見出し画像

第7回 「ガガガSP - はじめて君としゃべった」の思ひ出

 本連載の主人公である山根少年は、未だ小学6年生。一向にロックに目覚める気配もなく、音楽との関わり合いはアニメソングだけという体たらくである。
 今回取り上げるのは、テレビ東京系アニメ『NARUTO -ナルト-』のタイアップ曲で、2005年1月~3月のエンディングテーマを飾った、ガガガSPの「はじめて君としゃべった」である。

 これはガガガSPの中でも、かなりシンプルでストレートな曲なので、音楽的に感動するということはなかったが、その歌詞にはえらく感動してしまった。おそらくこれが、我が人生において
「これってあたし!」
 と、心から共感した初めての曲になる。といっても、知らない人も多いだろうから、さっそく歌詞の中身を見てみることにしよう。

僕なんかがしゃべりかけたら迷惑に思うかな
そんな不安を抱えて勇気を出してみたよ

 あれ、もしかして、これっておれのこと……?

うまくしゃべれない僕の不器用な話
君は耳をそらさずにちゃんと聞いてくれたよ

 おれじゃん……

それだけで僕は浮かれてしまうのさ

 おれじゃん!!!!!!!!!!!!!

だけど君は僕なんて何とも思ってないよね
切ないよ

 切ない😭😭😭😭😭😭😭😭😭

だけど

 だけど?

はじめて君としゃべった 君は笑ってくれた
はじめて君としゃべれた 僕のこの言葉で

画像1

~完~

 音楽というのは、「愛」だの「感謝」だの、クソどうでもいい綺麗事を歌うものだとばかり思っていたので、まるでおれの心の中を覗いたかのような、おれの為だけに作られたかのような曲がこの世に存在するということに、仰天してしまった。
 おれは人の名前を呼ぶことができない病気である。
「うわ、初めて山根に名前を呼ばれた。びっくりした……」
 と、幾度も驚かれたことがあるくらい、おれは普段から人の名前を呼んでいない。人の名前を呼ばなくても済むように、肩を叩いて振り向かせるとか、相手の視界に入る位置に移動して気づいてもらうとか、人称代名詞を駆使した話術を磨くなど、創意工夫の毎日である。
「いや、普通に呼べばいいじゃん」
 と、おそらく99%の読者が異口同音に突っ込んだろうが、呼べないものは呼べないのだから仕方がない
 とにかく、おれにとって人に話かけるということは相当にハードルが高い。そのうえ
「わざわざ話しかけるということは、相手の貴重な人生の時間を割いてもらうということである。それをムダにするようなことがあってはならないし、話しかけるからには是が非でも相手を楽しませなければならない。果たしておれにそのような能力があるのだろうか……」
 と、考えてしまうので、余計に話しかけることができない。歌詞にある通り、基本的におれなんかが話しかけたら迷惑だろうと思っているので、自分から友達を遊びに誘うこともほとんどない。29年の人生で7回くらいしか友達を誘ったことがない。
 それでも歌詞にある通り、ときには勇気を出して話しかけてみる。そして歌詞にある通り、相手がおれの拙い話を耳をそらさず聴いてくれるだけで、
「やった、人とおしゃべりすることができたぞ(*^-^*)」
「話を嫌な顔をせずに聴いてくれたということは、相手に有益な時間を提供できたということであり、少なくとも先ほどの数分間、おれはこの世界に存在してもよかったというわけだ(*^-^*)」
 と、ホクホクの笑顔になり、その日はひねもす幸せな気分に包まれる。だが歌詞にある通り、話しかけるのにそのような勇気が必要であったことなど、相手は知る由もなく、なんとも思っていないわけだ。おれは会話の内容を生涯記憶するだろうが、相手は半年後には忘れているだろう。切ない。
 そんなおれの心に響きまくる曲、「はじめて君としゃべった」であるが、本当におれだけにしか響かない曲であれば、この曲は印税を100円くらいしか生み出さず、今ごろガガガSPは餓死しているはずである。ガガガSPが餓死していないということは、この歌詞に深く共感する者たちが、日本中に大勢いるということである。
 そして実際、近くにいた。小学校の卒業文集のアンケートを記入していたときのことである。
「好きな曲は? って項目あったやん。あれ、なににした?」
 と、同級生が話しかけてきた。当時はオレンジレンジの全盛期であり、「花」や「ロコローション」が上位を占めていた。おれは音楽に興味がなかったので、「花」とかにしとけばいいかと、適当に書いた記憶がある。
「そっか、『花』かあ。おれはガガガSPの『はじめて君としゃべった』にしたわ~。あれ、いい曲やし」
 いるやん! 同じやつ! 近くに!
 好きな曲に「はじめて君としゃべった」を挙げるということは、つまり自分は人付き合いが苦手で、人に話しかけるにも勇気を要する人間であるという告白である。なんなら、おれにこうして話しかけていること自体、そのような勇気の結果であるのかもしれない。
 これは人付き合いが苦手な者同士、新たな友情が芽生える予感!!!!!
 そして、おれが同級生にした返答は……

画像2

「あ、そう」

 これは過剰な自意識によりコミュニケーション不全に陥っている人間にありがちなことだが、彼らは碇シンジのように自分の承認の問題ばかり考えており、同じような苦悩を抱えている人間が自分以外にもいようとは、想像だにしないのである。
「みんなはオレンジレンジとかなのに、ガガガSPを選ぶのか。変わってんなあ」
 と、思っただけで、それ以上の感想を抱くことはなかった。そして、
「あ、そう」
 と、昭和天皇ばりの相槌を返し、話はそれで終わってしまった。この同級生とは、それ以上友情が深まることもなく、卒業してからは一度も連絡を取っていない。
 もしおれが、もう少しだけ他者へ関心を向けていたら、もっと違った関係性もあり得たのかもしれない。それはそれで、切ない。


本日の教訓

1.他者から承認されたいのなら、他者を承認することから始めよう!

2.他者を否定するのではなく、他者を肯定することから始めよう!

3.他者から愛されたいのなら、他者を愛することから始めよう!

4.愛と平和の輪を世界に広げよう!

5.憲法九条を守れ!!!!!!!(突然の左翼の乱入)


おわり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?