見出し画像

iPad 文字打ち練習(夢枕)

かつて一緒に暮らしていたなんとも言えない関係の人の夢を見た。
別れ際の夢だった。一緒に寝ていて「大丈夫?」「一人でやっていける?」とその人は言っていた。
わたしは「あと二年したらここからいなくなるんだよ」とかなり深刻に訴えていた。
あなたの方が大丈夫じゃないでしょう、と心配していた。

実際の別れ際も、相手のことを心配していた。
別れを切り出したのは、わたしなのに。
これから本格的にひとりぼっちになるのに。
彼は家族が近くにいて、元の環境に戻って暮らすことが決まっていた。
それでも、長期的に見て「あなたの方が大丈夫じゃないでしょう」という気がした。
強すぎる絆を案じて「一人暮らししなよ」と何度もすすめた。
変化しないものはないから、このまま戻ると行き詰まるよって。
親が死んだ時に、変な恨みを持つかも知れないし。
そう思って、しつこくアドバイスした。
しかし、彼は戻ってしまった。

「もう縁を切る人だしいいか」
いつものようにパッと気持ちを切り替えたけれど、最近になって「あれで良かったのかも知れない」と思い直した。
優しくて上品で少しお金持ちの人たちは、お互いを優しく見守りあえる枠の中にいて、危く道を外しそうになった親類に、さっと手を伸ばせる相互扶助の関係ができている。
時代が変わっても、その人たちが礼儀や品格を守っている限り、相互扶助のシステムは続くのかも知れない。
おかしな肉親から距離をとって、一つ屋根の下でも関わらないように息を潜めていたわたしにはうまく想像できなかった。枷になるとさえ思っていたけれど。
あのアドバイスは、杞憂というか余計なお世話だったのかも知れない。

とにかく過去の夢を見て「うわぁっ」と声を上げた。
通りすがりの蛇に気づいて、悲鳴をあげるのと似た心地がした。
切なくなって涙が出たが、同じくらい肝を冷やした。
「死んでしまった? まさか夢枕では……?」
と考え始めると居ても立ってもいられず、思い切って連絡をしてみた。
別れた直後も変わりなくやり取りをしたが、あることを機に連絡をやめて、繋がりのあったSNSはすべて断った。
唯一残しておいた電話番号で「何かあった?」と端的なメッセージを入れると
「何もないよ。もしかして何かしてしまった?」という遠慮がちな文面が届いた(少し前に間違い電話がかかってきたことがあったから)。
彼らしい文章に図らずも優しさを感じてしまい、近況報告も兼ねて何度かやりとりをした。
文面上は元気そうだった。特に変わり映えはないと言っていた。

なんだ、夢枕に立ったんじゃないのか。
リアルだったけど、ただの夢か。
白い世界でゴロゴロしながら、何気ない会話をするだけの、怖い夢ってあるんだな。
怖いというか、ショックというか。
「昔の夢を見ただけ」と流すこともできるけど、
無意識下でわだかまっているものがあると考えると、身がすくむ。

「たまにはLINEください」というメッセージをもらって、少し迷ったけどブロックを解除した。
「また夢に出てきた時は、安否確認するね」とLINEでメッセージを入れた。
LINE自体があまり好きじゃない。わたしからはアクションを起こさないだろう。夢に出てこない限りは。
文面通りの意味を伝えた。

ただ、一度はともに暮らした彼の人生が幸せであるように。
最後まで幸せであり続けるように。

こういうことは、たびたび考えている。

サポートありがとうございます。このお金はもっと良い文章を書くための、学びに使います。