棲む世界の違う動物(その1)
【入院日記3 2023年1月26日(木) 11日目 その2】
今回の入院は長期にわたらなかったことから我慢強く過ごしていたと思う。日中は歩いて歩いてストレス発散したし、実習生がつきっきりでケアしてくれた。それでも今回も残念ながらコイツはひどいよなと思う奴が数名いた。同じ部屋のものに限定して書き叩いてやろうと思う。でないとストレスが爆発しそうだ。ちょうど「入院日記2」の「病棟動物園」シリーズと同じものだと自分では思っている。(こちらがリンク。)
今回は入院期間も短かった事もあって前回ほどひどい奴とは遭遇しないと思っていたがそんな期待は裏切られる。
「こども返り極道ジジイ」
この日記でも事あるごとに書いた。もう二度とは会いたくない最低最悪の非常識ジジイ。まず僕がジジイと書くような奴は本当にジジイだ。自分よりも遙かに歳が上。そしてジジイと書く奴は老害の要素たっぷり。ハッキリ言ってしまえば老害ジジイなわけだ。
呼び名の通りこのジジイ、だいぶ子供返りが進んでいる。僕の隣が空いていた日の夕方くらいにいきなり運ばれてきてすぐに大声で駄々をこね始めた。何かの処置後と思われるが横で話を聞いて(否応なく)いるといい年こいたジジイが子供みたいに駄々をこねている。ナースの指示通りに動くのが痛いのか、
「痛くて動けない(でちゅ)」
とでも言いそうな勢いでイヤイヤをする。横で聞いているだけでもああもう人間は最後はこうなってしまうのかと愕然とした。
しばらくの間はナースとジジイの攻防が続く。ただ相当に痛いらしく動きたくないジジイの気持ちも考えねばならないところなのだろう。しかし、
「出来ないったら出来ない(でちゅ)」
「もう無理(でちゅ)」
「イタタタタ、助けて〜(くだちゃい)」
「ダメダメダメダメ(でちゅ)、これ以上動かせない(でちゅ)」
と、とにかくイヤイヤが激しい。始めのうちこそ相当痛いんだなと思っていたがそのうち一瞬の痛みを我慢すればなんとか事は解決するんじゃないのかとも思いはじめ、いつまで経ってもガキみたいに駄々をこねているだけだと気づいた。最後は4〜5人くらいのナースが動員される始末だ。ナースの方は「ここちょっと上に上げるだけで終わるから。」だとかもうちょっと下に下げればすぐよすぐ。」なんて感じで応対している。本当にちょっとのことなのかも知れない。しかしこのジジイにとっては一世一代の大博打と同じくらいのことなのかも知れない。聞いているうちに呆れてくると言うよりも面白く感じるくらいだった。
その後はあまりに騒々しく我慢も限界に達していたので部屋から出て行ったが、消灯時間になって部屋に戻るとすっかり落ち着いていた様子だった。しかし消灯後になってガサゴソと音を立てて煩い。これは他の人でも良くあることだがそのうちに何かを取り出して食べている様子。つい数時間前には痛くて身体が動かせず、イヤイヤをしてさんざっぱら「痛いでちゅ」と甘ったれていたのに人に迷惑をかけてまでモノ食っているその態度がまさにガキ化したジジイの「老害」そのものだ。
さらにコイツは消灯時間というものを心得ておらず、自分の都合で真夜中に起きては電気をつける始末。一時的に電気をつけるのはナースでもすることだが一番ひどかったのは4時前に電気をつけるとそのまま小一時間ほどつけっぱなし。しかもいびきも聞こえてくるくらい。大方電気をつけっぱなしにして寝落ちしたのだろう。これにはガマンできず電気を消せと言って消させた。しかしこのお陰で寝不足だったことは言うまでもない。
翌朝このジジイの風体を初めて見たがどう見てもカタギの人間ではなかった。派手で全くイケてない黒と赤が基調のヤンキー御用達のスウェット、金のネックレス、厳ついサングラス。どう見てもその筋の人間だ。そんな極道ジジイが前の日の夕方に
「痛くて動けないでちゅ」
「出来ないったら出来ないでちゅ」
「もう無理でちゅ」
「イタタタタ、助けてくだちゃい」
「ダメダメダメダメでちゅ、これ以上動かせないでちゅ」
これらのセリフが頭の中でリフレインする。しかし目の前には二目と見られぬダサいカッコした渡世人風のイケてない爺さんだった。品性の欠片もない。自分とは棲む世界が違う全く異種類の動物がそこにはいた。この衝撃たるや前の入院日記に登場する「屁こき太郎」や「ハゲ」ですら色褪せてしまう。
改めて書こう、人間はこれだけ下品になれるんだという生きたサンプル、それが今回のこども返り極道ジジイだ。こいつは僕の隣に一晩しかいなかったが、そのインパクトは絶大だった。こんな人間にはもう二度とはお目にかかれないことだと思う■
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