民事裁判起案の注意点


1 総論&前提
(1) 当該記事はあくまで一修習生(72期)の備忘録として作成されたものが前提となっておりますので、考え方が違う場合もあります。また、期によって研修所の見解が変わることもありますのでご了承ください。
(2) 実務の民事裁判起案と研修所の民事裁判起案はかなり考え方や構成が異なっています。その点は配属部の裁判官が丁寧に説明をしてくださると思いますが、あくまで研修所の起案を前提に記事を作成しております。
(3) 事例で考える民事事実認定は必ず熟読してください!薄いですし、内容も難しくはないと思います。これを理解するため&実戦で使えるようにするツールとして本記事があると思ってください。
(4) 民事裁判は集合でA→Aでしたのである程度自信を持って記載していますが、間違いなどがあったらごめんなさい。

2 要件事実
(1) 訴訟物
起案において必ず訴訟物は問われますが、ここはほぼ全員が正解できているところですので、取りこぼしは命取りになります。間違いやすい点としては附帯請求とは何かしっかりと分かっておきましょう。設問によっては附帯請求の点を除くとされており、附帯請求にあたるかが分かりにくい問題も出題されます。そこで、時間が取られてしまうともったいないため、附帯請求は何かについては把握しておきましょう。(附帯請求とは、主たる請求に付随するものであるが、主たる請求とは別の発生原因事実に基礎づけられた請求権をいいます(大島眞一-民事裁判実務の基礎[第2版]上巻217頁参照))
(2) 要件事実
基本的には新問題研究要件事実(司法研修所編)、改訂紛争類型別の要件事実(司法研修所編)を確認しましょう。これが出来ていなければ非常にまずいことになるのでやっておきましょう。
また、起案で出題される要件事実は上記2点に記載されているものに限られないため、幅広く民法の勉強をすることが必要となります。
※1 起案では平成16年改正前に保証契約が締結された場合、「書面」によることの適示は不要になるとの問題が出題されています。そのため、起案において契約時期がいつなのかによって適示すべき要件事実が異なることがあるのは注意が必要となります。
※2 上記と関連して、おそらく来年以降の民法改正にも上記の点は影響が出ることが予想されます。すなわち、契約時期によって適用される民法の条文が変わることから攻撃防御の方法や抗弁の摘示の仕方など変わることは十分考えられるところになるため、どこがどう変わったのかは知っておく必要があります(研修所はこの点を教えてくれるわけではないから注意)。
(3) 争点の把握
 民事訴訟における攻撃防御の対象は争いのある主要事実です。そのため、間接事実や補助事実を争点として挙げるのは(実務は置いておいて)起案としては誤りとなります。また、争点の摘示の方法は、わざわざ事実を書くのではなく、要件事実で記載した争いのある事実、言い換えれば相手方が否認をしている主要事実を書けば十分です。
※1 わざわざ事実を頑張って書かなくても、要件事実で記載した記号を記載すれば十分です。(例:本件事件の争点は(い)と(う)である。)
※2 事例で考える民事事実認定では「主要な争点は原告と被告が2000万円の返還合意をした事実ですが、その中でも、被告が2000万円借り入れの申し込みをした事実の有無こそが最も重要なポイント」(事例で考える民事事実認定9頁)とかなり具体的に記載されていることから、修習生も詳しく書こうとしがちです。しかし、ここまで詳しく書けるのはその事件の争点が金銭消費貸借契約における返還合意の有無という比較的単純な要件のみが問題になっているからであって、他の要件でここまで詳しく書こうとすると逆に抽象的になったり、主要事実から離れた認定をしがちになってしまいます。そのため、※1で示したように主要事実をそのまま示すことをお勧めします。

3 事実認定
(1) 判断枠組みの認定
 4つの判断枠組みに関しては確実に覚え記載できるようにすることが必須となります(事例で考える民事事実認定49頁)。そして、いずれの判断枠組みに当たるのかについては「直接証拠」にあたるか、「類型的信用文書」にあたるかの認定は必ず行うようにしてください。
※1 直接証拠にあたるかは①体験者性②事実対応性の2点から判断します(事例で考える民事事実認定13頁)。また、類型的信用文書に当たるか否かは処分証書なら基本的には類型的信用文書となり、報告文書であっても類型的信用文書に当たる場合があるため注意が必要となります(詳しくは事例で考える民事事実認定35頁~38頁参照)。
※2 直接証拠である類型的信用文書はないが、直接証拠である供述証拠がある場合(以下、「Ⅲ型」)で、供述者が当事者の場合は主張に準じて考え、実質的に間接事実の積み重ねで考えることもできます(事例で考える民事事実認定51頁)。ここで大事なのはⅢ型であることを明示することで、この明示なくいきなり間接事実の積み重ねで判断すると書いても点数はこないです。
(2) 動かしがたい事実
 動かしがたい事実は①争いのない事実②当事者双方の供述等が一致する事実(一致供述)③成立の真正が認められ信用性が高い書証に記載された事実④不利益事実の自認の4点が当てはまるとされています(事例で考える民事事実認定58頁~61頁)。ところが、実際に起案の解説等を聞くと「弁論の全趣旨」が動かしがたい事実として認定されていることに気付くと思います。この弁論の全趣旨は起案において、いかなる事実であっても自由心証に従って認定してよいというものではなく、当事者双方が共通認識としており、かつ、積極的に主張をしていない事実に限られると考えられます(私見)。そのため、一方当事者のみが主張しているような事実を動かしがたい事実の中の弁論の全趣旨として認定したとしても点数は付かないと思われます。
※1 起案においては上記5点(弁論の全趣旨含む)のいずれに当たるのか示す必要があります。その際、一致供述については「一致供述」と書くのではなく「原告58被告7」等該当する供述番号を記載してください。また、不利益陳述についても同様に「不利益陳述」と書くのではなく「原告58」などと記載してください。
※2 弁論の全趣旨として記載されるものの例としては「契約書が存在しないこと」等です。
(3) 着眼点
 起案においてはだらだらと事実を羅列するのではなく、ある一定の着眼点に従ったナンバリングをし、そのナンバリングに従って事実を記載することが必要になります。おそらく導入起案では「契約前・契約時・契約後」で考えましょうとされますが、正直これだけでは不十分です。実際には着眼点としてそれぞれを細分化したものを設定することになります。
※1 例として「当事者の契約に至る動機」「当事者の資産状況」「当事者間のメールのやり取り」などです。
※2 着眼点の設定の仕方が分からないという方もいると思います。この点は個別具体的な事案によって着眼点が変わってくるため、問題によるとしか言いようがないのですが、ほぼすべての動かしがたい事実を網羅できるような着眼点の設定の仕方が良いと思います。すなわち、契約締結前の事情が多ければ、契約締結前の着眼点の数を多めにしてみたり、複数の事実を認定できるような形で設定すると綺麗に書けます。
(4) 事実認定
 以上、着眼点に従い動かしがたい事実を記載したらその事実を元に事実認定を行っていきます。その際、経験則からはどこまでいえるのかということを自分なりに検討し、表現をする必要があります。結論が異なっていても点数に大きな影響はないと思われます。
※1 導入修習等で「積極的な事実」「消極的な事実」と振り分けられた説明がされるかもしれませんが、一つの事実は積極にも消極にも使いうるため、このようにあえてどちらかに振り分けてしまうのは自分で自分の首を絞めることに繋がりかねないためお勧めしません。
※2 研修所が考える結論と真逆のことを書いてもA来たので結論よりも事実をどれだけ調理できたかが見られているものだと思います。

4 記載例
※ あくまで上記を前提とした記載例です。
1 要件事実
 (略)
2 争点
 本件事件の争点は(い)と(う)である。
3 事実認定
(1) 判断枠組み
 本件事件の争点は(い)であるところ、(い)を導く証拠として甲〇号証がある。そして、甲〇号証は当事者が原告と被告になっており、その内容は賃貸借契約を締結する旨記載されているものであるから争点(い)との関係では直接証拠にあたる。甲〇号証は被告が偽造であるとしてその成立の真正を争っている。そのため、争点(い)との関係では直接証拠たる類型的信用文書が存在し、かつ、その成立の真正が問題となっている場合であるといえる。
 (略)
(2) 事実認定
ア 当事者の従前の交渉経緯
(ア) 動かしがたい事実
① ○○と記載されたメールが存在(甲〇号証)


(イ) あてはめ
①と②の事実からすると、原告は被告の状況を認識した上で本件契約を持ちかけたといえる。一方、③の事実からすると…
(ウ) 推認力
よって、争点(い)を認定する推認力は相当程度である。
イ 当事者の資産状況
(ア) 動かしがたい事実


(3) 総合評価
以上より、契約前の事情たる○○、○○からすると、原告は…
よって…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?