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短めのやつ

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#ショートショート

【短編小説】『毒と薬』 #シロクマ文芸部【逃げる夢】

 逃げる夢を見なくなってしまった。  ずっと昔、おそらく生まれた時からそうだったのだろう。  実家が燃えてしまったあの日も、通っていた大学に殺人鬼が侵入したあの日も、いつも通っているあの帰り道にダンプカーが突っ込んで何人もの死傷者が出たあの日も僕は前日に夢でその光景を見ていたのだ。  ただそれは予知夢とはまた少し違うような気もしていて、どちらかというと「本当に単位を落としたらヤバいテストの数日前に留年してしまった夢を見る」ような、自らの生命の危機を感じた右脳が直感で危険

『AMIDA』 #毎週ショートショートnote【戦国時代の自動操縦】

「おいアンタ! 人の命を一体何だと思ってやがるんだ!?」  これまでに何度も文字通りの修羅場を潜り抜けてきたであろう一人の武士が、決して戦場で見せたことがないであろう悲痛な面持ちでそう叫ぶ。 「いやー、そうは言ってもですね。さすがにちょっと死者が多すぎましてですね、冥界側としてもこれ以上の激務は耐えられないというか、だからあなた方のような私利私欲のための戦争で亡くなった死者をですね、こうやって天国行きか地獄行きかを内臓されたAIによって自動で判断して連れて行ってくれる画期

『スタンドバイミー魔女婆さん』 #毎週ショートショートnote【ごはん杖】

「みんなには誰も知らない僕の秘密を知っておいて欲しいんだ。実は僕のお婆ちゃん、魔女なんだ。僕、見ちゃったんだ、お婆ちゃんが作っていたお鍋の中にクモが入っているところを。それに毎日杖を使って歩いているし、絶対にお婆ちゃんは魔女なんだ。間違いないよ」 「マジかよ……。実は俺もずっと気になっていたことがあるんだ。俺の親父、毎年『鳥人間コンテスト』っていう狂った大会に出場しているらしいんだ。親父が鳥人間ってことはもうすぐ俺にも羽が生えてくるってことなんだよな、きっと。ああ、嫌だなぁ

『夜8時には施錠致しますので、暗殺者様の侵入は固くお断りさせて頂きます。』 #毎週ショートショートnote【親切な暗殺】

【夜8時には施錠致しますので、暗殺者様の侵入は固くお断りさせて頂きます。】  毎週末に通っていた美術館に、唐突にヘンテコな縦看板が立てられていた。何コレ? ここは私の聖域なんだ。余計な演出なんて認めない!  美術館の陰から入り口を見張って2時間が経過した。すると突然腹部に鋭い痛みを感じて視線を下げると致死量レベルの血が流れ落ちていた。 「嫌だ、死にたくない」 「どうしてですか? お姉さん、毎週のようにこの美術館に来ていたからどうしても死にたいんだなって思って僕は……」

コント台本 『ラジオブース』

※この内容は元々、コントの台本として書こうと思っていた設定をあまりにも自分で気に入りすぎて「これは是非小説として長尺で書きたい」と思ったところ、書いている内に思い付いた別の展開や、本来コント台本として使おうと思っていた設定も用いていわゆる「別ルート」的な感じでコント台本としても作成してみたものです。  どちらも自分が面白いと思ったものを投稿させて頂いてますが、設定が命すぎる内容ではあるので小説版→コント台本版の順番で読むことをおすすめしています。短編小説とはいえ小説なんて読ん

漫才台本 『搾取さん』

A「私ね、搾取する側の人間になりたいんだよね」 B「おぉー、随分と思い切った発言だねぇ。そりゃみんなできることなら搾取される側より搾取する側になりたいだろうけどさ、それにしてはとりわけ嫌な表現を選んじゃってない?」 A「まあもう、別に良いでしょ。変に取り繕わなくても。人間誰だって中の上くらいの立ち位置で責任も負わずに適度に他人を見下していたいんだよ。だから私はその中でも無駄に敵を作らないタイプの搾取する側の人間になるためにできるだけ嫌味をなくす練習をしたいから、Bは搾取さ

漫才台本 『「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな話を作りたい!』

A「私ね、『風が吹けば桶屋が儲かる』みたいな話を作りたいんだよね」 B「えー、っと『風が吹けば桶屋が儲かる』って確かアレだよね。 ①風が激しく吹いたことによって砂ぼこりが多く飛んで目を悪くする人が増える。 ②目が悪くなった人が増えたことによって耳で楽しむ娯楽である三味線が流行する。 ③三味線が流行したことによって三味線の材料となる猫の皮がたくさん必要になる。 ④猫の皮がたくさん必要になったことでそれによって多くの猫が狩られるようになる。 ⑤多くの猫が狩られたことに

コント台本 『入部』

A「お願いします! 入部させてください!」 B「…駄目だ」 A「本気なんです! 僕をこのラグビー部に入部させてください!」 B「…駄目だ」 A「どうしてですか! 僕が細くてひ弱だからですか!? …分かってます。僕は小・中・高といじめられっ子で、きっと皆さんの足を引っ張ってしまう…。でも僕、変わりたいんです‼︎」 B「…駄目だ。お前を我がラグビー部に入部させるわけにはいかない」 A「お願いします! 入部試験だけでも受けさせてください! このラグビー部が毎年全国大会の

漫才台本 『秋元系アイドルをトーナメント形式で戦わせてみた』

A「私ね、『秋元系アイドル最強決定トーナメント』を開催したいんだよね」 B「秋元系アイドルって確か作詞家の秋元康さんがプロデュースしたアイドルをひとまとめにした言葉だよね。それならわざわざ身内同士で戦わせる必要はないんじゃないの? …っていうか何でいきなり戦わせたくなっちゃったの? そもそもアイドルが戦うって何?」 A「Bも薄々気付いていると思うんだけど、ちょっと多過ぎるんだよね。人数もグループも。このコンテンツ過多の時代にCDが100枚も200枚も出られちゃってるとぶっ

漫才台本 『秘宝』

A「私ね、オークション会場で自分が持っている秘宝を売りつけて荒稼ぎをしたいんだよね」 B「Aって副業でトレジャーハンターでもやってたんだっけ? 秘宝って簡単には手に入らないから秘宝って呼ばれてると思うんだけど」 A「分かってないなあ。秘宝っていってもオークションで高値で取り引きされているものは絵画や美術品がほとんどだったりするんだよ?」 B「それにしたってAがその高値で取り引きされている絵画や美術品を持っている理由にはならないと思うんだけどなぁ」 A「オークションが始

コント台本 『戦隊』

『速報です! たった今ヒーロー戦隊「ドラゴンジャー」の面々が暗黒帝国軍のアジトへと突入した模様です! ……それでは続報が入るまで再び「ドラゴンジャー」のこれまでの歴史をまとめたVTRを――』 (明転。ソファに座って無言でテレビの電源を消すドラゴンジャーブラック。そこにドラゴンジャーイエローがバイト感覚で入室して来る) A「おっはようございまーす! いやー、さっきまでこの辺りを張っていた報道陣に囲まれて参っちゃいましたよー。この前アジトを移転したばっかなのにもうバレてるって