スミマサノリ『5枚の写真で語る捨てられた椅子に座るシリーズ』/都市のラス・メニーナス【第28回】
2020年から「路上観察の現在地を探る」として、いろいろな方をお招きして、その方が見ているものの魅力、また、どうしてそういう視点に至ったかなどを、片手袋研究家の石井公二と編集者・都市鑑賞者の磯部祥行がお聞きしてきたトークイベント『都市のラス・メニーナス』。主としてYouTubeで配信してきた。「ラス・メニーナス」とは、17世紀にベラスケスによって描かれた、見る人によってさまざまな解釈を生じさせる絵画。街も、人によって、まったく異なる見え方をしているはずだ。
現在、平井オープンボックスを会場として、毎月1回開催中。その第28回が2024年7月8日(月)に、スミマサノリさんをお招きして開催された。いままでは日曜夜だったが、今回は平日夜の開催。
スミさんの肩書きは…という話から入るが、マルチなのでご自身は「ポエマー」としている。俳優としての活動(いまテレ朝深夜で放送中の『壁になりたいオタクのあたし。』があり、映像作家としての活動があり、デイリーポータルZの草創期からのライターであり、レシートで短歌や川柳を作るレシートポエム作家であり…。その活動の一つに「捨てられた椅子に座る」というシリーズがある。
今回のスミさんの「捨てられた椅子に座る」というご活動。一般的な路上観察は「見る/それを写真に撮る」人が多いと思うが、スミさんの場合は主体がご自身だ。「座る」という、路上のものへの介入である。このトークの2日前、7月6日に「2700脚」を達成した。それが上の写真だ。キリ番は正装している。そのときだけはプロの写真家さんに依頼して撮ってもらうが、普段は三脚を持ち歩いての自撮りだ。
冷静に考えると、2700を数えているのはすごい。石井は自分で撮った片手袋の写真は、本を書くときに数えたら18年で5000を超えているとのことだが、スミさんは2017年からで2700。思ったよりもずっと短い期間だし、そもそも椅子がそんなに捨てられているのも驚きだ。
1枚目の写真は、「記念すべき1枚目」だ。新宿で飲んだあと、ふざけて座って撮ったもの。しかし「次」はなかなか機会が訪れず、半年後だった。スミさんは「2枚目があるから続いている」という。その後、早朝散歩をするようになったら、一気に増えた。昼間だと、すでに粗大ゴミとして回収された後なので、「ない」のだ。なお、この写真は「寄り」だ。その後、周囲の状況を写し込める「引き」も同時に撮るように変化していく。
2枚目。これは捨てられたものではなく、バス停利用者が勝手に置いた椅子だ。行政としては見ぬ振りをするわけにはいかないが、置いた人の切実な訴えもまた重要だ。スミさんのこの投稿はさまざまな議論を呼んだ。そして、行政が動いた。すごいことだ。
3枚目。1000枚に達したとき、撮りためた写真を展示した。SNS投稿は「1点1点」だが、展示のときは「量」を感じることができる。
4枚目。ドラマ『姉ちゃんの恋人』に出演したとき、なんと「捨てられた椅子に座るのが趣味の役」が当て書きされた。ドラマ中にスマホで見せる椅子はドラマ用に撮影したものだし、あるシーンで使ったこの椅子たちは小道具なのでカウントには入れていない。
5枚目は海外で活動する人たち。昨年から、コロンビアで座る人が現れた。スミさんにコンタクトをとってきたという。英語で投稿しているわけでもないのに、どうやってスミさんを見つけたのか。世界的に見ても、2700件以上も投稿しているスミさんはダントツだ。海外では、お国柄が出ている気がする。
それぞれの写真を見ながら、「対象物が夢に出てくるか」「対象物の定義」「家族が報告してくるようになる」「対象物の元所有者にまつわる話」などに話が展開する。第26回のけんちんさんの「電気風呂」は対象物を身体で感じるものだったが、今回は自らが関わるもの。路上観察の「方法」、まだまだあるに違いない。
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