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第9回 「ケツメイシ - さくら」の思ひ出

 風呂に入っていたときのことである。湯船に浸かり、はァ極楽極楽と、慣れぬ中学生活の疲れを癒していると、陰嚢に髪の毛が付着していることに気づいた。

「ハハハ、まるで陰毛のようではないか」

 と、笑いながら髪の毛を掴んで引っ張ってみると、毛の動きに連動して陰嚢も隆起し、毛と陰嚢の接点に痛みが走った。まるで陰毛のようではなく、果たしてそれは本物の陰毛であった。二次性徴の始まりである。

 こうしておれは性に目覚めてゆくわけだが、音楽に目覚める気配は一向になかった。おれは根が反知性的にできているので、音楽に対しては、

「ハイソでいけ好かない連中がやるようなコーショーな趣味だろ? 誰が聴くかバカッ!」

 という大いなる偏見を持っていた。同様に、文学などもコーショーでいけ好かない趣味と考え、嫌悪していた。アメリカに生まれていれば、バッファローの格好をして議事堂に乱入し、逮捕されていたかもしれない。

 最近では良質なJ-POPの良さも分かるようになってきたし、文学とやらも嗜めるようになってきたが、当時のおれを音楽に目覚めさせるには「普通に良い音楽」であるJ-POPではダメで、反知性的でお下劣なロック・ミュージックが必要だった。

 このように音楽に対して敵愾心を燃やし、流行歌をまったく知らないでいると、たまに困ったことが起こる。当時としては最先端のカリキュラムであったITの授業でのことである。

「今日はWordの使い方を学習するぞ~」
「よっしゃ、寿司打で鍛えたおれのタイピング・スキルを見せてやるぜ!」
「それじゃあ、みんなが好きな曲の歌詞を打ち込んでみよう~♪」
「死ねッ!!!!!!!」

 うーん、困った。音楽なんてクソみたいなもの、おれは一ミリも知らないぞ……。

「なあ、おかん。ITの授業で歌詞を打ち込まなあかんねんけど、なんか良い曲ない?」
「う~ん、それならケツメイシの『さくら』にしなさい! 良い曲よ!」
「よっしゃ!」

 こうしておれは、週に一回のITの授業で、ひたすら「さくら」の歌詞をタイピングすることとなったのである。

Week 1

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Week 2

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Week 3

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Week 4

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 こうしておれは無事、ITの課題を提出することができたのであった。
 ありがとう、ケツメイシ。

 おわり

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