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けんちん『5枚の写真から語る電気風呂文化』/都市のラス・メニーナス【第26回】

2020年から「路上観察の現在地を探る」として、いろいろな方をお招きして、その方が見ているものの魅力、また、どうしてそういう視点に至ったかなどを、片手袋研究家の石井公二編集者・都市鑑賞者の磯部祥行がお聞きしてきたトークイベント『都市のラス・メニーナス』主としてYouTubeで配信してきた。「ラス・メニーナス」とは、17世紀にベラスケスによって描かれた、見る人によってさまざまな解釈を生じさせる絵画。街も、人によって、まったく異なる見え方をしているはずだ。

現在、平井オープンボックスを会場として、毎月1回開催中。その第26回が2024年5月12日(日)に、けんちんさんをお招きして開催された。

中央がけんちんさん。左は磯部祥行、右は石井公二(写真=丸田祥三さん)

けんちんさんとは、いったいどんな方なのか。今回は「電気風呂」での登壇だが、石井さん曰く「5D」とその活動を括れるらしい。愛好しているものが、団地、電気風呂、ドムドムハンバーガー、道路、電車。その頭文字だ。磯部は団地の活動で認識していて、実際にお会いしたのは道路関係の寄り合いだった。けんちんさんは、そのどれもで、書籍やZINEの刊行、あるいはイベント開催をしている。

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いままでの「都市のラス・メニーナス」は「路上観察」、つまり屋外で見ることができるものだった。それが、今回は「建物の中」。それだけでなく「肉体的な体感」。それも「観察」なのだと思い知らされる回となった。

さっそく1枚目の写真。

壁についている白いプレートが電極板。その間に身体を入れるとピリピリするが、電気風呂とはそのピリピリを「楽しむ装置」だ。「楽しむ」とされているのは、薬機法方面の事情だ。けんちんさんは「この装置が銭湯に存在していることが奇跡」だという。薬機法方面の事情ということで、「入ってはならない人」は明記されている。それを突き詰めると、誰も入れなくなる。

けんちんさんが電気風呂に対する意識が変わったのは2005年くらい。腰を痛めたときに電気風呂に毎日入っていたところ、その痛みが消えたからだという(個人の感想です)。そうして楽しむこと12年が経った2017年ころ、「電気風呂は全部同じじゃない気がする」と思い始めた。電極板の形も、看板も、体感も、すべて異なる。

2枚目は、小西電機のラジエニアの看板。たいていは浴槽近くに掲示してあるが、脱衣所にある場合もある。書いてあるものを観察していくと、禁忌症状にいくつかのパターンがあり、後年になるほど増えていく。また、左上に「Wakagaeri(若返り)、最下部に「ラジエニア」と書いてある。Wakagaeriは機種名であって効能ではなく、「ラジエニア」はブランドではなくイメージワード、なんなら「ラジェニア」まである。

電気風呂の機械は、デジタル式の小西電機と水野通信工業(いずれも盛業中)、アナログ式の坂田電気工業所(すでに作っていない)がある。これは、その坂田だ。シリアルナンバーは1500代。男風呂・女風呂にそれぞれ二つずつある。けんちんさんは、入ってメーカーを当ててしまう。

これは水野通信工業の「揉兵衛(じゅうべえ)」の製造光景。ランニングコストは安いし壊れないので、銭湯の設備としては(ジェットバスやサウナなどと比べると)安い。

電気風呂が設置されている銭湯は関東では3分の1くらいだが、中部地方や関西では8割方の銭湯にあるという。なので、もっと普及してほしいというのがけんちんさんの願いだ。

これは980ヶ所目にして長崎県で初めて見た機種。長崎県は電極板などが異なることは気づいていた。現地で別メーカーを確認できたとのこと。

けんちんさんは、まだまだ訪ねたい電気風呂があるという。「沖永良部島と徳之島に、まだ見ぬ電気風呂がある」。また、製造メーカーの方から「種子島宇宙センターに納めた記録がある」と教えてもらったそうで、「そんなところに小林医療電機(なくなったメーカー名)が!?」と思うも銭湯はない。いったいどこに存在したのか。

けんちんさんの電気風呂探究はまだまだ続く。

トーク内で触れられていた電気風呂マップはこちら

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