デジタルツールは「課題を解決する目的で導入する」と言ってはいけない理由

デジ田時代を迎えて久しく、多くの企業や自治体がデジタルツールを導入しています。さらにAI時代の到来により、デジタルツールを自社開発する動きも増えてきました。
アプリ開発がめでたく完了してリリースすると、特に自治体向けだったり、生成AIを活用した先進的で社会性のあるツールだったりすると、新聞などどこかから取材を受けることがあり、わたしも何度か経験があります。
大抵それは電話やオンライン会議による取材になるのですが、そういうとき決まって、「背景にはどんな課題があって、どう解決する目的で開発したのですか」と聞かれます。
これは手っ取り早く要点を知ろうとする記者の立場からの問いかけであり、新規事業に対してであれば問題ないかもしれないですが、自社開発したデジタルツールに対しては適切ではありません。

デジタルツールは「課題を解決する目的で導入する」と言ってはいけない

確かに「誰かの課題を解決する」というのはビジネスやサービス開発の基本です。例えば、バスの路線を増やす場合、「徒歩20分かかっていた距離が、バスで5分で行けるようになった」というのは、間違いなく課題解決であり、そう説明しても問題はないように見えます。
ところが、デジタルツールの場合は多くの場合そうはなりません。 スマートフォンによるデジタル決済の例で考えるとよくわかります。
デジタル決済のアプリをインストールし、口座の紐付けなど設定することで、現金やカードを持っていなくともスマートフォンを操作するだけで商品を購入することができるようになります。
しかしこれは「課題を解決する」ことを目的としたものではありません。
もし記者のテンプレ質問通りに答えてしまうと、「現金やカードを持っていないと商品を購入できないという課題があった」などと書かれ、記事を読んだ人から、「え、課題だと思ってたの?」とツッコミを受けてしまいます。

キーワードは「選択肢を増やす」

現在、デジタルツールを利用する目的のほとんどは「課題を解決する」ではなく「選択肢を増やす」ことにあります。これは、現代の日本においては、「デジタル化することで社会をより便利にする」ことにデジタル化の主眼が置かれているからです。この流れは、近年生成AIが登場したことで一層際立って感じられますが、決済しかり、マイナ保険証しかり、「課題を解決する」のではなく「選択肢を増やす」ことが目的であるのは昔からほとんど変わっていないように見えます。

たとえ「自社開発」であっても「開発」と「導入」では異なるメッセージが必要

「デジタルツールを開発しよう」というモチベーションは、その時点では間違いなく「なんらかの課題を解決する」ということにあります。それは、アプリの仕様を決める過程で、利用者を絞りターゲットとして設定するプロセスが入るためです。ターゲットを「課題がある人」と設定することで、チーム内で一貫した考えのもとサービスを開発しやすくなるともいえます。
しかしツールを内製する場合「開発する目的」と「導入する目的」は分けて考える必要があります。とくにデジタル化の目的が「デジタル化による効率化」なのであれば、「課題を認識しているのはサービス提供者側だけ」であることも少なくありません。
いずれにせよ取材を受ける場合には、開発者であっても、利用する立場で記者に伝えなければなりません。この視点は、資金調達や広報などのシーンでは特に重要になります。とくにエンジニアが開発の目的を話す場合は特に混乱の原因になるので要注意です。

以上、マニアック過ぎてほとんどの人が理解できないんじゃないかというメモでした。

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