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第3回 「きらきら星」の思ひ出

 第3回に取り上げるのは、「きらきら星」である。そう、「ドドソソララソ~」の、あれである。
 なぜ「きらきら星」なのかというと、幼稚園児の頃、ピアノスクールの発表会で披露した思い出の曲なのですな。
「へえ、ピアノなんて習っていたのか。以外だなァ。そんで幼稚園児の頃には、モーツァルトを弾き倒していたってわけね」
 違えよバーカ!!! 「きらきら星変奏曲」じゃなくてただの「きらきら星」だコノヤロウ!!! マジで右手だけのクソみたいに簡単なやつ!!!
 それに思い出っつっても楽しい思い出じゃなくてクソみたいな思い出だ!!! 死ね!!!
 ……さて、ちょうどここに当時のVTRがあるので、実際に演奏の様子を見てみよう。まあ、貴様ら愚民どもは見ることはできないがな。心の耳で聴くがよい!!!

「おお妻よ、我が息子の出番だぞ!」
「あらまあ、緊張しちゃって。大丈夫かしら」
「なあに、心配ないさ。なんたって、おれたちの息子だからな!」
山根少年、ペコリとお辞儀をし、椅子に座る。
「始まるぞ……!」
「(`・⊝・´;) ゴクリ……」
ド~ド~ラ~~~~♪
「……」
「……」
会場、静寂に包まれる。
「な、なあに。少し緊張しているだけさ」
「そ、そうよね」
山根少年、気を取り直し、再びピアノを弾く構え。
「始まるぞ……!」
「(`・⊝・´;) ゴクリ……」
ド~ド~ラ~~~~♪
「……」
「……」
会場、静寂に包まれる。
「息子よ、日本語には仏の顔も三度までということわざがあるぞ!」
「そうよ、いくら大慈大悲の仏様と雖も顔を三度撫づれば怒り心頭に発し仁恕を湛えた御尊顔も張眉怒目に歪むわ」
ドドソソララソ~ファファミミレレド~ソソファファミミレ~ソソファファミミレ~ドドソソララソ~ファファミミレレド~♪
「ほっ」
「ほっ」
「終わったよ~(^-^)」
「よ、よくやったな我が息子よ!」
「こ、今夜はあなたの好きなハンバーグよ!」
「わあい(#^.^#)」

~fin~

 当時は音楽というものに微塵も興味がなく、まったくと言っていいほどピアノの練習をしなかった。その結果が、この醜態である。
 せっかく音楽的な素養を身に着ける機会を親が与えてくれたというのに、おれはそれをドブに捨ててしまった。結局、右手だけの「きらきら星」さえまともに弾くことができぬまま、おれはピアノをやめた。
 その当然の報いとして、おれは音痴になった。どれくらい音痴かというと、中学の合唱コンクールの練習で、隣のクラスメイトから
「お前ぜんぶ音程一緒やんけwwwうけるwww」
 と嘲笑されたことがあるくらい音痴である。
 歌やギターの練習をするようになって、初めて自分に音感が絶望的にないことに気づくも、時はすでにお寿司。「あのときピアノを真面目にやっていれば……」と何度後悔したことか。

 しかし、最近になって、やはりおれはピアノの練習をしなくてよかったのだという事実に気づかされた。というのも、妻がクラシック音楽の訓練を徹底的に受けた優秀なピアニストだからである。
 もし、おれが中途半端にピアノの練習をしていて、あまつさえそれを妻と出会った軽音サークルのライブで披露していたら、どうなっていたことか!
「あらまあ! なんて下品なピアノなのかしら……」
 と、相手にもされなかっただろう。ピアノや難しい歌に挑戦せず、音を外したところで誰も気づかないマイナーな曲ばかりやっていたおかげで、今がある。
 いやァ、本当にピアノの練習をしなくてよかった!!!

おわり

※参考文献
『実例で学ぶ認知バイアス 第三巻』
本記事は同書の第十七章「認知的整合化 (Y氏のケース)」を元に作成した。

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