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【映画】夜明けのすべて【そろそろ終幕?5】

#ネタバレ

映画と、同名の原作小説についてのネタバレをがっつり含みます。
すでに映画や小説に触れた人や触れる予定のない人に感想をまくし立てて話すかのように、とりとめなく書き連ねていきます。

少しずつクライマックスへ。

転職エージェントとの面談も回を重ね、面接練習も慣れてきた様子の藤沢さん。移動式プラネタリウムの話になり、面接練習であることを忘れて素の自分としてプラネタリウムのチラシを取り出し、宣伝し始める微笑ましい場面。これも何てことないシーンかもしれないけど、人の目を気にしてばかりの藤沢さんが、自分で良いと思えるものを迷わず人に話せるようになっているという、変化の表れなのかなと思った。喫茶店の店員さんにもチラシを渡す積極性が見てとれる。

そして、静かに進む本作で唯一、涙を見せるシーン。

辻本さん、僕いまの会社に残ろうと思います。
今度うちの会社で扱う移動式プラネタリウム、これがまた、すごいんですよね。


…(山添くんをじっと見つめたまま涙ぐんで)
そうか、それは、行かないとな。

冒頭のテレビ電話で会社の不満をこぼす山添くんの姿が思い起こされた。辻本さんはお姉さんを喪い、部下の山添くんが苦しむ姿を見て、自分に何ができるかと考え悩んできたのだろう。山添くんがまた活力を取り戻し、今の仕事について楽しそうに語る姿は、ずっと見守ってきた辻本さんに安心の涙を流させるのに十分なものだったと思う。

原作と異なり、山添くんと辻本さんの対面での交流が続くことには正直、違和感があった。
だけど、大げさかもしれないが、このシーンのためにそういう設定にしたのかなと思った。それくらい、こみ上げるものがあった。


同じくらいグッときたシーンがある。
藤沢さんが社長に退職届を手渡す場面。

短い間でしたが、栗田科学で働けて幸せでした。


(振り返って窓の外を眺めながら)
…だいぶ春らしくなってきたね。


同僚でもある、仕事が大好きだった弟さんを突然喪い、会社の在り方、社長としての在り方をずっと自分に問い続けてきたことだろう。
そんな社長にとって、ここで働けて幸せでした、の一言はこれ以上ない救いとなったことだろう。窓の外を振り返っての一言は、涙を隠すためだったのかな、と想像してしまう。

どちらも静かなシーンだが、一人や二人でない複数の人の夜明けになっていたと思う。


そしてクライマックスの、プラネタリウム。
夜についてのメモ。
思いが溢れてこのnoteにはとても収まらなさそうなので、また別のnoteに書きます。


藤沢さんの退職は思ったよりずっとあっさりしていて、別れの言葉もなく、次の場面はもう新生活。車椅子で送迎車に乗るお母さんを見送り、仕事に向かうシーン。

文庫本の黄色い帯に印刷された、萌音氏演じる藤沢さんの写真。これはどのシーンなんだろうとずっと気になっていた。服装と背景からしてこのシーンだと思われる。

日が差しているが、天気雨が降っている。傘も差さずに雨に濡れているのは、冒頭と同じ状況だ。しかし、どこかすっきりとした表情で、カメラに背を向けて歩いていく。

藤沢さんはPMSが治癒、寛解したわけではなく、これからも症状に苦しむことはあることだろう。新しい仕事も地元のフリーペーパーの制作や営業?とのことで、いろんな人と接する機会も多いだろうし、心配は残る。お母さんの介護との両立も大変だろうなと想像する。

だけど、山添くんや栗田科学との日々が、これからの人生にとってささやかな、それでいて確かな、自信というか杖というか光というか、そんなものを藤沢さんにもたらしてくれたんじゃないかなと思う。


そして、ラスト、山添くんのモノローグ。
心にじんわり残っている。

藤沢さんと同じで、抱えているものが解決したわけではない。いまだにしんどいときはすごくしんどい。

山添くんはストーリー通してのポジティブな変化が顕著で、後半の山場では自ら自転車に乗り藤沢さんの忘れ物を届けに行くという姿を見せた。語弊のおそれはあるが「強くなって、人を助ける側になった」という印象が強い。

しかし、そんな彼の変化は藤沢さんあってのことだ。
彼もそれをわかっているから
「出会うことができてよかった」
と最後に言い置いたのだろう。

原作と違って藤沢さんが栗田科学を去るというラストにしたのはなぜだろうと気になっていた。この一言につながっていたのかなと、今では思う。

「出会うことができてよかった」

人と一緒に過ごした期間をシンプルにそう言えるのは、すごいことだ。

エンドロールも予想以上にシンプルでありのままで、最後まで夜明けのすべてらしくてよかった。
予告編で流れていたBGM、ここでくるかー、しかもこんなに静かに!と思った。

映画館では小説や予告編と比較しながら見がちだったけど、脚本や考察記事を読んだりPodcastの感想回を聴いたりして、改めてそのよさがじんわりとわかってきた。

夜明けのすべてに出会うことができて、よかった。


とりあえずラストまで。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
夜についてのメモについても、また別のnoteで語ります。
では、また。