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入院日記2 病棟動物園(その2)

屁こき太郎

 二度の手術を経て一般の大部屋に戻って来たのは二度目の手術の一週間後のこと。この時にまずビックリする事があった。それは前回の入院時に同じ部屋にいた患者がまだいた事だ。この患者は声と態度がでかくて言葉も乱暴だったので最後は婦長に苦情を言って自分の退院を早めさせてもらった経緯からある。

 この人当時必ず一日一回はでかい音を立てて転倒し、そのたびに看護師を呼び来るまでの間世話をしていた事もあって気が気ではなかった。この患者このすぐ後で転院していった。もう二度とは会うこともなかろう(つか絶対に会いたくないし。)

 その人と他に2人患者がいたが僕の隣にいた一人は翌日手術のために転室、そこに入ってきたのは呼吸器関係の手術を終えて運ばれてきた患者だった。直接見たわけではないが入院も長いと動いている機械の音と巡診で来るドクターで何科の患者なのかわかる。E5は整形外科の他にも総合呼吸器科と皮膚科の病棟だった。

 呼吸器科関係の病気で咳が多く、咳の後機械が反応して動く音を聞いてこりゃ自分も大変だがこの人も大変。果たしてどっちが大変なんだろうと気にはかかっていた。ところがこの人、とにかく屁の回数が多い。しかも音を立てないようにだのといった心遣いがまるで感じられず、最初から最後まで豪快かつ大音量ときたから困った。呼吸器の疾患と屁との関係などわからないが、この遠慮のなさが気にかかった。以降この人のことをこっそりと「屁こき太郎」と呼ぶことにした。

 屁こき太郎の病状は横で聞いていても良いものではなく、かなり大がかりな処置なども施されていたようだ。咳も屁と同じくらいに頻繁になっていた。それでも屁だけは安定していてこれがどうにも我慢ならなかった。また多少元気になると明け方に荷物をゴソゴソさせたり、何か取り出して食べていたりと病室を病室とも思わぬ音の立て方をするようになってきた。

 食事の時でも屁は忘れず、食べるときもクチャクチャと音を立てる有様だ。とにかくあらゆる嫌な音を平気で発し、締めはゲップで終わる。また屁こき太郎は囁き声ができないのか、昼でも真夜中でも大音量で話をする。声のトーンも下げられない、声のボリュームも絞れないのかと呆れる。さらに看護師と話をしているのを時々聞くと「〜できない」のネガティブな自慢話がとにかく大好き。機械の操作がわからない。字が小さくて読めない。食事を全部は食べられない等に始まり、ラーメンをスープまで飲んだことがないだの、「〜できない」、「〜したことがない」、「考えたことがない」と言った類いのしょうもない自慢話ばかり聞かされとにかくイライラする。声は大きいので聞きたくなくても聞こえてしまう。

 この屁こき太郎以外の人達は入れ替わり立ち替わりも激しい。手術前日でやって来た人、手術が終わって退院まで数日間だけの人、いろんな人が出入りしていったが屁こき太郎だけは居座っていた。一番居なくなってほしい騒音のデパートがいつまでも居座っている

 しかも屁こき太郎は顔を合わせても挨拶するでもなく、睨みつけるのでこちらとしてもコミュニケーションが取りにくい。思った以上に煩わしいストレスメーカーがカーテンの向こうにいること自体がイライラの原因でもあった■

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