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はじまりの日

いつもの席に座り、僕はランチを食べていた。
建物の構造上、広い食堂の一角に大きな柱が出てしまうらしい。入り口からは分かりづらいが、実はその奥に2席あるのだ。
誰からも気付かれにくいそんな席。僕は好きだった。ちょっとした「隠れ家」のようで、僕には都合が良かった。

今日も食べ終わった後、頭をテーブルに預けて、うたた寝をしていた。
この時間がたまらなく気持ちいい。

何やら入り口付近が騒がしい。雑音で目を覚ました僕は、様子を伺った。
よく見ると、1人の女を取り囲むように、数名の男女が群れを成している。
最悪なタイミング。
しばらく眺めていた。
中心にいる女が何やら喋っている。
遠すぎて声は聴こえないが、女が笑えば、周りの取巻きも一緒に笑う。女が黙れば、途端に場が静まり返る。
まるで、新興団体の集会のようだ…

僕とは違う人種... 苦手...
それだけは理解した。

少し早い時間にランチを食べに来た。
まだ、食堂に人はいなかったが、僕はいつもの席を陣取った。
ひと口目を放り込んだ瞬間、目の前に人の気配を感じ、見上げると、あの女が立っていた。

僕は想定外の対面に、ご飯を喉に詰まらせそうになり、一気に水で流し込んだ。
「大丈夫?ここで食べてもいい?」
僕は黙って頷くと、女は静かに座った。それ以上は、何ひとつ話さなかった。
いつもの無駄に明るい雰囲気とは違う。

二人の距離に違和感を覚えた。
僕は覗き見るように、女の顔を観察すろ。
白い肌、小さめの口。
伏し目がちなつぶらな瞳の色は、透き通るグリーン。その瞳に合わせたような眉と髪の色。
丸顔だが、意外と小顔である…

そんな僕の視線に気付いたのか、じっとこっちを見ていた。
「いつも、この席が気になってたの。でも、気になってたのは、席じゃなく、あなただった。実は今日、私の誕生日。二人だけの時間を過ごせて良かった。」
「じゃあ」といつもの笑顔を残し、群衆の中へ消えていった。
その後ろ姿は、ファンの待つステージに戻るアイドルのようで、キラキラ輝いて見えたんだ。

その時、気付いた!さっきの違和感。
僕はいつも彼女を探していた!
気にしていたのは、僕も同じだ…

遠くから彼女が僕に何か語りかけてきた。
「ス、キ」口のカタチで分かったよ。
僕も、声にならない想いを笑顔で返した。

『お誕生日おめでとう!』
今日は、君と僕のはじまりの日でもある。
こんな僕に気付いてくれて、ありがとう。
大好きだよ…


Happy Birthday
dear KIYOMI🟢

作/lave   2023.12.3  No.36





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