わたしがセラピーに出会うまで〜超ハイテンションからどん底へ

そこそこに幸せだ、自分の人生をそう思っていた。

普通に学校に通い、進学し、20代は思い切り好きなことをしてシングル生活を満喫し、30歳で結婚しその4年後に母になった。やっと授かった一人娘を念願の水中出産で産み、それはもう愛おしくないはずはなかった。仲良しのママ友たちもいて集まればいつも笑いばかりだ。夫婦仲も悪くない。

だが、子育てを一生懸命やってきて10年くらい経った頃、私は自分の人生がなんだかどん詰まりだと感じ始めていた。私、自分の人生を生きてない、と。

いろいろやってきたけれど、人生で何も成し遂げてきていないし、すっごい充実しているって感じもしない。将来の夢も特にない。趣味はあるがそれを仕事に繋げるほどの才能なんてない。今更何か新しいことを始めるのも遅い気がする。

私の何がいけなかったんだろう?人生どこで間違っちゃったんだろう?こんなに家族のために頑張ってるのに・・。不幸せなわけでは全然ないが、ただ、自分の人生を生きていない感が半端ないのだ。

40代半ばに差し掛かる頃の私は、こうして家族のために毎日ご飯を作って食べてまた寝たら朝が来る生活を、平均寿命まであと40年以上も過ごすのかと思ったら気が遠くなるくらい面倒くさいな、と思っていた。それにしても、平均寿命まで生きる気満々だったという図々しさよ(笑)

そんな頃、友人がある映画のことを教えてくれた。

「うまれる」というその映画は、出産や命に関わる4家族を追ったドキュメンタリー映画だった。Youtubeの予告編で出産シーンを観ただけで号泣して絶対に本編を観たいと思ったのだが、DVD販売もなく映画館での上映もなく、観られるチャンスは自主上映のみという映画だった。私の住む函館では上映の予定はない。

ここで急に私の身体から「絶対観たい!」という思いがムクムクと湧き上がった。私のやる気スイッチが入った瞬間だった。今思うと天の采配ではなかったかと思うくらい、絶妙のタイミングであっという間にママ友や娘の同級生ママたちが手を挙げてくれて、5人の主婦で実行委員会を立ち上げた。

上映日を2ヶ月後に設定して、映画プロダクションとの連絡、企画書作成、スポンサー探し、市の後援依頼、会場の段取り、フライヤーの印刷と配布、チケット販売、テレビやラジオ、フリーペーパーや新聞など地元メディアでの宣伝、メディアとスポンサー向け試写会開催、コラボトーク会の開催、ボランティア手配、当日の運営などなど、とにかくフルタイムワーカー並みに動いた。

毎日を惰性で生きていたような私が、突然目的と目標を見つけて水を得た魚のように函館中を走り回りだしたのだ。ただ「この映画を観たい」という思いだけで動いていた。

私たちの熱意に動かされたのか、たくさんの人が手を貸してくれた。たくさんの人との出会いもあった。そして、皆が協力してくれた。上映会場の定員は350人で函館近郊にしては大きめな会場だ。1日に2回の上映で満席なら700人の入りだが、小さな地方都市での無名のドキュメンタリー映画の上映に、これは無謀な数字としか思えなかった。上映会を開こうと5人で電卓を弾いた時にも、100人来てくだされば赤字にならなくて済む、もし赤字になったら5人で割ろう、そう言って始めたのだ。

だが、上映会当日の会場は2度の上映ともたくさんの大人と子どもでほぼ満席だった。頑張りが形になって現れたのも嬉しかったが、それよりも、私自身がとにかく楽しかった!こんな達成感と快感はいつ以来だったろう?

この活動を通して、私は何もできないと思っていた自分が実は結構いろんなことができることに驚いた。

映画プロダクションとのやり取りをしたり、スポンサーになってくださる企業や病院を探すために企画書を片手に飛び込みで営業に行ったり、NHK地方局や地元ラジオ局のインタビュー番組に出演したり、実行委員たちの動きを全体的に把握して何が必要かわかったり・・今までやったことのないことでも、「映画を観たい!」という思いに突き動かされてなんでもできてしまったのだ。

インタビューしてくれたNHKのアナウンサーに「本当にただの主婦なんですか?何か以前にしていたんじゃないですか?」と言われ、お世辞だったかもしれないが素直に喜んだ。

もしかして、私って意外となんでもできるヒト?私はずっと忘れていた自信を取り戻したように感じた。「フツーの主婦」な私が社会とのつながりを取り戻せたのだ。すごくすごく満たされた。


この上映会の成功は、私だけでなく実行委員をしていた友人たちにもライフチェンジングな経験だった。他の4人は着々と次のステージに上がっていった。仕事で新しい資格に挑戦したり、ずっと専業主婦だったのに仕事を始めたり、悪かった体調がすっかり良くなり復職したり、元々の職場でさらにやりがいを見出したり・・

その仲間たちを横目に、私は一人落ち込んだ。いつもの日常に戻った私は、やはり何もやりたいことも夢もなかったし、もう一度あんなパワフルに上映会を開催したいという熱意も全く湧き上がらなかった。一人では何もできないと感じた。

目標がない毎日は、以前にも増してつらかった。上映会の大成功でハイになった度合いが高かった分その落ち込みは急降下で、私はそこからどう這い上がれば良いのかわからないほどのどん底にいる気分だった。世界から置いてけぼりにされた気がした。

そんな時、娘が放った何気ない問いに、私は打ちのめされることになった。
「ママの夢って何?」

〜続く〜



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