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はじめましての日

父が再婚する。
婚姻届を提出する予定がたったので、その前に一度会うことになった。

家まで迎えに来てくれて、車に乗った。
その人は助手席に座っていた。ここではじめましてか… もう少し心の準備が欲しかったな。
一応ちゃんと笑顔で挨拶して、私が育った実家へ向かった。
父の運転する車、助手席に再婚相手、その後部座席に座る私。
こんな経験をする日が来るとは思わなかったな。
車中で仲良く話す二人を見ていると、
あぁ 父と母はうまくいかなかった 
と思い知らされて辛くなった。涙が出そうになるのを必死に堪えた。
あの人は毎回ちゃんと振り向いて私に話しかけてきた。

両親が離婚して数年、まだたまに家族最後の夕食を思い出すことがある。
ご飯のあと、妹は部屋でこっそり泣いていた。
私はどう声をかけたらいいかわからなくて、部屋に戻って泣いた。
妹が泣いていたことは私しか知らないし、私が泣いていたことは誰も知らない。

私が小さい頃からずっと両親は仲が悪かったから離婚すると聞いても、やっとその時が来たと思うだけだった。
私も妹も成人していたから、幼少期に両親の離婚を経験するのとは状況が違う。
それでもやっぱり傷ついた。

実家とは呼べない実家には祖父母も暮らしている。祖父母と親しく話すあの人。
うまくいかなかったから分、これからは幸せになってほしいと思っているので再婚することに反対はしない。
嫌な訳ではないのに、なぜか受け入れられない。

私の家でもあるから、これからもいつでもおいで と祖母は言ってくれた。
あの人がいるなら行きたくないな。
仲の良いところを見るたび、うまくいかなかった悲しみが溢れて仕方ないから。
家に帰ってきてやっと泣いた。
よく我慢した。この日のことは母には内緒にしておく。

印象は良かったけれど、
できればもう会いたくない。
あの人は私の名前を覚えてくれていた。
私は名前を覚えられなかった。



いろいろ辛いところはあるけれど、
みんなそれぞれ幸せに暮らせたらいいな。