書評#6 大石哲之『コンサル一年目が学ぶこと』

わくわくタスクとして、大石哲之『コンサル一年目が学ぶこと』を読んだ。

コンサルという言葉自体は就活をしている友人や先輩から聞いたことがあったが、具体的にどのような業種かは全く知らなかったため、本書を読むにあたって軽くインターネットで下調べをした。

コンサルタントとは、クライアント企業の経営課題を明らかにし、課題解決のための戦略を立案・提言することによって企業の成長や業績改善を支援する仕事です。

Executive Link

なるほど、顧客である企業から依頼を受けてその経営課題を解決するというのがコンサルの業態らしい。ただ

本書は、決してコンサルティング会社に勤める人のためだけのものではありません。
読むだけで、
◎職業を問わず、業界を問わず、15年後にも役立つ普遍的なスキルを
◎社会人一年目で学ぶ基礎的なレベルから理解できるようになる本です。

「はじめに」より

とのことなので、どうやら下調べは不要だったようだ。
たしかにコンサルティング業の本質が、いち企業の経営課題を「外部」である人間(コンサルタント)が分析し、解決するというものであるという点を考えると、そこで役立つスキルとはおよそ業界内に留まるようなものでは成り立たないということは容易に推測できる。

本書を読み進めれば分かるが、コンサルで求められる仕事はおおまかに以下のステップに分けられそうである。

①企業から依頼を受ける
②どのような手法で経営課題を調査・分析するのかを提案する
③調査・分析したデータを報告する(中間報告)
④データに基づき、その解決法を示す

ここでの「提案」「報告」の相手は当然コンサル会社内部の人間ではなく顧客たる企業である。
ということは、コンサルティング業の本質は突き詰めれば企業とのコミュニケーションにあり、「内輪」で完結するようなスキルや手法などはまったく求められていないということである。
顧客との「共通言語」としてのスキルが重視される業界なのであれば、確かにそれはどの業界でも成り立つ"普遍的な"ものになると言えるだろう。

本書で語られるスキルは4項目に分かれている。

第1章 コンサル流話す技術
第2章 コンサル流思考術
第3章 コンサル流デスクワーク術
第4章 プロフェッショナル・ビジネスマインド

特に第1章・第2章で扱われたスキルが普遍的だと感じたので、自分の現状と照らし合わせてどのスキルを自分は持っており、どれを持っていないのかについて考察してみる。

私はまだ学生であり、金を稼ぐという意味での仕事はアルバイトしかしたことがない。
だが本書で語られたスキルが活きる場面とは必ずしも経済に縛られた仕事だけではない、と考える。端的に言えば、本書で扱われているのは
①「期限」があり、②「相手」がいる
タスク全般に役立つスキルだろう。
この2つに欠ける物事というのはおよそ趣味や(私的な)研究と呼ばれるものに違いない。

この2点を満足する自分の経験に照らし合わせながら、本書で語られた内容の中で気になったものをピックアップしていきたいと思う。

第1章 コンサル流話す技術 に関して

01 結論から話す

報告書はもちろん、日常のメールも、
話すときも、答えるときも、
会議の運営も、すべて、結論から。
PREPの型に沿って。

第1章 コンサル流話す技術

PREPとはPoint=結論、Reason=理由づけ、Example=具体例、Point=結論の繰り返しで締める という意見陳述の際のフォーマットのことである。
PREPという言葉は聞いたことがなかったものの、内容自体は学生時代に小論文や作文の授業でよく耳にしたものと同じである。
私も、例えばYes/Noで答えられる質問・議題に関してはまず旗幟を鮮明にし、そのあと理由づけを行うという習慣がついている。特に書き言葉ではこの傾向が顕著であるが、話し言葉でこれを実践できているかというとかなり怪しい。それでもYes/No形式の質問が飛んできた場合は、最初に自分の立場を明確にすることは行えている気はする。理由づけや具体例に関しては、結論を述べたあと、相手の表情を伺ってそれらを求めているかを確認してから話すようにしている。
これには相手が求めている必要十分な情報を渡すことで会話のラリーの回数を最低限にするという目的があり、第1章08「相手の期待値を把握する」にも繋がってくる内容だと思う。

ただし、人にものを教えるときには私は意図的にこのフォーマットを破っている。ものを教えるとは相手の知らないことを教えることを指す。
この場合結論を先に話してしまうと、相手が自分の持っている知識から私の伝えたいことと違う意味内容に早合点してしまい、あとの話を聞く集中力を損なってしまう可能性があると思っているからである。
人は「自分は既に知っている」と思ったことは何度も聞きたくない生き物である。
結論から話す癖がついていると、相手に思わぬ勘違いをさせる羽目になりかねない。
だから私は人にものを教える時は、まず相手がどこまで知っているかを話させるようにしている。
これは「会話のラリーを減らしたい」業務上の会話とは全く異なる。むしろラリーを増やすことによって自分と相手の脳を(擬似的に)同化していく、というのが指導の場では必要なことだと考える。

02 Talk Straight 端的に話す

Talk Straight=駆け引き抜きに、率直に、簡潔に、端的に話す

ここで語られているのは、上司の質問、特に自分にとって不都合な質問をされたときに率直に、正直に答えることの重要性である。
本書の例の一つを挙げると、たとえば任されたタスクの進捗が芳しくない場合。上司から進行度を問われたとき、自己弁護の理由づけではなく正直に結論のみを話すことを推奨している。

私は小さい頃から「言い訳するな」と口酸っぱく言われてきた。自己愛が強いからなのか、親や先生などから「できていないこと」を咎められると、すぐにできない理由を話し始めてしまうのだ。正直私は今でも「言い訳」という言葉があまり好きではない。「言い訳」と「理由」には本質的な違いはなく、単に相手にとって好ましい理由は正当な理由として扱われ、好ましくないものは言い訳と呼称されるだけだと考えている。
しかしその理由が相手にとって納得いくものなのかどうか、私が前もって分かるわけもない。
結果的に自分がより怒られることを防ぐための「適応」として、理由は問われるまで言わないということが、今ではようやくできるようになった。

ところで、Talk Straightにはもう一歩先の内容があるのではないかと私は考えている。
それは、「不都合な結果が起きると予期した段階で上司にその事実を伝える」ということである。
進捗を聞かれるということは、その時点で上司は業務の進行を危ぶんでいることに他ならない。そうなってしまってからではやはり遅いのだ。
自分の思い通りに進められていないことに気付いた時点でそのことを正直に伝える、というのもTalk Straightに含まれる重要な事柄だと私は考える。
そして、私はこれが相当苦手である。期限ギリギリになっても結局自分はタスクを完遂できるだろう、という過大な自信によって、期限を超過するまでそのことを伝えられない。これに関しては怒られるか怒られないかが問題なのではない。「期限を超過することを前もって伝える」ことで自身の能力が不足していることを認識するのが耐えられないのである。
これは社会に出る上で致命的な欠点である。学生の間に必ず完治させたい。

第2章 コンサル流思考術 に関して

10 「考え方を考える」という考え方

ここでは、課されたタスクをこなすにあたっていきなり作業を始めるのではなく、まずどのように進めたらタスクを完遂できるのか、「アプローチ」「考え方」「段取り」を考えることの重要性を説いている。

これは微視的には、大学入試の数学の勉強をするときに特に問われたスキルだと思う。

私は数学がとても苦手だった。高校3年の夏頃まで、センター模試で偏差値30を取ったこともあった。これではとても冬までには間に合わないと思い、自分の問題の解き方をまず見直す必要があると感じた。(これもひとつの「考え方を考える」アプローチであるし、むしろこちらが筆者の伝えたいことだとは思うが、今したいのはその話ではない)
そこで分かったのが、私は問題を解くときに、何がしたいのかも曖昧なまま盲目的に式変形をしているということだった。
おそらく「参考書でこういう操作をみたことがある」「少なくともこの操作は同値なので安心感が得られる」といった理由だっただろう。
しかしゴールを見据えられていないのに問題が解けるはずもない。私は、とりあえずは時間を度外視して、問題が求めていることが何なのか、そのためにどのような手順をとればいいのかをひたすら考えることにした。
結局自分の演習の量が足りない(=セオリーを知らない)ために解くまでには至らない問題も多かったが、この経験を通して、まず結論までの道筋を考えるという自分の思考法を確立することができた。

正直「考え方を考える」ためにはある程度の経験が必要で、初めての仕事にあたるのならば、第4章28 「師匠を見つける」で語られているように自分の信頼できる経験豊富な誰かと一緒にアプローチを模索するのが得策だと思う。
ただ、本節はあらゆる問題を解決するために本質的な内容だと感じた。

課題を分析し、アプローチの方法を考えるのを優先すること自体は自分の得意なことではあるとは思う。
しかし、それを期限までの時間軸に当てはめるということが私は極端に苦手である。よく考えなくても、そういった「計画性」が「考え方を考える」上で不可欠なことはわかる。
私には「完璧に物事を仕上げたい」という欲求があって、それゆえタスクを分割した各"小"タスクにどれほど時間がかかるのか、自分自身よく分かっていないのである。
この完璧主義をいかに打破できるのかが私にはかなり重要なことだと考えている。


私は本書のいわんとしていることは理解できる。しかしそれを実行するにあたって大きく欠如している部分があり、結局何もできないことが多いのだということが分かった。

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