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#KAQRIYOTERROR Circus TOKYO 20210306 @新宿Antiknock

僕は新宿という街がどうも苦手だ。
渋谷には学生時代とバンド時代はほぼ毎日通って(とおって)いたので今でも割と歩きやすいが、新宿は渋谷に比べて大人が多いイメージだ。ちょうど僕が渋谷を往復していた頃、椎名林檎の「歌舞伎町の女王」がヒットしたが、やはり僕の中では新宿に対してはどこか胡散臭くて淫靡で神秘的なイメージがあった。林檎嬢の中でも福岡から見る異国のイメージだったことだろう。それがますます新宿に対する偏見を増幅させてしまった。
かといって渋谷が、ルーズソックスの女子高生が闊歩し外資系レコードショップで溢れ返っていた頃の「渋谷系」と呼ばれたスカシた音楽(今で言うところの意識高い系)も僕の肌には合わなかったんですよね。それなりに頑張ってみたものの。
そんな中で渋谷という街にアンチテーゼを投げつけてきた林檎嬢という存在は、それは痛快でしたよ。

一方、林檎嬢の中でサディスティックに描かれる丸の内は、僕はほとんど縁は無いがイメージとしてはクールな街。しかしクールと言ってもピンヒールをカツカツ鳴らしたスカシたクールさではなく、クール且つスマートすぎてその利便性などが僕には想像つかない。その恩恵にあやかれるのは明晰な頭脳を持った先行者ばかり。少なくとも誰かによって掻き鳴らされて使い古された掘り出し物のリッケンバッカーなど置いていない。あるとすれば個人輸入した自動車が買えるほどの価格の一本が静かに眠っている可能性くらい。
そんな街でRATとシールドと夢と妄想だけを鞄に詰め込んだ田舎娘が相手にされるはずもなく、コンクリートジャングルなどという使い古されて湿り気を帯びた表現などもはや通用しない幾何学模様の条の目抜通りを乾いた風が吹き抜けてゆく。
全くの空想世界の中ではそれは自由だ。

つれづれのMISS SINSツアーでLOFTに来て以来、僕の人生においてライブハウスに行く頻度が徐々に高まっていくのだが、懐かしさもあって使い慣れた渋谷と比べると、やはり新宿という街は飲食店にすら近寄り難い印象だ。はっきり言って新宿はコンビニも苦手。
しかしせっかくだしネットで下調べして寄ってみようかな。ところがいざ現地へ向かうとお目当てのメニューがランチタイムに提供されてなかったり、2名さまからのご注文メニューだったりして目論見が変わってしまったり。ところが昨今は緊急事態宣言下であるにもかかわらずこの日は人が多く、逆にめぼしい喫茶店はどこも満席だった。おいそれと喫煙可の喫茶店なんかには入りたくもない。

さて到着しました、新宿Antiknock。
LOFTやmotion、MARZといった馴染みの箱のある歌舞伎町警察近辺とは離れた、メトロの新宿三丁目駅の近くにAntiknockはある。
周囲はタイムズスクエアや高層のオフィスビルが多く街並みは一見小綺麗であるものの、巨大なリーゼント頭でお馴染みの買い取り王ロイヤルのお店や質屋や滋養強壮剤中心の薬局などが並んでたりしていて、歌舞伎町の華美な世界の尻拭いを担っている実は知る人ぞ知るディープなオーラが漂っていました。
そしてAntiknockも例外ではありません。
Antiknockもオフィスビルの地下にあり一見すると分かりづらい場所なのだけど、「ライブハウス周辺でたむろしないでください」の注意書きの看板の意匠が、渋谷Cycloneのとほぼ一緒で妙な安心感を覚えた。
それもそう、調べてみるとCycloneはAntiknockの系列店なんです。

検温など済ませてフロアに着くと僕はおよそ3列めを確保した。ステージとフロアの間のパーテーションは他のライブハウスより少し遠めに設けられている。この治安の悪そうな雰囲気をカバーするかのように。フロアではパンク音楽がBGMで流れている。いや、むしろ治安が悪そうなイメージに拍車をかけている。かなり巻き舌で英詞を歌ってるようだが聴いてるとその発音が日本人だとわかる。自らCD音源にピー音入れてるあたり、そこはかとなくディスクユニオンでしか流通されてないような雰囲気が漂っている。
しばらくフロアで開演を待ってるとアルバムが一巡したのが分かる。パンクなどは特に速くて短い曲が多いから46分のカセットテープの両面に録音するとかなり余ってしまうので他の好きな曲を詰め込んだり40分テープや30分テープを用意したものである。
これでも僕は自称15歳。

しかしそういった意味では合計収録時間34分07秒の「アヴァンギャルド0チテン」もジャンルとしては"こちら側"であると思う。まさかKAQRIYOをカセットテープに録音する日がくるとは思ってはいないが、そんな聴き方をするのも楽しいかもしれない。
片面20分の40分用ハイポジカセットテープなんて今はもう売ってないだろう。
僕の部屋にはKENWOODのコンポが設置されたままだが故障して何年も経っていてスピーカーも本体も他の日用品に侵食されている。まるで椎茸にまみれた椎の木のように修理もできそうになくなった木箱のスピーカーと、セットで構成された箱型コンポーネンツステレオなんてよほどのオーディオマニア向けのものは、もはやどこかのリサイクル店のジャンク棚で眠ってるくらいしかなく、音楽の聴き方も二極化してしまったよな。
誰しもがプチ高級品を嗜好できた当時を懐かしむ自称15歳であった。

フロアを振り返るとモヒカン頭で気合の入ったお兄さんや、ライダースジャケットの下から金属チェーンじゃらじゃらさせたお兄さんもいる。彼らのその年季の入りように、いわゆるYOMIBITOさんとは違うオーラを発している。今日の出演者を知らなくてもとりあえずAntiknockにくればイカレた音楽に出会えそうだ。みたいな信頼感のある雰囲気。
そんなアンダーグラウンドな気分が盛り上がってきたところでライブが始まった。

最初に心鞠が登場してDJブースにスタンバイする。そしてお馴染みのSEが流れると下手側より季・ロンド・マロが登場する。なんか登場の仕方が威風堂々としてかっこよくなってないか?肩で風を切ってフロアを見渡してガン飛ばして来たぞ。
「ゴッドファーザーのテーマ」を出囃子に登場してきたThee michelle gun elephantを思い出したよ僕は。
先週名古屋で観たばかりのはずなのにこの一週間に何があった?先日YouTubeでメイク動画を配信してたのもあってか、メンバーのメイクもいつになく気合いが入っている。ロンドのアイシャドウはバッチリと青く彩られててとても妖艶だった。これもし最前列から観てたら鼻血ピューで即死していただろう。
新宿という街の胡散臭いほどの妖艶さをKAQRIYOは感じ取り、気づいたらシャドウが新宿仕様に仕上がっていたのだろう。

一曲めのHybrid TABOOは舞台袖からスモークが噴出され妖しく幕が開いた。
décadenceは初めて聴いた時の印象から、みるみるうちに他の曲との統一感が高まってきていた。
そしてAvant-gardEへの流れも違和感の無いものに仕上がっていた。
以降も前半はKAQRIYOTERRORになってからの曲多めだったのだが、マロが復帰して2本目とは思えないほどの安定感だった。

振り返ればその一週間前のCircus NAGOYAで既に違和感はほとんど拭い去られていたのだが。

って今日もPersona_キタ━(゚∀゚)━!
この曲を観る毎に僕はそのフレーズが好きだと書いたことや、同じところをロンドも気に入ってると話してくれたこともあり、他の曲よりも一層気持ちを高めて観ているのだが、今回またしても涙腺をやられてしまった。涙で視界が滲んでくると眩しい照明と相まってますますステージが美しく見えてしまって更に涙腺の分泌を加速させてしまうのである。
おそらくKAQRIYO側もメンバーの表現力向上に手応えを感じてか、これをライブのエモーショナルな一面として定番化しようとしているのがなんとなく伝わってくる。
そしてこの次まさかカクリヨ奇想曲やったら反則だぞ?先週名古屋のセトリとかぶるからな、いやしかし名古屋と新宿どちらか遠征して両方観るというのは本来ならイレギュラーな行為なので、セトリの世界観のためなら2曲くらいかぶるのは仕方ないはず。反則ではない。
ところが今回しっかりとセトリを変えてきてくれた。Persona_に続いてOblivionキタ━(゚∀゚)━!
もう泣かせに来てるじゃん。

1/24のBipropagandaのアンコールでマロの復活と共に歌われたOblivionは、先週のCircus名古屋というマロの本格復帰初日からはあえて割愛された。
名古屋で割愛されてたからこそ、名古屋ではBipropagandaの残像、涙丸とDKIとの五人の姿も重なって映ってそれもまた僕にとってはエモーショナルなものだった。

そしてこの東京で1ヶ月余ぶりに観たOblivionはまた違った表情に映った。
あの日のWWWのOblivionはマロにとっての想い・他のメンバーたちのマロに対する想いに想像を馳せて彼女たちの再会に涙が溢れてきた。
あれから1ヶ月が過ぎ、そのOblivionは僕にとっての「思い出したくない」「思いは消えてくれそうにない」の気持ちがどっと押し寄せてきたのだ。
「一生忘れない」と誓ったはずなのに今は「思い出したくない」のである。我ながらなんて身勝手なのだろうと思う。でもそれは「忘れたくない」のアンビバレントであることは自覚しているはずだ。
あれからというもの、僕は毎日のように、いやまさに毎日繰り返し聴いてきた、そして毎日弾いてきた彼女たちの歌を聴けていない。
一体いつになったら聴ける日がくるのだろう。もしもその日が来たとしたらそれは彼女たちが完全に「過去のもの」になってしまったことを認めてしまうようで怖いのである。

チェキを撮った時、僕はマロに「僕が忘れてしまえばどれ程楽になれるだろう、しかしやっぱり忘れられないほど彼女たちのことをずっと好きなんだ、今日のOblivionを観てたらそんな僕の気持ちが込み上げてきた。突然ごめんね、そんなことばかり考えてて。」
そんな気持ちを吐露したのだが、それでもマロはそういう聴き方をしてくれることマロは嬉しいよと言ってくれた。そんなマロの懐の大きさだったり、歌詞に対する気持ちに僕は安堵と感謝の気持ちで一杯になった。

以降は、幽世時代からの曲ばかりが続く。
ユビキリゲンマンを観ているとどうしてもそのMVに"役者として"出演していた彼女のことを思い出してしまう。
Oblivionで感じた気持ちに相反するように。
しかし本心は自分でも解っている。
などと感傷に浸ってしまいそうなところを、かごめかごめの勢いで吹っ飛ばしてくる。もうあとは踊りまくりな曲ばかりが続き、嵐のように本編が幕を閉じた。

そしてアンコールは一変して比較的落ち着いた気持ちでKAQRIYOTERRORに変わってからの曲ばかりが続いた。最初は新宿の色に染まってみてステージに立つのだが、アンコールではその新宿の色を、KAQRIYOTERRORが放つ違った極彩色で新宿を塗り潰してしまおう、とでも言いたげな「静かなる反撃の狼煙」というメッセージに感じられた。

いわゆるアイドルという枠組みに先入観を持ったままロックばかりで育ってきた人たちが、ライブ終わる頃には「チェキ撮るの楽しい!」ってサングラスの下で目尻を下げて帰っていくのを微笑ましく感じられるような、唯一無二で禁忌がTABOOのグループになったらいいなー、って僕は妄想した。

#KAQRIYOTERROR Circus TOKYO 20210306 @新宿Antiknock

DJ;心鞠 マロ季
1.Hybrid TABOO
2.décadence
3.Avant-gardE
4.Drying Party?
5.アイデンティティークライシス
6.lilithpride
7.BWG
8.The Forbidden musterbating
9.Persona_
10.Oblivion
11.ユビキリゲンマン
12.かごめかごめ
13.鬼乃狗摩音頭
14.Original Satire
15.摩訶不思議ズム

encore
16.SOS
→なんちゃらバブルス
18.TEKITWO
19.うすうす

ラストのうすうすのエンディングで左から「心鞠←ロンド←マロ←季」の順に横に並び、メンバーは矢印の方向を向いて隣のメンバーに抱きついている。
僕もそこに混ぜてくれー!とは言わないでおこう。

チェキの時はみんなとYouTubeでのメイクや髪型などの話などを、その一方でマロには上記の通り、今日のOblivionを聴いて僕が思ってたことを話した。
ちょっぴり真面目な話も、他愛もない話も、先週名古屋へ遠征したことで彼女たちとの距離がまた少し近くなった気がした。

帰りの夕食は歌舞伎町の中でも屈指の胡散臭い界隈に潜り込んで、本日のチェキくじのテーマになってたレバニラを食べた。かくりよちゃんずが染めてくれた新宿の街並みが、ほんの少しアットホームに感じられた。ああ、悪い大人の仲間入りだ‥‥。

僕がこのブログを書いている今頃、かくりよちゃんずは既に新奇懐古周遊の西変が始まっている。
彼女たちは今も日々自己ベストを更新し続けていることだろう。しかし今まで彼女たちが歩んできた軌跡も、話も脱線してばかりで主観的ではあるが此処に残しておこう。

2021.4.18
Лавочкин
(らぼーちきん)

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