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桃色のエール

ソメイヨシノの見頃もピークを終え
散り際の儚さを外回りの途中
ぼんやり眺めていた

私は、ずっと1人だった
物理的には1人じゃないけど
心は1人だった…

「先輩、今からサボりましょう!」
突然、同行していた後輩の彼が
ニヤけながら言ってきた

私が戸惑うのも気にせず
強引に背中を押してくる
そのまま仕方なく車に乗り込む
「明日は休みだから、
帰社時間多少遅くてもいいか… 」
諦めに近いため息をついた

「ジャズ、お好きでしたよね?」
気を遣ってくれたのか
私の好きなジャズを流してくれた

どこへ向かっているのかわからないが
車窓から
高いビルが消え
渋滞の車が消え
人の影が消えた

その代わり
緑の山々と
澄んだ青い空が広がってきた

彼はというと
ご機嫌そうに口笛を吹いている
流れているジャズとは程遠い
今流行りの曲だった
私は呆れながらも
そんな天真爛漫さに
救われているのを感じていた

いつの間にか
心地よい車の振動と疲れから
うとうと眠ってしまっていた

「先輩、着きましたよ」
その声で目がさめた
「あっ、ごめん」
私は、慌てて手を合わせて謝った

「いいんですよ
 それより前を見てみてください!」

私の目に鮮やかな色が飛び込んできた
淡い桜色でもなく
紅梅の濃い紅でもなく
これは桃?桃の花のピンク...
花に関する浅い知識から必死に探した
しかし、圧倒的な美しさに
花の種類なんてどうでもよくなっていた

「ここは長野県の阿智村です
 この花は、『花桃』と言って
 実ではなく
 花を楽しむものみたいですよ」
「たまには桜じゃない花見もいいでしょ?」
彼は続けて話した
「どうしても先輩に見せたくて
 花桃の花言葉って何だと思います?」
私が首を横に振ると

『天下無敵』
 「先輩はいつもカッコいいです
 憧れなんです
 だけど、ずっと元気なさそうだったから」

後輩の彼からのエールと
鮮やかな色彩に
目の前がぼやけてしまった
先ほどまで鮮明だった光景が
一瞬で柔らかな水彩画に変わった

いつ以来だろうか?
こんなに色や温度を感じたのは

最近の私の世界には
色がなかった
温度がなかった
何も感じない無機質な日々だった

肌寒い風が吹いた
「寒っ」自分の肩を抱いた
その時、背中にぬくもりを感じた

「花言葉、まだあるんですよ」
彼が耳元で囁いてきた

『私はあなたのとりこです』
「もう1人じゃないから、僕がいます」

私は、静かにうなづき
彼の腕にしがみついた

今にも星が降り出しそうな
空になっていた


作/lave    No.45    2024.4.17


stand.fmでご活躍中の
「ほっこり♨あちラジオ」さん主催
【2024 阿智村応援企画】
〜花と桃でつながろう!〜
#あちがんばれ
こちらに参加させていただきました

長野県阿智村
南信州の桃源郷「花桃の里」と呼ばれています

いつか私も訪れてみたい場所です♡


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