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入院日記2 病棟動物園(その5)

アニマル兄弟なんて序の口

 ざっと大部屋の同室の患者について書いてみたが、自分はまだこんな程度でぼやいているだけ幸せなのかも知れない。と言うのもデイルームへ行くとE5の患者だけでなく先にも書いたW5(隣の病棟)の患者もいて、こんなの同じ部屋にいたら嫌だなと思ってしまうような連中を見てきている。ひいき目に見てもW5はそれこそ魑魅魍魎界で変人ばかりが廊下でウロウロしているイメージしかない。

 E5(自分の病棟)には認知症の患者も結構多く、だいたいは個室に入れられて対応されるのだが、中には言葉ではコミュニケーションが取れない患者もいる。そして往々にして攻撃的になっている。こういうタイプのものは凶暴というのではなく「譫妄(せんもう)」という別の言葉が用いられるケースもあり、言うなれば譫妄は一種の突発的な病気と言ってもいい。ナースコールなんて機械は使わず絶叫で看護師を呼ぶ、たまに手術から戻ってくる患者がいると看護師側も夜通し罵られ殴られながら看病をしなければならず、その辛い現状を吐露してくれた看護師も数人居たくらいだ。吐露というか手当を受けているときについつい愚痴ってしまう感じだ。看護師が愚痴る程の現象なのにそのケースがやたらと多い。本当に看護師という職業の方には頭が上がらない。

 実際自分も個室に入っていたとき、個室が並ぶ廊下に雄叫びが響く。意味不明な言葉から助けて、連れて帰って、殺される、殺してやる、死ねなどという言葉が一晩中響き渡るのだ。

 最初の入院の時に書いた入院日記でも「狂った婆さん」なる人物がいたがE5には常にそういう類の患者がいる。個室に入ってもタイミングが悪いとこんな地獄の体験が待っていて、これが一週間以上続くこともある。そもそもその手の患者は一般病棟よりも個室にいることの方が多い。だから個室もいいことばかりではないのはよく知っている。

 しかしながらこれも看護師から聞いた話だが他所の階には脳神経外科患者のフロアがあってそっちはもっと賑やからしい。そしてこの病院、上に行けば行くほど大変なのだそうだ。最上階ともなると長期入院を要する外科の患者も多くて悲壮感漂っているらしい(あくまでも看護師の個人的感想)。

 そんな体験をしながらもやっぱりアニマル兄弟のアニマルアワーもやっぱり苦痛に感じるし、入院中心穏やかに居られるにはまずは自分の心の持ちようとたとえ嫌でも必要最低限のコミュニケーションは必要なんだなと感じる。たとえば先のアニマル兄弟でも屁こき太郎からは敵視されるような目でいつも見られるのに対し、ハゲはコンビニなどで出くわすとそれなりに挨拶はする。このそれなりの挨拶があるおかげであんなにうるさい患者でもまだ我慢しようという気持ちになる。片や屁こき太郎などは何かつまみ食いしてクチャクチャ音を立てているだけでも看護師に通報してやろうかと思うものだ。

 己の肉体的苦痛もあるというのに、こんなつまらない外的要因でさらに苦痛を背負うのも馬鹿馬鹿しい。真顔で文句や苦情を訴えれば婦長が飛んでくるかもしれないが、それで解決にはならないと思う。ならばせめて勝手に渾名くらいつけて話のネタにでもしなければやっていられない■

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