員「〇〇さん」。

ローソン銀行の社内に住むローソン銀行のキャラクター、トミー、ちかさん、ハルタムと

 

──上司と部下、発注者とベンダーという垣根をなくして、チーム一丸となって意見をぶつけ合う関係性が必要になるわけですね。
 
 そうです。そのために、プロジェクトでルールをいくつか決めました。もともとローソン銀行は、新しい銀行を作りたいと思って集まった方が多いので、非常にフランクで、風通しのよいのが特徴です。上下のレイヤーも少なく、ローソンと同じように、社長に対しても「さん」付けで呼んだりしている。私たちのオフィスでは日ごろ当たり前になっていることを、開発ベンダーも参加するプロジェクトに適用しました。まず、呼称は「〇〇さん」で統一しました。役職呼びや「〇〇さま」は使わない。もちろん、私を「部長」と呼ぶのもナシです。「松本さん」でいい。
 
 プロジェクトで活用していたチャットツールでは、開発ベンダーから参加したメンバーも呼称すらナシです。いきなり要件から入ることにしました。誰かを指定する時はメンション機能を使うだけ。「お疲れさまです」など余計な装飾も一切不要としました。
 
 そうやって、互いにかしこまることなく、コミュニケーションのスピードアップを意識してもらいました。
 
 また、メンバーのタスクはボードで可視化されているので、ある人にタスクが偏っていたら、別の人が「じゃあ自分がこの部分をやります」というのもパパッと決めるんです。みんなで協力し合いながら開発をする。そうしないと1週間で動くものを作れないよねっていう考え方です。
 
 やはり時代の変化で金融業界では、新しい良いものを作っている会社がどんどん大きくなっています。変革しなければ先細るという危機感は常にあります。
 
 それに効率化ができれば、手数料などユーザーに還元できることにも繋がります。我々の中でのサービス改善が、そのまま顧客のサービス満足度向上に繋がる部分もあるのかなと考えています。
 
「さっと使える」サービスはATMの概念を変える!?

新型ATMトミー


  今キャッシュレス時代になってきていて、ATMも単に現金を扱うための機械だけではなく、徐々に役割が変わってきているように思われます。なので、これからATMをもっと便利な金融端末にしていくということを考えていきたいですね。
 
 やっぱりコンビニって、さっと何か買えるとか、さっとサービスが使えるというのが、一番大きくて便利な機能だと思うんです。これだけ全国各地にローソンのお店があるという状況下なので、さっと提供できる金融サービスというのを意識していきたいと思います。
 
 社内でも、「世の中にはこんなサービスがあるから、こういったことをATMでやったら面白いんじゃないか」というアイデアを募集したりして、新しいプロジェクトが動き出しているんですよ。
 
──システム系の方々といえば、トラブル対応や残業が多いイメージがありますが、オンオフの切り替えは難しくないのでしょうか?
 
 基本的にメリハリをつけて働いてもらいたいので、忙しい時期の後には少し抑えて…というように、各自で仕事の「山と谷」を考えて働いてもらうようにしています。もちろん、トラブルがあれば対応しますが、私自身も土日は基本的に仕事をしないと決めているので、他の皆さんにも余程のことがない限り、無理しないようお願いしています。
 

社会活動、ランニング、富士登山……プライベートから視野を広げる

 ──松本さんは、とてもアクティブにプライベートを過ごされていると聞きました。
 
 運動と社会活動に勤しんでますね。ランニングが趣味なので、週に3~4回は走ってます。トレイルランニングも好きで、一度行くと20~30キロは走りますね。あと富士山は年に1度、必ず登ります。
 
 社会活動は、プロジェクトマネージャー向けのイベント運営や理事をしたり、毎週日曜日は地元のパパ仲間とアカペラのサークル活動をしたりしています。
 
 心身のバランスが良くなるというのもあるんですが、職場以外の人たちと接点を持つことで、視野が広がったり、いろんな考え方が得られたりするんです。アイデアのきっかけになったり、仕事で関わるようになったり、逆にプライベートで一緒になるようになったり、オンオフともに豊かになっている気がします。
 
──それにしてもパワフルで驚くばかりです。仕事がデスクワークだからですか?
 
 確かに、それはありますね。昨日も仕事が終わった後で、低酸素トレーニングを30分やって、その後で1時間ほどランニングしましたよ(笑)。

取材・文/松山ようこ

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!