顧客のインサイトを見つける「N1分析」って何?【事計画書の作り方⑤-3】
おはようございます。経営支援者の山西です。当noteでは、経営力強化につながる情報を経営者や支援機関に向けて発信しています。
前回、前々回と顧客分析の方法についてお伝えしました。
その記事の中で、顧客分析のゴールは、消費者の「ペイン」と「価値観」を理解することだと説明しました。ペインと価値観が分かれば、消費者のジョブを発見出来ます。
今回は、ターゲティングに向けたインサイト(ペイン・価値観)を見つける方法として「N1分析」をご紹介します。顧客分析の最終段階となるので、ぜひ内容を理解してご活用ください。
N1分析とは
N1分析とは、1人の人間を深く理解する顧客分析です。Nはデータ数を示すNです。つまり1人のデータ(N=1)をより深く分析することを示しています。
例えば、新規顧客をリピーターにしたい場合に、1回のみ利用したことがある顧客に1日密着して、その行動を見て回ることで、深層心理(インサイト)を探ります。
N1分析の特徴は4点ほどあります。
特徴①:ビッグデータが無くとも調査できる
N1分析には、ビッグデータが必要ありません。あくまで定性的な行動を観察してインサイトを探るからです。そのため、購買データ等を蓄積していない企業でも実施できます。
特に、リソース(人・物・金等)が少ない中小企業においては、購買データの蓄積に必要なITシステムの導入がコスパ的に合わないことが多く、ビッグデータが蓄積されていない企業が多いのが現状です。
そんな中でビッグデータが必要な顧客分析をしようにも、そもそものITスステムの導入がネックとなり、実行可能性が低くなってしまいます。
N1分析はビッグデータが必要無いため、どんな企業でも利用がしやすいのです。
特徴②:深いインサイトを得やすい
N1分析は、1人の人間を深掘りしていくため、深いインサイトを得られやすいです。
例えば、1人の人間の行動を知る過程の中で、調査人が疑問に思うことがあれば、その都度、深掘りの質問をしていくことができます。要は、行動調査と併せてインタビューで深掘りができるので、より深いインサイトを見つけやすいのです。
ビッグデータを使った購買分析では、こういった調査が少しやりづらいのです。購買分析をした際に、「●●というジョブがあるから、▲▲という行動を取っているのかな」という仮説を立てたとしても、実際問題、その検証が中々難しいのです。
また、世の中に出回っている調査の多くはネット調査で行われており、大量の回答を簡単に得やすい分、気軽に回答しているものが多いため、回答精度としては高くなりづらいのです。
もちろん、N1分析でも、その検証作業は難しく、慎重に行う必要があります。しかし、本人に多面的なインタビューを重ねることで、真の答えにたどり着く糸口が見つかりやすいのです。
特徴③:調査者のスキルに左右されやすい
N1分析で深いインサイトを得るためには、ある程度の調査者のスキルが必要になります。
必要なスキルは主に2点。
(1)インサイトの仮説がどこにあるか見つけるスキル(仮説スキル)
(2)仮説検証にどんなインタビューが必要か考えるスキル(検証スキル)
これらのスキルが無ければ、正しいN1分析を実施できません。
回数を重ねてN1分析を行っていくことで、上記スキルが身に付いてきます。これらのスキルが身に付けば、普段の接客や生活の中でも消費者の行動を見た時に、その人のジョブを見つけることが出来るようになります。
特徴④:やや手間がかかる
深いインサイトを見つけるためには、行動観察でインサイトの仮説を立てることに加えて、他の行動を見たり、インタビューしたりして検証していく必要があります。
少なからず手間がかかります。そのため、パッケージソフトであるようなボタン1つでできる統計解析とは異なります。
しかし、統計解析もきちんと行うためには、多層的に前処理や後処理を行う必要があり、必ずしもN1分析が手間の面で劣後するとも言い切れません。要は、どこまで求めるかです。
N1分析のやり方
手順①:ゴールを設定する
前回の記事で「顧客分析はターゲティングのために行う」という話をしました。そして、ターゲティングのためには、顧客を分類する必要があります。
顧客のジョブを切り口として分類するのがオススメですが、その顧客のジョブを見つけるためには、消費者の「ペイン」と「価値観」を発見するのが重要です。顧客分析は、顧客の「ペイン」と「価値観」を見つけるために行うべきです。
手順②:条件を設定する
(A)誰を分析するか
誰を分析するか設定します。
まず大前提として、調査対象は消費者です。BtoCの企業に限らず、BtoBの企業も(最終)消費者を分析対象とする必要があります。
なぜなら、顧客調査で探しているのは、深いインサイトに基づく顧客のジョブであり、そのジョブを持っているのは消費者だからです。
BtoB企業のプロダクトによって解決しているジョブは、その直接顧客ではなく、最終消費者のものです。その消費者のジョブから逆算してプロダクトを作る必要があります。
調査対象者は、あらかじめ設定している企業ドメイン内の消費者とします。分析対象者の設定は様々ですが、この段階では、より多様な人に調査してみると様々なインサイトが見つけやすくなるため良いでしょう。
それでもどうやって調査対象者を設定すれば良いのが分からない場合は、CPM分析の切り口を活用するのが分かりやすいでしょう。
CPM分析では、顧客を購入金額や頻度の乏しい順に「初回」「よちよち」「コツコツ」「流行」「優良」という5つに分類します。そこから、最終購入日によってさらに「現役」と「離脱」に細分化します。
この10のセグメントからなるべく満遍なく調査できるように設定するのが分かりやすく効果的でしょう。
たくさん売上に貢献してくれる人は何が理由なのか、1度来店されたけれどその後来店が無い理由は何なのか等を知ることで、より深いインサイトに到達することができます。
(B)どのくらいの人数を調査するか
特に決まりはありませんが、数名、多くとも十数名を調査すれば良いでしょう。
データ解析の場合は、「統計的に有意である」ことを証明できるだけのサンプル数が必要になるので、数百~数千人の人を対象とする必要があります。
しかし、大切なのは深いインサイトを見つけることです。そのため、N1分析においては必ずしも数百人のお客様にアプローチする必要はありません。
むしろ、人数は絞ったうえで、どれだけ深掘りできるのかが大切です。
(C)誰が調査するか
自社調査or外部委託
どちらもアリだと思います。
自社調査のメリットは、行動調査に対して、どこを深掘りすれば良いのか自社スタッフの方が良く分かる点です。調査対象者の行動に対して「こうすればもっと便利に過ごせるのに」という視点が、より商品に詳しい自社スタッフの方が思いつきやすいためです。
一方で、外部委託の良さもあります。外部委託のメリットは、
1.自社スタッフの時間がとられないこと
2.客観的なインサイトを見つけられること
です。
外部委託にデメリットとしては、費用が高額になる点が挙げられます。外部委託する場合は、マーケティング調査会社に委託することになります。調査方法や調査人数によりますが、数十万円程度かかるのが一般的かと思います。
自社調査・外部委託のメリットとデメリットを比較して、調査方法を選択しましょう。
(D)どのように調査するか
最もオーソドックスなN1分析の方法は、対象顧客に密着して、普段の行動を観察すること(行動調査)です。この方法なら、インタビュー調査と違い、潜在的なジョブを発見しやすいからです。インタビュー調査で出てくる顧客の声は、基本的に自分が普段から考えている顕在的な意見であり、潜在意識の中にある声は出てこない訳です。
ただし、1日密着というのは顧客からしてもハードルが高いので、当社のプロダクトを使用する前後や、ジョブが発生しそうなタイミングのみの密着でも大きな問題はありません。
また、密着のハードルが高いのであれば、ヒアリング形式で行動を辿る形もアリだと思います。例えば、洗剤を売る会社が調査者であれば「夕食後にお皿を洗う時間は何時頃ですか?」「どういった感じで洗いますか?」「どれくらい時間がかかりますが?」「油汚れはどうやって洗っていますか?」「汚れが落ちたかどうかはどうやって確認していますか」等と行動を浮き彫りにする形でヒアリングします。
潜在意識までアプローチできることが大切なので、ヒアリングの際には、なるべく本人が意識していない点まで調査できるよう注意しましょう。
基本的には行動について回る方が深いインサイトを得やすく、本人が意識していない行動まで見えるので、あくまで行動調査の方がオススメです。
手順③:調査する
上記調査設計に基づき、実際に調査します。調査体制によりますが、一般的には1日~長くとも1週間程度で完了することが多いでしょう。
手順④:調査結果から、「ペイン」「価値観」を整理し、ジョブを明確にする
調査により、消費者の「ペイン」や「価値観」が浮き彫りになります。もしならなければ、手順(1)からやり直して、もう1度設計・調査する必要があります。
そして、浮き彫りになった「ペイン」や「価値観」から、その人のジョブを明確にしていきましょう。
場合によっては、このタイミングでもう一度調査をする必要があるかもしれません。ペインと価値観からジョブの仮説を出した上で、検証するためです。
このタイミングでの調査は、行動調査までする必要はありません。ジョブの仮説が本当に困っていることか確認するだけなので、インタビュー調査をすれば、多くの場合は事足りるでしょう。
手順⑤:ジョブによって顧客を分類する
後は、そのジョブごとに顧客を分類すれば完了です。
N1分析をした後は・・・
N1分析により、顧客分類(セグメンテーション)ができます。その後は、市場セグメントごとに「どの市場セグメントが魅力的か」を探っていく必要があります。その判断を基に、最終的には当社にとって魅力的な市場を選択することになりますが、この選択行為がいわゆる「ターゲティング」です。
より良い選択=ターゲティングが出来ることで、より効果的・効率的な経営を実現することが出来ます。
次回予告
次回は、市場セグメントの魅力を測る「ファイブフォース分析」について投稿します。3月2日(土)投稿予定ですので、ぜひご覧下さい。
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