マガジンのカバー画像

短めのやつ

46
運営しているクリエイター

#超短編小説

【短編小説】『毒と薬』 #シロクマ文芸部【逃げる夢】

 逃げる夢を見なくなってしまった。  ずっと昔、おそらく生まれた時からそうだったのだろう。  実家が燃えてしまったあの日も、通っていた大学に殺人鬼が侵入したあの日も、いつも通っているあの帰り道にダンプカーが突っ込んで何人もの死傷者が出たあの日も僕は前日に夢でその光景を見ていたのだ。  ただそれは予知夢とはまた少し違うような気もしていて、どちらかというと「本当に単位を落としたらヤバいテストの数日前に留年してしまった夢を見る」ような、自らの生命の危機を感じた右脳が直感で危険

『AMIDA』 #毎週ショートショートnote【戦国時代の自動操縦】

「おいアンタ! 人の命を一体何だと思ってやがるんだ!?」  これまでに何度も文字通りの修羅場を潜り抜けてきたであろう一人の武士が、決して戦場で見せたことがないであろう悲痛な面持ちでそう叫ぶ。 「いやー、そうは言ってもですね。さすがにちょっと死者が多すぎましてですね、冥界側としてもこれ以上の激務は耐えられないというか、だからあなた方のような私利私欲のための戦争で亡くなった死者をですね、こうやって天国行きか地獄行きかを内臓されたAIによって自動で判断して連れて行ってくれる画期

『スタンドバイミー魔女婆さん』 #毎週ショートショートnote【ごはん杖】

「みんなには誰も知らない僕の秘密を知っておいて欲しいんだ。実は僕のお婆ちゃん、魔女なんだ。僕、見ちゃったんだ、お婆ちゃんが作っていたお鍋の中にクモが入っているところを。それに毎日杖を使って歩いているし、絶対にお婆ちゃんは魔女なんだ。間違いないよ」 「マジかよ……。実は俺もずっと気になっていたことがあるんだ。俺の親父、毎年『鳥人間コンテスト』っていう狂った大会に出場しているらしいんだ。親父が鳥人間ってことはもうすぐ俺にも羽が生えてくるってことなんだよな、きっと。ああ、嫌だなぁ

『夜8時には施錠致しますので、暗殺者様の侵入は固くお断りさせて頂きます。』 #毎週ショートショートnote【親切な暗殺】

【夜8時には施錠致しますので、暗殺者様の侵入は固くお断りさせて頂きます。】  毎週末に通っていた美術館に、唐突にヘンテコな縦看板が立てられていた。何コレ? ここは私の聖域なんだ。余計な演出なんて認めない!  美術館の陰から入り口を見張って2時間が経過した。すると突然腹部に鋭い痛みを感じて視線を下げると致死量レベルの血が流れ落ちていた。 「嫌だ、死にたくない」 「どうしてですか? お姉さん、毎週のようにこの美術館に来ていたからどうしても死にたいんだなって思って僕は……」