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R4 予備試験 再現答案 商法 A評価 

1 再現答案

第1 設問1
1 本件訴えは株主代表訴訟による責任追及の訴えである(会社法(以下略)847条1項、4項)。まず、Dの立場からは本件取引について、「役員等」たる「取締役」のA、B、Eに対して、423条1項に基づく任務懈怠責任を追及することが考えられる。
(1)本件取引は本件土地を倉庫建設のために購入するものであったが、実際にはより倉庫建設に適した別の土地があったのに、本件取引をするに至っているから、善管注意義務(330条、民法644条)違反があり「任務を怠った」と言えないか。
ア もっとも、甲社の商品を保管するための倉庫建設用の土地を購入するための本件取引は、甲社の実情に見合った専門的判断が要求される取引であり、経営判断の原則が妥当する。経営判断原則が適用される場合、結果的に損害が生じたからといって任務懈怠責任を認めると取締役の経営手腕に萎縮的効果をきたす。そこで、結果基準ではなく、通常の企業人を基準として①判断の基礎とした事情についての認識に不注意な誤りがあるかまたは②認識した事実を基礎とした意思決定の過程につき著しく不合理な点がある場合にのみ、任務懈怠が認められると解すべきである。
イ 本件取引を決定した過程においては、A B Eが出席した(369条1項)であろう甲会社の取締役会で、不動産会社からもたらされた倉庫建設のためのより適切な土地(以下「別土地」という)の方が円滑に商品を出荷できるという点で、買受ける予定であった本件土地よりも優れていること、それを踏まえて本件土地の購入は見送るべきことの確認がされていた。かかる事実を基礎とすれば、通常の企業人であれば会社の利益のために別土地を購入することが当然である。しかし、本件土地売買の見送りに納得しないCが、Aと対立するDと協調して動くと示唆したことで、C Dという発行済株式の過半数を超える株主が実質的に生まれてしまい現在の地位が危うくなるおそれを感じた取締役会は、CとDの協調を防ぐべく、本件取引の決定をしている。かかる意思決定は、取締役らが自らの保身のために会社の利益を無視しているからその過程に著しく不合理な点があるといえる。したがって、A B Eは善管注意義務に反し「任務を怠った」といえる。
(2)かかる任務懈怠「によって」、本来は、より適切な土地を買うべきだったという点で支払う必要がなかった本件土地の対価である2億円の「損害」が発生している。
 したがって、DはA B Eに対して423条1項に基づき2億円の損害賠償請求ができる。
2 また、本件取引は上述のようにCがDと協調して株主としての権利を行使しないようにすべく行われているから、A らは利益供与(120条)に基づく責任を負わないか。
(1)もっとも、本件取引は単に本件土地の売買であるから「株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与」をした(120条1項)とは言えないのではないか。
ア 同条の趣旨は、会社が株主の権利行使に影響を及ぼし、会社の健全な運営を阻害することを防ぐ点にある。そうすると会社側が、会社にとって望ましくない株主の権利行使を避けるために何人かに対価を供与する場合にもその趣旨が妥当し、「株主の...供与」をしたといえると解する。
イ A B Eは、本来、別土地の存在により本件取引は見送るべきであった。しかし、本件土地売買の見送りに納得しないCが、Aと対立するDと協調して動くと示唆したことで、C Dという発行済株式の過半数を超える株主が実質的に生まれてしまい現在の地位が危うくなるおそれを感じたため、本件土地の売買を決定している。そうすると、実質的にはCの権利行使を回避すべく、Cに対して本件土地の購入代金という対価を与えており、「株主の...供与」をしたといえる。
(2)そして甲社は「第一項の規定に違反して財産上の供与をした」ため、本件取引を決定したことで「利益の供与に関与した取締役」たるA B Eは甲社に対して「連帯して」供与した額である2億円についての支払い義務を負う(同条4項、会社法施行規則21条1号2号)。また、Cは「当該利益の供与を受けた者」として甲社に対して2億円の返還義務を負う(同条3項)。
 したがって、DはAらに対して利益供与に基づく損害賠償請求ができる。
第2 設問2
1 Aらの主張は以下である。本件訴えでは、「847条第1項」に基づく請求を「監査役設置会社」である甲社が受ける場合であるから「監査役」が甲社を代表することになる(386条2項1号)。すると、提訴「請求」(847条1項)の相手も監査役ということになる。しかし、本件提訴請求時点より前に、「監査役」のFが「子会社の取締役」に就任しているから兼任禁止規定(335条2項)より、当然に「監査役」の地位を退いている。したがって、本件提訴請求の相手方は「監査役」でないFに対して行われたものであり、386条2項1号の違法がある。では、かかる主張が認められるか。
2 まず、監査役と子会社取締役の兼任は禁止される(335条2項)ものの、監査役が完全子会社取締役に就任した場合に、当然に監査役を辞したことになるのか、それとも完全子会社取締役の就任が無効となり監査役の地位を続行するのかについては明文がないため、解釈問題となる。
(1)335条の趣旨は、子会社の経営が実質的な支配者である親会社に握られているため、親会社の監査役が子会社取締役に就任すると、子会社の利益を図る責務を負う子会社取締役が親会社に忖度し、十分な監査を行えなくなることを防止する点にある。そうすると、後者の考え方もありうる。もっとも、そもそも完全子会社ならば、その100%株主たる親会社の意向通りに子会社の人事は決まる(341条参照)から、兼任禁止規定に違反する状況になった場合に、従前の状態を回復させることには合理性がない。結局は親会社の望む通りの結果になるからである。そこで、完全親会社が監査役の子会社取締役への就任を望み、かかる監査役が承認した場合には、監査役の地位を辞したと解するのが相当である。
 そうすると、Fが完全子会社の取締役の就任を承認している以上、その時点で監査役の地位を辞していると解するのが相当であり、本件提訴請求の段階でFは甲社の「監査役」ではなくなっているため、会社の主張通り386条2項1号の違法があると思える。
(2)もっとも、かかる手続は内部的な手続きに過ぎず、また、本問では監査役退任の登記がなされたという事情もない。そうすると外部的にはFという不実の登記が消されていない状況であると思われる。かかる場合には外部からの信頼を保護すべきであり、911条2項(*908条2項と書きたかった)類推適用により、DにはFが監査役を退いたことをAらは対抗できないと解すべきである。したがって、Dとの関係では提訴請求の段階でもいまだFが監査役の地位にあると解すべきであり、386条2項1号違反はなく、本件訴えは適法である。以上
(2853字、78行)

2 追記

 一読したときに親会社監査役が子会社取締役になっているという短答で大頻出のよろしくない状況に気づき、出題ミスかと思いました。そしたらそれが論点でした。
 多くの方の再現を見ましたが、利益供与については規範を立てず、ふわっと当てはめている方が多いよう思えました。例えば「来週の総会では賛成してください」って大株主に100万円を渡したらそれは、大株主の権利行使に関する「利益の供与」の一典型例で争いがないですから、規範を立てるまでもなく当てはめればいいと思います。
 ですが本件は土地の売買です。『CがD側につくことを避けることを目的として、Cの気分を害さないようするために、土地売買が行われたから「利益の供与」にあたる』みたいな解答では、通常、土地売買は株主の権利行使に無関係であって、争いのない利益供与の典型例ではないのですから、「利益の供与」にあたることを説明したことになりません。
 『「利益の供与」とは〇〇を言い、CがD側につくことを避ける目的で、Cの気分を害さないようすべく行った本件土地売買は、〜(評価)であるから〇〇といえ、「利益の供与」にあたる』と論述して初めて、典型例でない土地売買が利益供与にあたることが示されます。そして〇〇を引っ張り出すのが条文解釈であるということですね。
 908条2項って書きたかったんですけど、だとしても登記がされてるかされていないかは問題文に書かれていないので絶対に正当筋ではないです。正当筋はアガの論証にあるやつだと思います(386条の趣旨の論証)。とにかく、「911条2項類推適用って、コイツ…ヤバイ」って感じで採点者が不快になっていないことを祈るばかりです。類推するならせめて直接適用ができないことを示したかったのですが、時間が足りず、できませんでした。それも心証を悪くさせうる原因になったかもしれません。


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