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遠い世界に

【療養日記2023 9月19日(火)】

 今日も変わり映えのない1日を過ごした。ウォーキングに出た時に今日は昨日までと違って湿度も低いし風も吹いていたので快適に歩けたと思う。明日か明後日くらいに雨が降ってその後は暑くはならないという話なのでじっと待つしかない。

 今日は火曜即売所の日でネギ、オクラ、ナスとニンニクを買った。他にも10月からのラジオ講座に備えてノートなどを買った。

 あとの事はいつもの事なので書く気にもならない。日々つまらないことの繰り返しでうんざりしている。


 今日は先日見逃したドキュメント72時間をNHK+で観た。今回は礼文島にあるユースホステルが紹介されていた。

 「桃岩荘」というそのユースホステル。自分も30年前に泊まったことがある。とにかく後々までいろんなネタとして話のできる宿だ。当時ユースホステルを時々利用していたがその名前は道外にまで伝わるほどの言ってしまえばその筋では誰もが知る宿で、北海道ではえりもユースホステルと双璧を成す変態宿として有名である。

 何がすごいかと言うと問答無用でアホにさせられるノリ。一般の常識では考えられない内容の濃さで圧倒される。

 僕がこの宿に泊まった時はこの宿独自の「桃岩タイム」と言って、港からの移動中、トンネルの中で時計を30分間進ませるルールがあった(港に戻る時は30分遅らせる)。館内の時計は悉く桃岩タイムに合わせられていて、それで館内スケジュールが進められていた。特に起床と就寝もこの桃岩タイムで進む。つまり5時起床なら実際の時刻は4時半の起床だし、10時就寝なら実際には9時半の就寝だ。

 そして1日の始まり、起床時間には館内に「石狩挽歌」が大音量で流れて強制的に朝4時半(桃岩タイム朝5時)に起こされる。

 このユースの最大の売りである礼文島を縦断する「愛と勇気の8時間コース」をはじめとし、やって来た宿泊客を出迎える儀式、帰る客を港まで見送り船が見えなくなるまで見送る儀式、毎晩行われる濃密なミーティングなど、30年経っても全く変わらない内容には少し驚いた。館内の様子もそうだし、変わったと言えば食事の提供がなくなったことと全館禁煙になった事くらいだろう。

 番組ではサラッとしか紹介されなかったが出船のシーンは自分も忘れられない。港に全員で隊列を作り出て行く船を大声で歌いながら見送る儀式がある。その時に歌うのが五つの赤い風船の「遠い世界に」だ。この歌はミーティングの時にもみんなで歌う。そして何度も「行ってらっしゃい」と「行ってきます」のやり取りを船が見えなくなるまで繰り返す。

 見送られる立場でもこの儀式は思い出深い。中には大泣きしながら大声で叫んでいる人もいるくらいだ。コレがあるからリピーターも多いのだろうと思う。多かれ少なかれ離島の宿では別れの儀式というものはあるものだが、一番感動して印象に残ったのは小笠原の父島だったかな。

 とにかくこの桃岩荘には歌と踊りがみんなとの間にあって、それを各自で上手に思い出に変えてゆくことのできる場所なのだろうと思う。側から見たらとにかくアホだ。アホなんだけどその真ん中に入ってしまえば誰に迷惑をかけるでもなく同じ楽しみを見ず知らずの同泊者とシェアできる。

 この番組を観ていて30年前のアホになった自分を思い出していた。できる事ならまたあんなアホになりに桃岩荘に帰りたい。しかし今はこんな身体になってしまってとても桃岩荘での時間は過ごせない。と言うのもこの宿はバリアフリーという面では全く配慮がない。

 ライダーだった頃北海道へ行く度に桃岩荘のある礼文島や利尻島(こちらにも思い出が多い)へのアプローチを試みたがなかなかうまくはいかなかった。そのうちある年北海道行き航路が押さえられず代わりに行ったのが四国で、そこで四国巡礼を始めたのだった。そして今に至る。

 まだ健康だった時にもう一度くらいは泊まりたかったなと今になってあの時を懐かしむ。もう二度とは行けない場所が最近段々と増えて来たように思える。そんな時心の中で若かった頃の自分が「遠い世界に」を歌いながら水平線の向こうを見つめているのを傍から見るような気持ちになる。温泉にも入れない、歩き回る事もできない。今の自分はもうある意味終わっている部分があり、それが徐々に増えていく事に怯えている■

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