刑事弁護起案の注意点

1 総論&前提
(1) 当該記事はあくまで一修習生(72期)の備忘録として作成されたものが前提となっておりますので、考え方が違う場合もあります。また、期によって研修所の見解が変わることもありますのでご了承ください。
(2) あくまで研修所の起案でどのように書けばよいのかを前提に記事を作成しております。実務でどう評価されるのかとは視点が異なると思いますのでご了承ください。
(3) 刑事弁護については刑事弁護の手引き及び刑事弁護実務に大まかなことは書いてあります。当該記事はそれらをどう起案に表すのかというツールに過ぎないことを明記させていただきます。
(4) 当該記事の「反対仮説」とは「not要証事実を導く事情」をいいます。すなわち、検察のいう「反対仮説」と同義で、刑事裁判のいう「反対仮説を導く事情」と同義です。
(4) 刑事弁護は集合でC→A(いずれも5段階)でした。間違いなどがあったらごめんなさい。

2 想定弁論について
(1) 総論
 起案の流れについては刑事弁護の手引きに記載されているとおりですが、結論→理由の流れは必ず踏襲するようにしてください。また、刑事弁護においては被告人の言い分は真実であり、この通り弁護をする必要があります。そのため、無罪主張をしているのに有罪を前提とした弁論を行うとか、被告人が争っている構成要件を認める旨の弁論は当然許されません。
 また、刑事弁護では①検察官が主張する事実の存否を争う②検察官が主張する間接事実の推認力を争う③消極的間接事実を示すことの3点が考えられます。検察官の立証構造を証明予定事実記載書等から読み取り、的確に反論をしていくことが不可欠になります。
※1 被告人の言い分を読み、上記3点のどれに当たるのかを考えながら弁論を構成していくことになります。これで十分な弁論になるのですが、上記②については注意が必要です。すなわち、②とは弁護側が反対仮説を主張することになるのですが、反対仮説は「被告人の言い分には限られない」ことは気を付けるべきです。被告人の行動については被告人の言い分を前提に書けばよいのですが、被害者側の事情・行動については被告人の言い分では現れてきません。被害者がなぜそのような行動を採ったのかについては客観的な証拠から弁護側が説得的な反対仮説を提示する必要があり、かつ、それが提示できると点数が跳ねる印象です。

(2) 検察官立証の弾劾
 上述のとおり、検察官の立証構造を正確に把握し、それらを全て潰す必要があります。もちろん、検察官が立証の柱と考えているものについては手厚く反論しなければなりませんが、推認力が強くないものについても反論はすべきです。その際の注意点として①目撃証言については信用性の検討を行う(後述)②客観的証拠については、客観的証拠からしても反対仮説が導かれること③被告人供述が客観的証拠に適合することの3点を意識して起案をする必要があります。

(3) 目撃者供述の信用性判断
 目撃者供述の信用性判断は基本的には刑事裁判・検察と同様に客観的な証拠との整合性、客観的視認状況・主観的視認状況等から判断をします。ただし、刑事弁護起案においては供述の変遷・欠落が最も大きなウェイトを占めています。
 供述の変遷については、①供述の変遷・欠落があることをKS及びPSから指摘する②その供述が当該事件の核心部分であることを指摘する③供述内容が不合理であることを指摘する④誤った供述をするに至った経緯を指摘するという4段落で書いていくことになります。
※1 「核心部分」とは、当該事件の罪体に関する事実です(私見)。すなわち、傷害や暴行では暴行態様が核心部分になりますし、放火では火をつける瞬間や火の高さが核心部分になると思われます。
※2 供述内容の不合理性で客観的視認状況や主観的視認状況を指摘するというのもありだと思います。また、変遷や欠落における不合理性の書き方は「核心部分における供述については捜査機関から繰り返し質問されていることが想定される。ところが、繰り返し質問をされても供述に変遷(or欠落)があるということは正確に記憶していないからにほかならず…」とかでいいと思われます。
※3 誤った供述をするに至った経緯について、証人が嘘をいうというのはあまり考え難いでしょう(共犯者や利害関係人の場合は除く)。そのため、誤って供述をしてしまった原因を探ることになります。具体的には、捜査機関からの誤導質問や客観的証拠から捜査機関がストーリーを組み立て、そのストーリーを証人にぶつける等が考えられます。その際、PSとKSの日時を確認し、その間に取得された証拠は何なのか確認し、起案内で指摘すると説得力が増します。

(4) 被告人供述について
 検察や刑事裁判では被告人供述の信用性を別項目で書くことが求められます。立証責任は検察官が負うためであり、被告人供述が存在しなくとも罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることを合理的な疑いを超える程度に立証しなければならないことによります。
 一方、想定弁論において被告人供述の信用性を別項目で書くことはむしろ求められていません。すなわち、被告人供述は主に反対仮説を提示する場面で効果を発揮するのであり、検察官立証の弾劾の場面における反対仮説の提示で被告人供述を援用、かつ、客観証拠とも整合することを指摘すれば十分です。
※1 この点について被告人供述の信用性は別項目で書くようにと指示があるクラスもあるそうです。その意味は伝聞なので具体的な意味はわかりませんが、おそらく、反対仮説を提示した後、その反対仮説が合理的であることを示せと言いたいのだと思います。検察のように立証責任を負うわけではないですし、弁護士は全ての間接事実に対する反対仮説を合理的に説明できなければなりません。その意味において、個々の反対仮説ごとに信用性を検討すればよく(その意味で別項目にする必要はないということを上記で書いています)、最後にまとめて被告人供述の信用性を論じるのはむしろ説得力に欠けるのではないのかなと思います(私見)

(5) 量刑について
 量刑判断は犯情と一般情状の2本立てで書くことが必要であることは従来から言われているとおりです。そして、評価に争いようのない事実については無理に争わず、争える部分について手厚く書くべきです。
 また、執行猶予が相当であると判断した場合は、なぜ執行猶予が相当なのか、言い換えると刑務所ではなく実社会生活で構成を量ることが被告人にとって有意義なのかをしっかりと示す必要があります。

3 冒頭陳述について
冒頭陳述は実務で見た裁判員裁判対象事件の冒頭陳述を思い出し、真似をするのが一番手っ取り早いと思います。
 起案において重要なのは①冒頭陳述は事実を示す場であること②証拠の評価にまで踏み入れないことの2点です。目撃証人が証拠として提出されている場合、弁護側としてはこの目撃証人は信用できないと主張したいところですが、それは反対尋問で顕出させれば済む話ですので、冒頭陳述においては「○○さんの話をよく聞いてください」と言及するにとどめるべきです。

4 小問について
(1) 反対尋問
 反対尋問で獲得すべき事実は何か小問で問われることがあります。その際、証人の証言と反対の事実を獲得目標として書く起案があるようですが、証人がそのような証言をすることは考え難く、実効的ではないでしょう。むしろ、供述の変遷がある場合は変遷を指摘したり、捜査機関から誤導があった事実を証言で引き出す方がよいでしょう。
(2) 証拠意見
 基本路線は不同意で書くべきです。ただ、何でもかんでも不同意にすればよいものではなく、証人として出頭することがむしろ不利益になってしまうケース(例えば、被害者情状証人等)は同意をして傷を浅くするということも書き得ます。


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