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自称エコロジスト、ナチュラリスト、詩人、そして百姓。 高齢者の仲間入りをした所です。 …

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自称エコロジスト、ナチュラリスト、詩人、そして百姓。 高齢者の仲間入りをした所です。 極めて遅筆、人間嫌い、孤独と自然を愛する変わり者、音楽と本があればとりあえず満足で、たまに山歩きをします。一応ベジタリアン。

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詩「春空」

堤を越えてひたひたと 毀れ出る 雪融けの水のように 当て所なく膨れ 拡散していく 春空 打ち仰げば 溢れ落ちる光の 飛び散る飛沫の 血潮に濡れた はるけき静けさ その果てに 萌木のように滲む涙を 君は見るだろうか

    • ミニ詩集 宇宙(そら)へ・亡き人への恋歌(詩八篇)

       氷のように 南の果ての海の底で 遥かなみなもを見上げる 名の無い魚に満たされた 孤独 降り積もる光の冷たさ中で 生まれ続ける海の氷の 小さな煌めきに映る 沈黙 いつか、鰭が翼に変わる時 躍り出た極南の空に 瞼のない眸は何を見るだろう 連なる蒼穹の 漲る輝きの中に 海よりもなお深く刻み込まれている 孤独 氷のように 生まれ続ける 宇宙(そら)の底の沈黙  僕は空を歩く 5月の朝 空に光は形をなし 僕は光の形踏み締め 空を歩く 足跡は新緑の木々に 萌え初めた木の

      • 詩「悲しみは2」

        また、時に悲しみは 驟雨の去った後の、大地を満たす潤いのように 足下から湧き出で 森々と湧き出で 道先を覆い 足跡を埋ずめ 茫漠と広がる海となる 海原には取り残された海氷に 北極熊が一匹、宇宙(そら)を仰ぐ 「いつものパイロットゴーグルを着けろ」 熊は言う 「今夜はきっと、良い風が吹く」 とうの昔に朽ちてしまった星の明かりが 燦々と降り注ぐ、この果てしない海原に

        • 詩「悲しみは」

          悲しみは 私の頭の上にだけ浮かぶ雨雲のように 逃げても 逃げても 逃げても 逃げても 何処までも追いかけてくる 驟雨のように私を襲い、打ち据える それで私は とっておきの守護神、二十四本骨七宝柄の雨傘を開くのだが 裏切り者の紅の傘は風を呼び 澄み切った夕空に舞い上がる 見知らぬ街の 決して手の届かない夕陽のように

        • 固定された記事

        詩「春空」

          ミニ詩集 四季・恋歌抄 (詩八篇)

          冬  さいわい 幸秘めたる銀杏一つ 水色の靴はいて さやかなる冬空に蹴り上げれば 冬空は密やかな樹蔭に罅割れて 私の心に哀しく沁みる されば、紫紺の靴はいて 真砂なす星原を 踏みしだき、噛みしだき 散る星屑のかそけき光の 消えゆく痛みを胸にかき抱き 私は、息が出来ない 春  春空 堤を越えてひたひたと 毀れ出る 雪融けの水のように 当て所なく膨れ 拡散していく 春空 打ち仰げば 溢れ落ちる光の 飛び散る飛沫の 血潮に濡れた はるけき静けさ その果てに 萌木の

          ミニ詩集 四季・恋歌抄 (詩八篇)

          詩「祈り」

          颱風の過ぎ去った空に 深く蒼い魂が眠る 微かに湿った北風の吹き寄せて 遥かな高みに描かれる筋雲 あふれる想いを吸い込んで 果てしなく膨らんでいく光の粒子 大地の中央に立てば 世界は無窮の翼を広げ、空へと羽搏く 届くことの無い祈りを かなうことの無い願いを 胸いっぱいにためて 私も空の螺旋を昇って行こう 深く蒼い魂のもとへ

          詩「祈り」

          詩「木立の向こうに」

          忘れられた杉の森には 大きな吐息だけが 言葉をなくし、闇に根を下ろし 佇んでいる 闇の中に穴を穿つ 艶やかな毛並みのもぐらのように 私は道なき森を ただ真っ直ぐに進む 木立の底に息を潜めている 氷のように湿った土は 盛り上がり、膨れ上がり、私を遮ろうとするが 私には見える 闇の先に零れ落ちる 赤い花弁のような、光の滴 それはもしかして 何時か私の掌の上で朽ちた、蝶の羽搏きの色 永遠の王の冠 それとも、干からびた私の脾臓だろうか

          詩「木立の向こうに」

          詩「贄(雪の朝)」

          雪が止む朝 日の出を待つ山影に 新雪の谷地は静かに目覚める 艶やかなベールを広げるように 無垢の雪原をしっとりと染めて 夜は大地へと身を潜め 初めての足跡が 夜の向こうからの道を辿る 雪に埋もれ 露になった世界の輪郭 薄明の空に浮かび上がる 黙契の朝 私は黒い衣を身に纏い 一人きりの贄となり 日の出を待つ山影に 時は青く凍てついたまま 夜の残していった輝きの種を 今、紅に染める

          詩「贄(雪の朝)」

          詩「永遠に」

          雪嵐が過ぎ去った朝に 世界は光の果てから溢れ出す 零れ落ちた目醒めの鼓動が 堅く凍てついた希望の律動が キリキリと キリキリと 空一杯に翼を広げる 僕は大空に 澄み切った銀の瞳を見上げ 瞳の中に重なる翼が 綻び、舞い落ちて 世界は再び 煌めきにうずもれる 肌を焦し、肉を削ぎ 脊椎にまで滲みとおる いつかの悲しみのように 晴れ晴れと、永遠に

          詩「永遠に」

          詩「星を探して」

          一つ深呼吸をしたら 黄昏の空を見上げながら 冬枯れた野中の一本道を下っていこう 西日を浴びて、輝く小径は一筋の刃だ 薄暮の谷に突き刺さり 薄明の空へ浮上する 道の向こうには取り残された桑の林が 白々と枯れた指の骨が ぼうぼうと伸びて空をつかもうとしている 道ばたには重なる落ち葉が 剥がれ落ちた皮膚のように張り付いて 踏みしめる足下に無数の亀裂が走る 刃の道を下っていけば 私もまた骨も皮膚も削ぎ落とされて 西日に浮かぶ陽炎のように揺らめく歩み 深呼吸をすれば むきだしの魂が

          詩「星を探して」

          詩「紅い眸」

          汐の退いた渚に一人 僕は遥かな時を佇んでいた 僕の佇む渚に 汐の戻ることは決して無い けれど かつて水平線であったところを 僕は見つめ続け 待ち続けていた そして 夕陽が沈む時 ひび割れた海原を紅の閃光が走る その度に、僕は憶うのだ 君を かつて紅に染まった 君の眸を 君の真紅の眸に映った 星夜を 星々の瞬きの 静けさを

          詩「紅い眸」

          詩「拒絶」

          厚い雲が押し寄せて来る 遥かな北の空から 移動する大陸の、幾万年の歩みのように 錆色の影が過って行く 色褪せた初冬の夕暮れを 荒野を流れる、海のように 私は漂う枯れ野の直中で 歩く程に大地に呑み込まれていく足を 投げ捨て、投げ捨て 溢れ出る拒絶 それは押し寄せる雲と 流れる影との間に 満ちていく静謐なリズム、その 果てしのない振幅の中に 果てしなく拡散する 私の真実 汲み尽せぬ、哀しみの愚かさ

          詩「拒絶」

          詩「墓所へ(七年目の朝)」

          樹々に生命は静かにまどろみ 佇む朝が耳をそばだてている 歩み出せば下草の揺らめきに 木漏れ日が紛れて、立ち昇る陽炎 緑葉に光を映し 溢れ出す新しい調べ ゆうべ野菊の花を捧げた山毛欅の木蔭に 今朝は何を手向けよう? 朝陽がたゆたう森の梢に 小鳥たちの影が隠れる 落葉の重なりを踏みしめれば 密やかなささめきが小径を逃げる 素知らぬ顔で 遥かな風は葉叢を揺らす   木々の隙間を滑るように 走り去るのは、それはもう君ではない だから 森を抜けて、私は帰ろう 木叢から溢れ出す朝陽

          詩「墓所へ(七年目の朝)」

          詩「盛夏の末」

          盛夏の末に 朱塗りの木戸は罅割れ 白木の椽は頽(くずお)れて 朽ちた朝の静けさが 錆びた檻のように、世界を重ねる 廃れたお宮の 打ち捨てられたかつての花園に 木漏れ陽の射すその片隅に 死に絶えた豹紋蝶の墓を盛れば 咲き残る百日紅の花陰に満ちていく 喪われた時の幻 はらはらと溢れ出る泉の翳り 浮かび上がる夢の残り香 走り去る幽かな鼓動 胸に当てた、掌の痛み 罅割れた木戸を揺らし 世界の檻を突き抜け 血濡れた小太刀のように墜ちてくる 悔恨の鍵 盛夏の末、錆びた葉蔭に 風が立

          詩「盛夏の末」

          詩「夕凪の空を」

          夕凪の空を 薄紙のように雲が広がる 深々と緑にうずもれた山里の 空と大地の間には 大暑の澱を厚く重ねたままに 澄み渡っていく、旧盆過ぎの夕暮れ 沸騰する蝉たちの歓声 乱舞する赤蜻蛉の羽搏き 凪を切り裂く百舌鳥の雄叫び 渦まく山野の喧噪の中で尚 澄み渡っていく夕暮れは 何も語らず 何も聴かず ただひたすら日々の欠片を 捨てられた歴史を 遥かな高みへ、積み上げていく そして夕凪の空を 薄紙のように雲は広がる 遠雷の微かな轟の 探し当てた小さな不安から 護るべきものを 確か

          詩「夕凪の空を」

          詩「夏の扉」

          萌黄の眼差しが揺れる 真夏の翳りの畔(ほとり)に 朽ちた祠の紛れるあわいに 錆びた鎖の崩れる先に 朱(あけ)の吐息が零れ落ちる 路の絶えた峠の 忘れられた神の袂(たもと)に 澱みに浮かぶ 苔むした巌(いわお)の扉に 陽溜まりに晒された静けさが 薄闇のように織り重なって 響き合う幽かな木霊 扉を開ける、虚空(そら)の呼び声 浅葱の微笑みが逃げる 散り乱れた夏の陽の眩さに 涼やかな山の輝きに 不意の夏葉の、ざわめきに

          詩「夏の扉」