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しん・たま《短編・中編》

本シリーズは、心霊等、超常現象の表現を含みます。苦手な方はご注意ください。

まこっちゃんは、とにかく思い立つとそのあとの行動が早い。

二人は準備のために一旦それぞれの自宅へ戻り、駅のコンコースにて待ち合わせた。すでに目的地までの二人分の切符を買ってくれていた。いつものことながら手際がいい。そのままプラットフォームへ向かい列車に乗り込むことができた。

目的の駅に着くと、旅館から迎えの車が来ていた。
列車が近郊を抜けて、車窓から見える景色が単調な田園風景になるなり、僕はすっかり眠ってしまっていたが、どうやらまこっちゃんは、移動中にも連絡を取り、手配をしてくれていたようだ。さすがだ。
「こんにちは。お電話いただいた中島さんですよね!?遠いところ、ようこそいらっしゃいました。大和屋旅館ですー!」
「お迎えありがとうございます。突然無理を言ってすみませんでした。」
迎えに来てくれていたのは、自分たちより少し年上くらいの女性だった。
「いえいえ。日曜日のこの時間だと、泊りのお客さんたちもみな帰ったあとなのでぜんぜん大丈夫ですよ。さぁ、乗ってください。」
「ありがとうございます。」

二人は後部座席に乗り込んだ。三人掛けのシートだけど、まこっちゃんの荷物が思ったより大きく、少し窮屈になってしまった。
「さっきから気になっているんだけど、まこっちゃんの荷物大きくない?」
「いろいろとねー。一応、泊りの用意もしてきたし。」
「えーっ!泊りとか聞いてないし、用意してきてないよ。」
「キミは男なんだし、そのときはそのときで、どうとでもなるでしょ。」
合宿の下見なので、泊りの可能性を考えなかったのは僕のミスだけど、一言言ってくれてもいいのにと思いながら、窓の外に目をむけた。
あれ?でも、二人きりで泊りって、まこっちゃんは平気なのかな・・
「部屋はべつだよ。」
「と、とうぜんでしょ。」
見透かされたようなタイミングだったので、つい焦ってしまった。

「お客さんたち、ウチの紫雲の間が目当てなんだってね?」
・・・紫雲?
(おそらく、開かずの間のことだよ!)
まこっちゃんが耳打ちしてきた。
「実はそうなんです。ご迷惑でなければ少しだけ見せてもらえませんでしょうか?」
「迷惑ってことはないけどねー。私らはなーんにも感じないんだけどさー
敏感な人だと何かいるって思うらしいよ。座敷童子かなにかじゃないかって。今じゃちょっとしたウチの名物みたくなっちゃってるよ。」

「今晩、その部屋に泊まらせていただいても良いでしょうか?」
まこっちゃんは突然とんでもないことを言い出した。僕に何の相談もなく。

つづく