なぜ書き始めるか

 話すのはかんたんだが書くのは難しい。だが話してみた内容をあとから聞き返すと、その内容の薄さに驚く。文章におこせば数十文字で済む内容を数十分かけて話している。話すのが簡単なわけだ。もともと言葉というのは極めて単純な意味を表現するためのものなんだ。書き言葉は仰々しく意味ありげな単語を積み上げていくけれど、それも極めて単純な意味を廻り道して射抜きうるに過ぎないんじゃないかという気がしてくる。

 この数週間書くことに倦んでしまいそれ抜きで過ごそうとしたけれど、本当に何もすることがなくて、希死念慮ばかりが膨らみ始めて手のつけようがなかった。書くことをやめると、あまりにもやることがなくて僕は驚いている。僕には書くことしか残されていないような気がしてくる。書くことは大変だが、書かなければいけないという使命感があってようやく僕は生きるということの最低限の実感を抱いているというような気がする。だから僕はまた書き始める。誰かが僕の文章を見つけてくれるときのために。

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